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ヒーロー4


ズズズズ

…ドシャァァァ!!!


壁が崩れて大量の水が降ってきた。一体何が起きた?

滝のような水を頭から浴びてしっかり目が覚めた。休憩時間凡そ3分。

顔の水を手で拭って目を開けると、眼前に巨大な石の柱が何本も立っていた。ここはどこだ。ぐるりと見まわすと薄紫の小花の咲く丘は消え失せ、短草の平坦な草原に変わっていた。もう一度巨石の円環に視線を戻すと、石柱の前に母の姿があり、笑った気がする。

「来た!」ジョンが叫んだ。

悪霊は消えていなかった。

――― 穿て、氷柱!

ガッガッガッ!氷柱は悪霊の体を通り抜けて地面に突き刺さった。

「どうして!?」

ジョンが剣を振った。やっぱり空を切った。ジョンに悪霊の手が伸びた。

――― 広がれ、銀の鏡!

凍らない。どうして!?

ジョンの腕に悪霊が食いついた。ゥガァ。

やめて、お願い。ジョンは僕が連れてきた。僕にできることはもうないのか?もう?氷雪が駄目なら、

――― 焔

グワっと炎が上がり悪霊の体が燃えた。疲れ切っているせいで爆炎にはならなかった。

わからない、何故この魔法は効果がある?悪霊が火を恐れている。なぜ恐れる?わからないことばかりだ。

でも、魔力的にも体力的にも限界だ。ジョンが戦力にならないのが痛い。キャラ的にはこういう状況で活躍するのはジョンの方だ。魔法が使えたらいいのに。何故使えない?

血。魔法を使えるかどうかは、ほぼ遺伝で決まる。

「ジョン、剣を貸して。」

「何?」

「効果は一時的だと思う。でも、無いよりマシだ。」

メルトは剣の刃を右手で強く握った。突き刺す痛みが全身を走って、血が刃を伝った。

――― 清祓の火よ 焼き払え、焔

刃が炎を纏った。

ジョンは、驚きと後ろめたさと嬉しさで複雑な顔をしている。だから僕は笑った。

「ねぇ、あれ、いかにもじゃない?」

メルトはさっきまで母の姿があった石の円環を指さした。

「だな。」

僕たちは円環に向かった。剣はよく切れた。剣を振れば垂らした血は飛ぶ。炎は徐々に小さくなっていく。円環にたどり着くと中心に母がいた。

「母さま。」小さな声にしかならなかった。

母は微笑んだ。そして消える。

「待って。」

消えた場所には、簡易な十字架を墓碑にした墓のような土もりがあった。

消えた瞬間、石柱の間から、これまでとは比べものにならない数の悪霊が現れた。

剣の炎はもう消えている。もう一滴の気力もわかない。母に裏切られてジョンを殺してしまうのだと思うと、これ以上ない絶望的な気持になった。二人は中央に追い詰められた。

後ろ手に十字架が当たった。錆びたざらりとした感触とともに慣れた感触がした。よく見ると十字架らしきものは十字架ではなかった。

「これ、剣だよ。」

「抜いてくれと言わんばかりだな。」

ジョンは剣を引き抜いた。何かが切れるとは到底思えないほど錆びだらけの剣だった。試しに一振りすると、風は弧を描き悪霊を薙ぎ払った。言葉を失う。もう一度、今度は大きな弧を描いた。刃の動きに合わせて円環内の悪霊が霧散した。

「魔法の剣だ!」

円環の外に母が姿を現した。

「母さま!」

母はにっこり笑うと、まっすぐ来し方を指さした。「早く。」声は聞こえなかったがそう言った。馬がその方向に走り出す。

「待って、母さま。」円環の外に出ると、馬は霧の海に向かっていた。霧はゆっくりこちらに移動している。ただ来た時よりもだいぶ薄く見えた。

「異界の門が消えようとしているんだ、急げ!」ジョンがメルトの腕を引っ張って駆け出した。

メルトの頬を涙が伝った。母さまはやはり母さまだった。だったらせめて声を聞きたい、抱きしめられたい、母の匂いを胸いっぱいに嗅ぎたい。

「泣いてる暇はない。母ちゃんの望むことはお前がここに留まることじゃないだろう!」

僕はただ、こくこく頷いて、服で涙をぬぐった。母は霧の前で方向を変え二人から距離をとった。霧に飲まれる直前にメルトは母を振り返り大きく手を振った。バイバイ、バイバイ母さま。母もそっと手を振り返した。

 ジョンは霧の薄さを案じてひたすら足早に歩を進めた。僕の視界は涙のせいで来た時と変わらず悪かった。突然左腕を取られて左前に引っ張られた。僕の腕を握っているジョンも一緒に引っ張られた。霧から靄に出た。

「メルティ、見つけた!」マリアだ。

ピーと高い笛の音がして「保護対象確保!」という声が飛んだ。

「姉さま、どうしてここにいるの?」

「当然あなたを探していたからでしょ!」

前夜、公園の薪組に火が点ると霧は晴れた。リリスとヴィヴィは二人の姿がないことをすぐにタウンハウスに知らせ、タウンハウスはジョンの家に知らせた。ジョンの母親は「帰ってきたら、お友達を遅くまで連れ回すなときつく叱っておきますね。」で終わった。土地勘があり、体格のよいジョンが一緒なら迷子や誘拐の可能性は低く、すぐに見つかるものと思われた。ただ、異界の門の迷信が皆の頭によぎった。以前は迷信なんて鼻で笑っていたのに、メルトのおかげで・・・世界は豊になった。異界とは即ち死者の世界であり、不吉で、口に出す者はいなかった。夜明け前になっても二人は見つからず、マリアの中で迷信が確信に変わった。大切な物を失くした時は自分で探すのが一番信用できる。マリアは護衛を連れて外に出た。

「どうしてあなたは目を離すと直ぐにどこかへ行ってしまうのかしら。首に鈴をつけておいて正解だったわ。」

メルトが動くとリンリンと澄んだ音がする。(ずっと鳴っていましたが猫化しないようミュートがかかっています。)

心配をおかけし申し訳ありません。しゅんとした瞬間、上着の中で何かが落ちた。服の上から触ってみると心当たりのないものがあった。上着の裾を引っ張り出すと、ころんころんと石が二つ落ちた。

「割れちまったな。」

首を傾げるとジョンがメルトの首の革紐に指をひっかけて引き出した。ジョンの魔除けの首飾りだ。

「無事に帰って来られたのはこいつのおかげかもな。」ジョンが笑った。異界の門が開くのは一夜限り。既にお日様が顔を出して、公園の薪組は炭化しかけの木片になっていた。

「ジョンブラウン・グラハム。私は、メルティのことをよろしくお願いしたはずです。なんでこんなに酷い有様なのかしら?」

ジョンはマリアの強い口調にたじろぐ。

「違うよ姉さま。むしろ僕が巻き込んだんだ。ジョンはずっと僕を止めていた。」

「じゃぁ、あなたは何故年長者の忠告を聞かなかったの?」怒っている。

「えっと・・・母さまに会ったんだ。母さまが僕に魔法の特訓をしてくれた。それとジョンに剣をくれた。」

ジョンが錆び錆びの剣を見せると、ありえる?ありえない?マリアは一瞬葛藤して首を振った。

「そう、それはよかったわね。とりあえずその剣はこちらで研ぎに回しましょう。

さ、帰りましょう。」

そう言ってメルトの右手を掴んだ。痛い!辛うじて悲鳴を飲み込んだ。しかしマリアの手には血がついた。メアリがメルトの手首をぐいっとひねり上げたので観念して掌を開いた。

「僕、今回すごく頑張ったんだ。」涙目で怒らないでと訴える。でもそう上手くはいかない。

「ジョンブラウンこれはどういうことかしら?剣士ではないこの子が刀傷を負って、剣士になるはずのあなたが無傷。子爵のこの子がボロボロで、子爵の分家の倅が無傷。納得がいきません。しかも手は、この子にとって・・・」マリアが涙ぐんだ。

かつてない展開に戸惑う。涙を拭かなくちゃと思い、手を上げて、よけい汚してはいけないと手を下ろした。「心配かけてごめんなさい。」

「あとでみんなにたっぷり叱られればいいんだわ。さぁ帰りましょう。」護衛がメルトを抱きかかえた。

大きな体から顔だけだすと、護衛がジョンに付き添っているのが見えた。メルトは口パクで「またね」と言った。ジョンも「またな」と答えた。


石の円環は、この話から連想する宗教が盛んな時代より古い時代に作られています。利用はしたかもしれませんが、作ったのは彼らではありません。宗教についても全然忠実ではないのでお話として楽しんでください。

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