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第十三話

随分と間が空いてしまいましたが十三話です。

第十三話


 昭和十七年(一九四二年)十二月、ラバウルからブーゲンビル島へ進出した我々〈蒼電〉隊はブーゲンビル島南端のブイン基地において基地防空の要として日々邀撃任務に当たっていた。対する相手は米陸軍、四発の大型爆撃機か双発の中型爆撃機の編隊か或いはその両方が天候が許せばほぼ毎日、場合によっては一日に複数回来襲していた。

 一度に来襲する敵機の数は二十機から三十機、それが当初は護衛戦闘機なしで飛来してきていたが損害が想定していたより多かった為か最近はガダルカナル島を基地としているP-40が護衛に着くようになっていた。しかし、機首の巨大な冷却機が特徴のこの戦闘機は最高速度と降下速度を除けば加速性能と上昇力で零式艦戦に劣り更に高高度性能が悪いため高高度を飛ぶ爆撃機に張り付いて援護することが出来ず、〈蒼電〉の高空から一撃離脱の攻撃を受けて編隊を乱し零式艦戦に各個に討ち取られる例が多かった。私も爆撃機を邀撃する過程で数度手合わせしたが『組み易し』と言う印象を持っていた。しかし、低高度では意外に旋廻性能が良く深追いした零式艦戦が返り討ちに遭う例もあって油断できない相手でもあった。

 護衛の戦闘機は確かに低高度での戦闘に気を付ければ然程の脅威ではないが、主たる目標の爆撃機がこれまでに記したように難物であった、それが密集編隊を組んで来るのだ、おそらく零式艦戦のみで邀撃するのであったなら然もの三二型、それも長銃身の二〇ミリ機銃を搭載した乙Ⅱでも手古摺ることになったであろう。

 そうした脅威に対応できるのは手前味噌では有るが〈蒼電〉しかないであろうと、私は自負していた。安定的に一五〇〇馬力の出力を出せる大型発動機を持ち、優れた上昇力と米軍機に負けない速度で急降下できる頑丈な機体、破壊力の増した長銃身の二号銃と命中精度の高い12.7ミリ機銃とバランスの良い武装と日本機には例外的な防弾装備といった事例を挙げるまでも無く邀撃に最適なこの機体に私は惚れ込んでいた。この機体に乗って邀撃に上がれば決して負けることは無いとの自負もあった。

 例えそれが児戯にも似た空疎な自負であってもだ。


 確かに我々(〈蒼電〉隊のみでなく全体として)の奮闘により、基地は守れていた。ここブインはガダルカナル島攻略の為の基点の一つである。ここが失われればガダルカナル島奪還が不可能になるだけではなく、南洋における日本最大の拠点、ラバウルも敵の脅威に曝される事になる。そうなってしまえば戦争は負けも同様だった。

 当時当地に配置されていた搭乗員、いや日本軍の諸兵の全てがそう理解していたと思う、だが敵は落としても落としてもそれに倍する機体で持って我々に立ち向かって来た。

 それは言葉にはしなくとも恐怖以外のものでは無かった。

 今は良い、確かに今現在はラバウルとブイン周辺の制海権・制空権の双方を我々は手にすることが出来ている。

 しかし、❝何時まで❞と問われればその答を口にする事は出来ない。

 例え今は優勢であってもほんの少しの切欠で戦況をいとも簡単にひっくり返す力を米軍は持っているのだ。

 何時かその時が来る恐怖、それが彼らと相対していた我々の偽ざる心境であった。


 優勢から苦境へと成り代わろうとする戦況、しかし、我が軍もそれを座して待つことを良しとはしなかった。

 当時我々は知らなかった(とう言うよりも未だ知らされて無かった)が、我々が日々邀撃戦を戦う中、軍令部と連合艦隊は反攻を着々と進める米軍を中心とした連合国軍に対してその反攻を頓挫させるべく一大作戦を策定、実施に移そうとしていたのだ。

 いや、作戦は既に始まっていた言って良かった、それは我々が命じられたブインへの移動自体もまたその作戦の一環だったのだから。


 作戦の策定は先の第三次ソロモン海戦集結後であったと記録には残されている。三度に渡るソロモン海戦とその他の大小の海戦で帝国陸海軍は、多数の鑑定を失っていた特に第三次ソロモン海戦では貴重な高速戦艦二隻と新鋭の装甲巡洋艦一隻までも失っていたし、先のミッドウェー海戦で失われて以来再建中であった空母機動部隊も南太平洋海戦で多数の艦載機が失われて再建は振り出しに戻されていた、ガダルカナル島を廻る戦いに投入された基地航空隊も同様であった。加えて陸軍も二度の総攻撃に失敗し5千を超える将兵を失っていた。

 その損失は全てそれまで世界に名前も知られていなかった南海の島、ガダルカナルを廻る僅か四ヶ月の戦いを端緒として生まれていたのだ。

 それは長い年月をかけ、決して豊かではない東洋の小国が血の滲む思いで積み上げてきた力であった。

 このままガダルカナル島奪還に手古摺っていたら全てを失ってしまう可能性すら有る。

 海軍軍令部も連合艦隊司令部も陸軍参謀本部も等しくその様な認識を持った、そしてその結果として策定されたのが❝テ号作戦❞であった。

 作戦名❝テ号❞

 この名の由来には諸説あるが、今日一般的なのは「徹底抗戦」の❝テ❞であるとされている。

 当時史上最大の戦艦である「大和」まで投入して因縁のガダルカナル島ヘンダーソン基地を徹底的に破壊する作戦に相応しい名であるとも言える。但し、真の名の由来と目的は他のところに有るのだが。


昭和十七年(一九四二年)十二月二三日、私達はこの日も基地防空任務のため滑走路脇の邀撃任務機用の掩体壕脇の天幕の中で待機任務に当たっていた。我が愛機〈蒼電〉は掩体壕の中で敵機の来襲に備えて燃料と弾薬の搭載した状態で発進の時を待っていた。発動機と操縦席や燃料タンク周辺は強い日差しによる過熱を避けるため濡れた筵や椰子の葉を掛けてある。

 搭乗員の我々も同じように十二月とは言え日本の真夏より強い日差しをさける為その掩体壕脇の風通しの良い場所に張られた天幕の中で日差しを避けながらこちらも装備を身に付けた状態で各々寛ぎながら敵襲に備えて居た。

 昼過ぎになると遥か東の方角から発動機の爆音が聞こえてくる、勿論敵襲ではない、聞き慣れた〈栄〉発動機の音だ。

 その爆音に気がついた私はキャンバス椅子から腰を上げその音の先を見やった。

「おっ、帰ってきたね。」

 天幕が造る日陰、その途切れるギリギリに立って空の彼方を見つめる私に続いて倉本上等飛曹も煙草を咥えながら座っていた椅子から腰を上げ眩しそうに天幕端まで出てきた。

「今日は何機出た?」

「搭乗割では、一次二次合わせて四四機でいた。」

 倉本上飛曹は後ろに立つ僚機の搭乗員である、田内上等飛行兵に声を掛けた。

 その田内上飛も浅黒い顔を眩しそうに顰めながらそう答えて空を見上げた。

 今は我々第一小隊の待機の割である、小橋中尉と私、倉本上飛曹と田内上飛の四名が待機のため滑走路脇、出撃準備を整えた四機の〈蒼電〉の直ぐ近くの天幕の中にいた。

「四四機か、随分と豪勢なはなしだな。」

 最後に小橋中尉が白湯の入った湯のみを片手に天幕の端まで出てくる。

「ラバウルからも二四機が出撃しているそうです。」

 どこから聞いて来たのか、田内上飛は小橋中尉にそう説明していた。

「約七〇機か、本当に贅沢な作戦だな。」

 私達が話をしている間に東の空にポツポツと黒い点が見え始めた。その点は爆音とともに市次第に大きくなりやがてその姿がハッキリと見えてきた。

 誘導の一式陸攻に続くのは各種の零式艦戦だった、見慣れた姿ではあったが編隊を組み空一面に飛ぶ姿は壮大で感動的ですらあった。

 しかし、目を凝らして見ればそれらの機体はかなりの無理をして集めた代物である事は容易に知ることが出来る。機種は同じ零式艦戦であっても、現在主力の三二型を中心に今は旧式となった二一型や三二型の中でも邀撃戦仕様の短主翼である乙翼装備機まで編隊内にはその姿を見ることが出来た。

 そうなれば当然だが塗装も一様のものでは無い、おそらく現地で塗り替えられたであろう色調の違う濃緑色の機体やオリジナルの迷彩塗装を施された機体から無理やり修理し塗装する余裕も無く出撃したらしいツギハギ後が一目瞭然の機体まで混じっていた。

 しかし、その飛ぶ姿は正しく意気揚々と表現すべきものであった。

 参加した機体は何れも往復2時間あまりの飛行と目的地での空中戦をこなしての帰還であるのにまるで疲れなど無いかのような飛びっぷりであった。

 そんな姿を眺める内に、攻撃隊は編隊を解き上空を旋廻しながら各機の間隔を空けフラップと主脚を下げる等の降下手順を踏みながら、これまで使われてきた従来の滑走路である第一滑走路と今月に入って稼動を開始した新しい第二滑走路へ降下を開始、順次着陸して地上員の指示に従って部隊ごとに指定されている掩体壕へ機体を進めて行った。

 この後、攻撃隊に参加した機体は夜を徹して補給と整備が行われる。

 それはまた明日もこの攻撃が続けられることを意味していた。


 なんと一ヶ月以上も間が空いてしまいました。今回の十三話は難産でした。何度も書き直してやっとかけたら八千文字近くになっちゃって急遽前後に分けることにしました。

 というわけでこんな私の話をお待ちの方(居るのだろうか?)お待たせしました。十四話も明日朝には投稿予定です。

 ここまでお読みくださいましてありがとうございました。いつもの事ですが誤字脱字が有りましたら感想の方でも結構ですのでお願いします。それと感想もお待ちしています。

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