第十九話
テ号作戦が中々終わらなくて、いつの間にか天魔が海魔になっています(汗)
それでも米海軍第68任務部隊と帝国海軍前衛警戒隊の死闘を渾身の描写で描きました(当社比)。
もう少しお付き合い下さい。
第十九話
第十二斉射が敵艦隊の先頭を行く戦艦を捉えたとの報告が有った時、第68任務部隊司令のメリル少将は喜色と言うには些か苦い表情でそれを聞いたと言われている。
戦後に公開された公式記録によるとメリル少将はその報告に対して、
「敵を挟叉するのに十二射も必要だったか、やはり訓練と実戦は別物だな。」
と感想を漏らしたとされ。それを聞いたモントピリア艦長のレイトン・ウッド大佐は司令に対して、
「申し訳ありません、やはり実戦は訓練とは些か勝手が違うようで、着弾後の射撃データの修正に思っていた以上に時間が掛かったようです。」
そう、乗組員を代表して謝罪と弁明を試みたと記されている。
ウッド艦長の言葉に対してメリル少将はやや苦笑気味の笑みを浮かべながら彼の特徴である快活な口調で、
「いや、艦長や乗組員を責めるつもりは無いよ。こっちは実戦投入を一ヶ月も早めたんだ、それにやっている事は過去に例が無いことだからね。」
と言いながらもメリル少将は現状には満足していない様子で、戦闘の推移を記してあるアクリル板の書き込みを注視していたと言う。訓練時には大体七から八射で挟叉弾を得ていたが今回は想像以上に手間が掛かってしまった、そこが不満であったらしい。
「やはり今のレーダーでは、距離データは確かだが方位データは細かいところになると今ひとつ信頼性に欠けるか、まあそこは実際の着弾から照準の修正として・・・。」
手法としてレーダーを用いた射撃の方法は確立されたわけでは無い、ここは現場で経験を積み上げてその手法を築き上げる他になかった、と後にメリル少将は語っている。
メリル少将とウッド艦長がその様な会話を交わしている間にも、挟叉弾を得たことから命中させるのに十分な射撃データが得られたと判断したモントピリアの砲術長は本格的な効力射撃への移行を命じていた。
これによりこれまで着弾位置から射撃データの修正するために三〇秒に一発のペースで観測射撃を行ってきた主砲は、一五秒に一発にまで射撃速度を上げて効力射撃を始めた。(クリーブランド級軽巡洋艦が搭載している三連装の15、2センチ砲は一〇秒に一発の最大射撃速度を持っていたが前述の通り訓練不足により作業の安全性に不安が有ることから一五秒に一発に制限されていた。)
このモントピリアの効力射撃への移行と前後して他の艦も挟叉弾を出し続いて効力射を開始し、各艦の砲撃が敵艦隊へ集中する事となった。
こうした中、最初に有効撃を与えたのは駆逐艦のウィーラーだった、ウィーラーの砲術長はほぼレーダーから得られた射撃データのみで敵艦隊最後尾に居た敵の駆逐艦を直撃させることに成功した。
直撃を受けた敵の駆逐艦は艦中央付近から炎を上げながら速度を落とし始めたと戦闘詳報には記されている。目に見える戦果に喜ぶ乗組員たちであったが、その報復は意外な形でもたらされることとなった。
最初の報告は露天艦橋にいた見張り員からのものだった。
報告書によれば“敵殿艦、探照灯を点灯。その直後に探照灯の照射を受けたウィーラーとコニーに直撃弾。” その後、探照灯を照射した敵の駆逐艦は米駆逐艦の集中攻撃で波間に消えたと記されている。
日本艦隊の駆逐艦の攻撃は砲撃だけでは無かった、彼我の距離1万メートルは日本軍の九三式酸素魚雷にとっては五二ノットの最高速力での射程距離の半分にも成らない距離である、この時三隻の駆逐艦は素早く探照灯が捉えた艦影に向かって一隻辺り八線の魚雷を発射している。ただ夜間の雷撃で一万メートルの距離で命中させるには二四発と言う数は過少であり戦果が無かったとされていた。
しかしながら戦後に公開された米軍側の報告書によれば、ほぼ同時刻に軽巡洋艦のコロンビアが原因不明の触雷し艦尾を破損して航行不能になっている分かった、同報告書は断定はしていないがこの艦尾に命中したのが、この時の魚雷の一発の可能性が高いと結論付けている。
同報告書及び戦闘詳報によれば、この時、巡洋艦隊の最後尾を航行していたコロンビアは日本の重巡洋艦との砲撃戦の最中に艦尾に触雷し、その爆発により舵と四軸の推進器のうち内側の二基が破壊される大きな損害を受けている、一時は航行不能と成り沈没の危険も有ったが必死の応急処置の結果、最大速力が一〇ノットと大幅に低下し針路も左右の推進器の回転数を変えることに依って取るしか無くなったが沈没の危機を乗り越え戦闘海域を離脱している。
日本艦隊は最初の混乱を凌ぎ反撃を開始するも戦場における主導権は米艦隊側にあり、戦況は日本艦隊側に不利なままであった。
特に日本艦隊の先頭を航行する「八咫」は三隻の軽巡洋艦から豪雨のような砲弾を浴びせられており、心臓部は無事ながら出血多量で倒れる可能性も出てくる惨状であった。
それでも針路も速度も変えること無く闘争心も失わずに撃ち返してくる「八咫」に対して戦艦のタフさを改めて思い知った、と後にメリル少将は語っている。
しかし、戦局は動いた。
一方的に砲撃を受ける状況を変えるためであろう、日本艦隊はここで右へ転柁、西に針路を取り米国艦隊と距離を取ろうとした、これの報告を聞いたメリル少将は会心の笑みを浮かべてと後に言われている。
「奴らはサボ島へ向かうか、
良いぞ、こちらの注文通りだ!」
そう言って海図上の航路を確認したメリル少将は、通信室担当の電話手を呼び通信長への命令を伝えたと言われている、内容は以下の通りである。
「別働隊のオルカリーダーへ通信、リトルフレンズの出番だと伝えろ。」
更にである、
「クーガー3(軽巡洋艦デンバーの符丁)にクーガー4(同コロンビアの符丁)に変わって敵に巡洋艦へ目標を変えるように指示してくれ。
それから艦長、こちらの砲撃もペースを落としてくれリトルフレンズの照準の邪魔に成る。ただし、手を抜くな、駆逐艦隊にも奴らを逃がさないように伝えてくれ。」
立て続けに任務部隊各艦への連絡と艦長への指示をしてそれが各部に伝えられるのを確認したメリル少将は、無線室担当の電話手が❝オルカリーダー了解、獲物は頂く。❞との伝言を伝えると邪悪とも取れる笑みを浮かべて呟いたと、その場に居合わせた多くの乗組員が証言している。
「良し、罠は閉じた。
さあ、どうする?ジャップ。」
実は第十九話、途中まで書いたところで一万文字を超えちゃったので、最初は二分割、最終的には三分割して三日連続の投稿をしたいと思います。
前書きにも書きましたがどうにも終われません、最後の締めはもう出来ているのですが書きたいりなところを補強していたらここまで伸びてしまいました。
それでも最後までしっかりと書きますので読んでくださいね。
ここまでお読み頂きありがとうございます、誤字脱字、言い回しのおかしなところ絶対有り得ないってところが有りましたら、ソッと教えてください。その時は感想メッセージなどを使ってくださって結構です。




