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世界の終わり

しんしんと寒い日に、母様は死んでしまった。

ベッドの上に横たわる人の、流れる髪は銀の川のようで、白い肌は雪のようで、細く見える体は実は筋肉が程よくついて均整がとれていた。

ものを言わなくなった母様は、まるで雪の女王様みたいだ。生前は、そんなことを思ったこともなかったけど。

「ルル、僕、独りぼっちになっちゃった。」

僕が蹲って、ズズッと鼻をすすると、隣に座る猫っぽい生き物が、僕に頭を擦り付けてきた。

『一人じゃないよ』そう言っている気がした。

「ルル、ルル、、、、、母様が、母様が、うっ、うっ」

ルルのモフモフの首に抱きついて、僕は思いっきり泣いた。



人が亡くなったら、お墓に埋めるんだ。火葬は母様の存在を全て消してしまうようで嫌だ。だから土葬にしたいけど、今の僕では、凍てついた大地に母様を埋めるだけの穴を掘ることが難しい。なにせ僕は5歳だから。

僕はゆらりと立ち上がると母様の傍に行き、冷たい手をとった。

「さよなら、母様」

そう呟いて大好きな母様の頬にキスをした。僕の口から、手から流れ出した冷気が母様の体を包み、氷がパキパキと這っていく。この地は寒い。僕が頑張って大きな氷の棺を作れば、母様は永遠に消えない。通年溶けない氷の棺は、どれほど厚く作ればいいのだろう。僕にはまだ母様ほどの力がない。だから時間がかかる。でも大丈夫。僕には時間がたくさんあるのだから。




「エイリス!!」

突然静寂を破ってドアが開いた。開くや否や、黒づくめの知らない男が入って来て、僕を見るなりフリーズした。この状況を見たら誰でも驚くだろう。

しくじった。棺作りに集中し過ぎていたようだ。僕は、ジャキン!と五指の間に氷柱を作った。

「おじさんは誰?」

ルルもグゥゥと唸っている。もしかしたら、もっとずっと前から唸っていたのかもしれない。

知らない男は、我に返って作り笑いを浮かべた。

「あ、あぁ、そうだね。私は決して怪しい者じゃない。」

自分で言っていておかしいと思ったのだろう。男はコホンと咳払いをした。

「私は、フェリクス・ブラックリリー公爵だ。君は、メルト君だね?私は君の遠い親戚なのだよ。エイリスから君を頼むと言われている。」

エイリスは母様の名前だ。

男は、ぐるっと室内を見渡して状況把握をすると、こちらに向かって手を差し出した。

「さぁ、私と一緒においで。」

怪しさの塊だろこれ。

「こんな貧乏人のところに公爵?おじさん、子供だからって馬鹿にしすぎだよ!さては僕を捕まえて売り飛ばすつもりだな!」

なにせ僕はかわいい。母様がいつもそう言っていたのだから間違いない。母様の子なんだから当然だ。

僕は氷柱を男の足元目掛けて放った。ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、氷柱が床に当たって砕け散る。

「うわぁ、おっ、おっと、」不審者は滑稽に後退った。

警告はした。今度は当てやる。僕が再度氷柱をつくると、不審者は慌ててドアを閉めた。

ガッ、ガッ、ガッ、パリン、パリン、パリン




「うーん、弱ったな。エイリスは何も話してないみたいだ。」

困惑して扉を見つめている中年男ことフェリクス・ブラックリリー公爵は、茶色にちかいブロンド髪に暖かそうな毛皮のコートを着て、全身から品の良さが滲みでている。少々疲れて見えるが、ここまで来るのに山越谷越え本当に大変だったのだから仕方がない。

「閣下、私めが、捕獲いたしましょうか。」騎士団長が見かねて言った。

「はぁ~。結構手強よ。だけど良好な関係を築きたいじゃないか。」

公爵は、もう一度特大のため息をつくと、扉越しに大きな声で話かけた。

「なぁ、メルト君。君は、メルト・リリー。子爵家令息だろ?リリー家はうちの支流で、ほら、家紋だって、うちと色違いだ。」

「馬鹿言え。うちが貴族なんてあるものか!家紋?そんなもの知るか!」

「えぇぇ!?そこから?エイリスの奴、信じられない。」

キャンキャンとよく吠える子犬は見ようによっては微笑ましいのだが、公爵は頭を抱えた。もうしゃがみ込みたい。

「あー、どうしたら信じてもらえるかな。あっ、そうだ、エイリスからの手紙がある。読んでみてくれないか?」

公爵はごそごそとドア下の隙間から封筒を差し込んだ。

「あー、読めるかな?読めなくても母親の筆跡くらいわかるだろう。あと、君の家に百合の模様はないだろうか?あー、百合の花は知っているだろうか?

あー、もう、エイリスの大馬鹿野郎。無責任。せめて私を紹介してから逝ってくれ。」


メルトは、さっと手紙をひったくった。

手紙には綺麗めな百合の花の模様があしらってあった。これはうちの墓石群に彫ってあるやつと同じだ。

そして「ブラックリリー公爵様」で始まり、中略、「メルトをあなたに託します。私とアドラーの最愛は、きっとリリーの役目を果たすはずです。あぁ神様、どうか、この子にリリーの加護を。フェリクス、この子のことをくれぐれもよろしくお願いします。敬具 エイリス・リリー」と、よく知った筆跡で書かれていた。

―――メルティにリリーの加護を。

母様は最期にそう言って、僕に加護魔法をかけて事切れた。

「か、かぁしゃま。」

駄目だ。せっかく止まった涙がまた湧いて来た。僕の涙腺はとっくの昔に壊れているよ。




ものすごく久しぶりに書きたくなりました。巷にあふれる異世界転生悪役令嬢ものです。私自身大好きで星の数ほど読みました。そろそろお腹いっぱいで、出尽くした感もあり、今更このジャンルを描いてみたいなんて正気か?と思いましたが、せっかく書きたくなったので書くことにします。

 ドラゴンソードはお土産屋さんでよく見るアレですが、不動明王の剣だと思えばカッコよく見えなくもない。異世界転生悪役令嬢ものに持ってこいだと思うのは私だけでしょうか。

 不定期更新で完走することを目指します。宜しくお願いします。

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