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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
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92 残念な男、アレフの恋?

 アレフは、モズ商会の商会長の孫で次期跡取りだ。父はお人よし過ぎて商会の切り盛りは重荷のようだ。アレフは学院を卒業後に王都で商売の勉強をして、25歳になった今年、東の領地に戻ってきた。


 背は高く細面の顔は母似で、父の様なお人よしの顔ではない。やや長めに切り揃えた栗色の髪が都会がえりを残している。ややきつめの目が笑うと途端に優しい目になる所が俺の魅力の一つだと言われた。表情の二面性が人の心をくすぐるらしい。


 東の領地では俺を知っている人は少ない。商会長の孫という色眼鏡に見られるのが嫌で、東に戻ってからは下積みから仕事を始めた。


 土地が変われば人も性質も違う。東部は飾り気がなく、真面目で実直の気質が強い。無駄なものに金を惜しんで、人に潤いや遊び心がない。東部を治める四公爵一つロッキング公爵家自体が岩より硬い。文武両道、質実剛健の家風で、現公爵も王都の監察官をしているくらいだ。


 そんな気質をアレフは好きでなかった。楽しくない。商売に楽しみが必要だ。王都には娯楽は山ほどある。母でさえ時々は王都に出かけて行き息抜きをする。王都は、娯楽も刺激も丁度良い場所。西は拘りがなさ過ぎて張りがない。東は海に面しているから交易が盛んで、他国からの香りが刺激的。北は、高い山と大森林に囲まれた観光地。南はグランド国の食糧庫で、農耕と畜産が盛ん。アレフには王都が丁度良い。


 しかし、いつまで遊んではいられない。父の弟、叔父が商会の副会長に座ったからだ。父は体を壊して仕事を一時退いた。俺に何も言わないから慌てて戻ってきた。叔父は父と違ってやり手の商人だ。顔もキリリとして、商会長の祖父によく似ている。


「なんだ、戻ってきたのか?遊び足りないなら王都に戻っていいぞ」


 叔父に言われて気が付いた。俺は知らないうちにオズ商会の孫という忖度を受けて王都で仕事をしていた。確かに仕事は楽だし給金は良かった。商売なんて難しくない。仕事が出来ない父が情けないと思ったこともあった。


「一から仕事を学びたい。下働きからお願いします」


 叔父の前で深く頭を下げた。ほとんど王都にいたので、アレフの顔を知っている者はいない。アレフさんでなくアレフと呼ばれ、朝早くから仕事が始まる。


 王都では掃除などしたことがなかった。店の前を掃くのも一度では認められない。埃を立てるな。人に向けるな。埃がひどいときは水を撒け。こんな初歩から学んでいかなければならない。雑巾なんて持ったことがなかった。ただ拭くだけだと思っていたら、ぴしゃりと手を叩かれた。雑巾で拭く前に絞り方、たたみ方、拭く順番、水洗いに干し方まで教えて貰わなければ何もできなかった。


 アレフの王都での時間は無駄だったのかと思うこともある。それでも商売以外のことは、王都でしか経験できなかった。若い時の経験はいつか役に立つと思うことにした。下働きから事務仕事に上がった。その後店先に出るようになった。


 すべて整えられたうえで仕事をするのと違い、仕事の側面、裏の事情まで知る機会がいかに大事かアレフは知ることになった。仕事に慣れた頃に店先に白い犬と猫が現れた。


 主人に代わり商品を届けに来ていた。従魔登録されているらしい。そんな賢い従魔など見たことがない。触ろうとすると嫌そうに身をひるがえした。


「ライさんのとこの従魔はやたらに触るな。あそこの犬と猫はきっと普通の犬、猫じゃない。あの二匹はライさんとともに有名だから、襲ったら街の人に袋叩きだな」


 リチャットさんが言うなら本当だ。休みの日に後をつけてみた。うちばかりか商業ギルドや冒険者ギルドまで従魔だけで納品している。うちと同じように手紙まで受け取っている。途中、猫にぎろりと睨まれたような気がした。


 リチャットさんに手紙を頼まれた時は小躍りした。どんな主人なのかと楽しみだった。動物使いなら男だろう。ライという名からして線の細い神経質な男と思った。


 訪れた家はすべての想像を打ち消すほどに可愛い造りだった。そんな家の戸を叩くと、女の子が顔を出した。思わず「お父さんいますか」と言いそうになった。


 女の子の横にあの時の猫と犬がいた。まるで他者から彼女を守るように。頼まれた手紙と袋を渡せば、いつものことと受け取ってくれた。


 彼女の家の中はとてもきれいに片付いていた。壁の飾り棚には可愛い木の人形が並んでいた。人形の中にはあの犬と猫もいる。ほかのはなんだ?、、、側に行って見たいという思いをぐっと抑えた。


「今朝作ったパンです。食べてみてください」


 戸口で手渡された袋から漂う美味しそうなパンの匂い。手にはパンができたてだと分かる温かさを感じた。思わず小走りに持ち帰った。リチャットさんに報告すればすぐにお茶を入れみんなで食べた。


「凄く美味しい。肉パンはお腹にたまって力が出そうだ」

「こちらの果物パンは凄くおしゃれで甘いの。カフェの商品でもいいほどのできよ」


 女性に人気で俺は果物パンを食べることが出来なかった。凄く残念だった。王都にはこの地にないお菓子やカフェの商品があると自負していたのに。この間食べたパンケーキとアイスは最高だった。このパンはそれを上回る。このレシピはと聞けば登録してあるか調べないと分からないと言われた。


 彼女は自作の料理を登録しているけど、次から次と作り出しているから登録なんて気にしていないようだ。なんてもったいない、暢気だなと言えばリチャットさんは自慢げに教えてくれた。


「彼女は料理のレシピ登録など気にしていない。それよりももっと大きな登録しているから」


 アレフはそれから彼女のことを調べた。孤児であること、薬師で錬金薬も作れる、ぐらいしか分からなかった。その間も彼女の所を訪れる。毎回、返信の手紙を待っている間、お茶に呼ばれた。自分が座るソファーの前に座ってる猫の圧は強い。怖いがお菓子は美味しい。すべて手作りだ。


 薬師で仕事が出来て、登録収入が多い。若いし、可愛い。料理が上手で笑顔がいい。さらに家持ち。怖い猫と犬は、、、どうにでもなるか。


 アレフは王都では多少はもてていたと自負している。深い付き合いをしたいと思った女性はいなかったが、連れ遊ぶ相手に不足したことはない。

 彼女とはもう何回もあってる。いつも笑顔を向けてくれるし、お礼の言葉を何回も貰っている。お土産だって添えてくれる。彼女だってきっと俺に対して、好意がある。ここは、男の俺から行くべきだ。


 女性は花ことばに敏感だ。こういう時は、花でなく華だ。庭には小花が多い。それなら大輪の赤いバラを送ろう。


『バラを1本一目ぼれ』

『2本、この世であなたと私二人』

『3本、愛しています』

『4本、死ぬまで気持ちは変わらない』

『5本、君に出会えてよかった』

『6本、君に夢中』

『7本、ひそやかに思っています』

『12本、わたしと付き合ってください』

最後に『108本、結婚してください』を送ろう。


 そう決意をして、赤いバラを1本持っていったら、彼女は留守だった。家の人に預けた。また数日後に納品予定の薬を取りに行く時、2本の赤いバラを届けた。彼女は顔を出さなかったけど、開けた扉の奥に赤いバラが瑞々しくかざってあった。彼女は喜んでくれていると確信した。


 定期的に商品を取りに行くが、最近彼女はいない。商品は家の人が手渡してくれる。そのついでに赤いバラも受け取っていた。


 彼女の代わりなのに受け取ってくれる人はいつも嬉しそうにバラを受け取ってくれていた。バラの香りを幸せそうにかいでいた。12本目の時は直接渡そうとしたら彼女は薬師の仕事で、しばらく家を留守にしていると言われた。


 アレフは6本目のバラの思いが伝わっているか聞く勇気がなかった。毎回赤いバラを受け取る女性は今日も、嬉しそうにバラを受け取ろうとしていた。もしかしたら僕の思いは肉パンの彼女に伝わっていないかもしれない。


 赤いバラを欲しそうに見つめる女性。12本の赤いバラをアレフは背に隠した。バラは手渡さずに戸を背にした。戸口でとても残念そうに、受け取れないバラを見てる人がいる。アレフは一度も振り返らず店に戻った。


 アレフの思いは何処に行ったのか考えるのが怖い。ただ分かったことは、肉パンの彼女は何も知らない。


「アレフ、しばらくライさんの所はお休みだ。ライさんは熱病の治療に参加して、住み込みで仕事をしている。モズ商会も協力しないとな。商会長と話してくる」


 俺の耳に驚きの報告だった。俺が浮かれてバラの花を送っている時に、ライさんは患者と向き合っていた。俺はなんて情けないことをしたのか。今からバラを回収したい。一本目のバラがまだ奇麗に咲いていた。バラはどのくらいで枯れるんだ。


 花屋に聞いたら暖かい季節なら7日もしないうちに枯れるらしい。それなのに俺のバラは10日たっても枯れてはいない。俺の邪な思いがバラを長持ちさせているのか分からなくなった。


 ライさんの所に出向かなくなって、三月が経った。高熱病という昔大災害を起こした病気の収束を知った。叔父に聞いたら、画期的な治療法が分かったとだけ伝えられた。モズ商会は、患者の移動の馬車、御者、回復後の患者支援をしたらしい。


 目先の利益ではなく、東の領地全体を見る視点が俺にはない。俺には赤いバラはまだ早かった。叔父の元、まだまだ学ぶことが多いと実感した。アレフの赤いバラの君はもとから存在していなかったようだ。

誤字脱字報告ありがとうございます。

明日からお休みします。次回は6月14日から再開します。

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― 新着の感想 ―
初めまして、半分まで一気読みしました。お話は面白いです。ただ誤字・誤表記が多い。完結済みだからもう訂正はしないのですか?『モズ商店』がオズ商店になってたり、叔母様を伯母様と書き損じている所ががまだある…
熱病エピソードで、終息、収束の表記揺れがあります。
[良い点] 毎日の更新お疲れ様でした、ありがとうございました。 ライ、その周りの人達の今後が気になりますが楽しみに更新お待ちしてます。 オズの妹ちゃんお名前次には決まるのかな。
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