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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
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91 大人の慰労会

視点がコロコロ変わります。

読みとばし可能です。

 最高齢の元薬師ギルド長レビントレノさんの声掛けで高熱病に関わった者が集まることになった。慰労を兼ねての酒飲み会みたいなもの。集中治療の患者に死者は出なかった。最高の結果だった。


 高熱病が収束したのち、各々は論文作成、発表、各ギルドの報告書、事後処理と忙しく働いた。皆が集まれたのは高熱病の終息後半年が過ぎていた。


 「アーツさんとハイラさん、素晴らしい論文でした。40年前の大災害が、今回少人数の被害で済んだ。さらに治療方法まで発見されるなんて」

「「そうですよ。画期的です」」

「「素晴らしい」」


「叙勲されるかもしれませんね」

皆の誉め言葉にアーツは苦笑いをした。


「叙勲を受けるなら僕ではない」

「ハイラさんですか?」

「いえ、違います。わたしは治療師として仕事をしただけです」

「・・・・・」


「アーツさんもハイラさんも十分評価される仕事でした。ここに集まった人は知らない方もあるでしょう。今回高熱病の治療のきっかけをくれた人物がいるのです」

「レビントレノさん、あの子は名を出すのを嫌がる」


「分かっています。アーツさんよりちょっとだけ長い付き合いです。ただ、大きな功績が評価されるのは当たり前です。でも大きな功績に至るには、多くの人の小さな力があったことを分かって欲しい」


元薬師ギルド長のレビントレノさんは話し始めた。


「40年前、高名な薬師が薬草を求め村から村に、まだ若い弟子を連れて旅をした。若い弟子は師匠の世話をしながら自分の勉強のために日誌を書いていた。天気や村の様子、薬草の詳細、調薬のこと、その中で熱病で死人の多い村と少ない村があったと記録していた。


 数十冊に及ぶ記録の中の数行を読み込んだ者がいた。その者は辺境の村に定住した薬師に調剤の手ほどきを受けた。しかし、一年も満たないうちに薬師のもとを離れ生きて行くことになった。薬師の死後、遺品として本や日誌を譲り受けた。数年後、薬師の免許を取り、若いながらも堅実な腕を持つようになった。


 その者がアス草の異常繁殖から、日誌の記録を思い出したのが始まりだった。商業ギルドのアルケラは父親を40年前の熱病でなくしていた。彼は父親の様子や使用人の感染を気にかけていた。それが異常繫殖アス草の軽微毒の発見につながった。


 商業ギルドと薬師ギルドの迅速な毒草と毒入り薬の回収。薬や薬草の詳細鑑定、治療場所の提供、これが出来なければ高熱病の悪化は免れなかった。冒険者ギルドの森の立ち入り禁止の決断は新しい患者の増加を防いでくれた。薬師ギルドは品切れにならぬよう熱さましの薬を作り必要に応じて各種ポーションの作成した。


 公爵様の一声で集中治療と管理の実施。柔軟な考えを持つアーツとハイラの参加。そして多くの人の協力があっての結果だった」


「初めてレビントレノさんに医師として声を掛けられた時は驚きました。自分の使っている薬が毒だとは思いませんでしたから。詳細鑑定があって初めて毒を知りました。錬金薬は普通の鑑定でも分かるくらい毒の濃度が上がっていました。40年前なら知る由もなかったでしょう。


 高熱が出れば、すぐに薬を飲む。下がらなければ続けて薬を飲むなど当たり前にしていました。しかもこの毒が意識を低下させることで、治療を困難にしていた。毒が原因と分かれば治療方法が大きく変わる。わたしは不謹慎だが、新しいことを知ることに胸が高鳴りました」


「分かりますアーツさん。わたしは医師の補助程度で参加したのです。しかし高熱でも食事が取れていた者が意識低下を起こした時、魔力低下を指摘され魔力量を測定しました。


 水晶玉が赤い字で魔力量低下を示したのです。水晶を持つ手が震えました。だってもう熱病の悪化の原因も治療方法も確立したと思っていた時ですから」


「ハイラさんもそうだったか?私も横で漏れ聞いたとき驚きました。わたしも医師として9割かた仕事が終わっていたと思っていました。まさか熱が下がり始めてからの意識低下は予想外でした。


 だって毒草は何も使っていないからです。実際、魔力ポーションを飲ませれば、魔力枯渇と同じように回復していったのです。自分が医師として未熟だと思いました」


「アーツさんだけではない。治癒の兆しが表れた時こそ一番注意が必要。よく言われる,『 治りかけが肝心 』ついつい忙しさにかまけ忘れてしまいました」


医師のアーツと治療師のハイラはその時の話で盛り上がってしまった。


「皆さんは泊まり込みだったんですよね。よく高熱病がうつらなかったですね」

「それが、快適だったんです」


「メデェソン、何で知ってる?」

「お父さんがいないとき、夜にポーションや薬を届けに行ったんです。そしたら食事は出る、風呂に入れる、清潔な部屋で休憩ができるのに驚きました」


「食事に、風呂?」

「商業ギルドが提供した屋敷が、もともと富豪の別宅だったのです。それなりに古く取り壊し予定でした。それでも屋敷は上手く使えたんです」


「患者以外が発病しないようあの屋敷内では。必ず食事をとり風呂でかけ浴をして自身の汚れを落とし、休憩をとると決まっていた。あれ?誰が決めた?」


「あの子だろう。あの子は患者に毎日朝夕、クリーン掛けていた」


「やっぱり、汗でびしょびしょなのに患者は汗臭くなかったからな。大概病人は北側の日の当たらないじめじめした部屋にいる。今回は一番日当たりの良く、風通しの良い部屋だった。寝台の並べ方も変わっていた」


「ああそうだった。俺はもう、寝台が並んだ頃に入った。中央で記録するのも全体を見るのも見やすかった」


「どうしても病人や寝ついた年寄りを人目から隠すから・・。そのせいで治りが悪いのか?」


「それは分からないけど、人目に付くからきれいにする?患者本人も前向きになるのかもしれない」


「食事の中でもコメの濃い目のスープに野菜や肉が入っているのが美味しかった。疲れていても体に負担がない。それに新鮮な果物が甘くて美味しい」


「アルケラが届けてくれたのか?」

「いや違う。あれはカール男爵からというよりその妹のミリエッタ様からだ。料理補助から洗濯、掃除まで男の俺では気が付かない所を助けてもらった」


「ミリエッタ様はドレス工房の? たしか慈善活動をしている」

「そうなんだよ。公爵が視察に来た時も一緒に来ていた」


「すごく奇麗な人だけど、ひっつめ髪にして地味な格好してた。今にも働きそうだった」

「あの子の知り合いじゃないか?随分心配していた」


「ところで、公爵様の所は大変らしい」

「熱病じゃなくて?」


「そうなんだよ。聞いた話では、妻二人が公爵邸から居なくなったらしい」

「「「「「 えっ 」」」」」


静まり返る会場。みんなが耳をそばだてる。


「俺の知り合いが第二夫人の実家に働きに出ているんだけど、髪の毛が茶色い子供を連れて戻ってきたと言っていた」

「そうそう、若いころから凄い癇癪持ちだ」


「茶色い髪って、公爵の色じゃないんじゃないか」

「しー、声がでかい。そうなんだよ。でも、子供は生まれて半年だろ?」


「生まれた時と髪色が違う?分かんねえな」

「ともかく、離婚されたらしいから、公爵の子でなかったんだと思うよ」


「それなら離婚は仕方ないか」

「ローズ様がなぜ?」


「最初のお子が、、3歳か。お披露目前だけど男の子だよな」

「あまり耳にしないけど、確か3歳だ。確か二人目授かったって言ってなかったか?」


「そうそう、第二夫人の子と同年のはずだ」

「それなのに、なんで屋敷を出て行った?公爵が浮気したか?」


「お前じゃあるまいし。石より硬い公爵に岩より硬い執事のストロングさんが付いていて、浮気など出来ないだろう」

「それは言える。浮気などしたらストロングさんに一刀両断だぞ。あの人凄いんだから」


「じゃー何だよ」

「知らねーよ」

あちこちで自論のお披露目が始まった。


「今日は熱病の慰労会。美味しい酒と料理があるのに無粋な話はなし。飲んで食べて、話して交流を深めよう」

「それもそうだ。貴族のことは分からないからな」


「この酒美味いぞ」

「良い仕事の後に飲む酒はすこぶる美味いんだ」

「「「うん、ううん」」


 酒も進みまとまりのない話があちこちで花が咲く。夜遅くまで騒いで高熱病の収束を皆で祝った。 

誤字脱字報告ありがとうございます。

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