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第十四話

連チャンの投稿です。

第十四話


 昭和十七年(一九四二年)十二月二三日、私達はこの日も基地防空任務のため滑走路脇の邀撃任務機用の掩体壕脇の天幕の中で待機任務に当たっていた。

 昼が過ぎるとガダルカナル島へ攻撃に向かった攻撃隊が戻ってきた。七十機に迫る零式艦戦の大群はやがてブイン基地上空で編隊を解き今月に入って稼動を開始した第二滑走路も含め、ブイン基地の二つの滑走路へ降下を始めた。ここで零式艦戦は一度全て降り、ラバウルまでは一式陸攻のみが帰還する事と成っていた。

「損傷している機体も少なくは無いな。やはり、これだけの機体で攻撃してもそう簡単には行かないか。」

 着陸する零式艦戦を見ながら倉本上飛曹がそう評した。

「でも最初からこれだけの機体を投入していたら早々にガダルカナル島は取り返せたんじゃ無いですかね?」

 倉本上飛曹と並んで零式艦戦の着陸する姿を見ていた田内上飛がそうポツリと呟いた。

「まあ、そりゃ出来ない相談だな。」

「そうなんですか?」

 余りに明確にその呟きを否定した小橋中尉の言葉に逆に私がそう問い掛けた。

「考えても見ろよ、ラバウルからガダルカナル島まで飛んでゆくのにも四時間を必要とする、それでいてガダルカナル島上空で戦える時間は三〇分もない、しかもその後また四時間掛けてラバウルまで飛んで帰って来なきゃいけない。

 心身共に疲れる飛行だ、人も機体も消耗が激しい。

 本当にがガダルカナル島は遠いんだよ。」

「確かに。」

「そんな状況を打解するのが、ラバウルとガダルカナル島の中間位置に有るここブイン基地の拡充という訳だが、その基地、特に滑走路の増設が完了したのが今月(十二月)なのだから、それが無ければ一度にこれだけの零式艦戦は運用できなかったからな。」

 そこまで語って小橋中尉は天幕の置くまで戻って椅子に腰を下ろした。

 我々がそんな事を語り合っている内に第一陣の零式艦戦隊の着陸は完了し、続いて第二陣が飛来した。こちらは全て旧式の二一型だ、練度の高い操縦士が乗っているらしい旧式機は全く危なげな様子もなく着陸を完了させたが、そこからがこれまでの機体と行動が違っていた。

 二四機の二一型各機はそのまま滑走路脇の誘導路を通って滑走路の離陸側に移動した。

 やがて発動機を止めた各機から搭乗員が降りて来る、そこへ基地司令部脇の搭乗員待機所から姿を見せた搭乗員が駆け寄った。

「問題なし、燃料もラバウルまでなら問題ない。」

「はい、預かります。」

 そんなやり取が少し離れた我々の天幕まで聞こえた。先の声は落ち着いた静かな語り口、一方の声は若い、と言うより幼いと言って良いほどのものだった。

 彼らが、そんなやり取りをする間に地上作業員は素早く機体を点検する。やがて引き継ぎが済むと若い声の持ち主は恐らくは熟練搭乗員の乗ってきた機体に乗り込みやがて西の空へ飛び立って行った。

 無事に離陸して行ったのを見届けた熟練搭乗員は飛行帽を取るとユックリと我々の天幕まで歩いてきた。

「西尾先任、お疲れ様。」

 その姿を認めた小橋中尉がそう言って素早く敬礼した。

「そっちも大変そうだな。」

 そう言って敬礼を軽く返してその人、西尾亮中尉は天幕に入ってきた。小柄だががっしりとした体型の中尉は旧六空からの古参の一人で気さくで飾り気の無い人柄が上からも下からも同期からも慕われる人物であった。小橋中尉や倉本上飛曹とも長い付き合いだという話で今回も見慣れた顔に気が付いて顔を見に来たらしい。

「どうでした?ガ島詣は?」

 倉本上飛曹が白湯を注いだ湯飲みを差し出しながらそう聞いた。

「やっぱり、ここ(ブイン)からだと近くて良いな、肉体的にも精神的にも随分楽だ。もっとも一々機体を持って来てもらって持って帰ってもらうのは手間だがな。」

「しょうが有りませんよ、これ以上ブインでは整備も補給も出来ないのですから。」

 今回、七〇機と言う大攻撃隊を出撃させるためにちょっとした奇策が取られた、五〇機近いブインの零式艦戦隊に加えて航続距離の長い二一型をラバウルから攻撃に参加せることとしたのだ。

 しかし、そのままラバウルから発進させたらガダルカナル島攻撃戦初期と同じで人的な消耗が激しくなりガダルカナル島上空での戦闘に支障をきたす恐れがあった。

 だからと言ってこれ以上はブインで運用することは不可能である。そこで基地司令部は一計を案じた、ラバウルからブインへの行き帰りを若手に搭乗させ本来の搭乗員はブインからガダルカナル島攻撃へ参加することとしたのだ。

 乗り換えの手間は煩雑であるが人的な消耗だけは少なくとも抑えられると期待されての施策であった。ちなみ、燃料はラバウルからブインまでは増槽タンクの燃料を使いブインで満タンの増槽へ付け替えることで対応している。

「おかげで連日七〇機近い数が攻撃に参加できるが、奴等も相当しぶといぞ。

 昨日の戦闘で結構落としたはずなのに、今日もそんなに変わらん数が上がってきた。」

 喉が渇いていたのか嬉しそうに白湯を飲み干すとそんな風に答えガダルカナル島上空での戦闘を掻い摘んで話してくれた。

「しかし、陸攻隊を連れずにガダルカナル島へ攻撃に行くなんて。

ちょっとその、勿体無いって言うか・・。」

 私がその話を聞きながらそう言うと、西尾中尉は白湯の注がれた湯のみを片手に笑って答えてくれた。

「まあ、確かに随分と贅沢な作戦ではあるな。

 だが我々零式艦戦にとってはカモのP-40やP-39でも陸攻隊からすれば脅威だからな。

 ここでキッチリと数を減らしておかなきゃならんのさ。」

 西尾中尉が言うことは充分理解できた、今回零式艦戦が大量に投入された目的は航空掃討が目的だったからだ。

 鈍重で米軍機に比べて防弾能力に劣る陸攻を敵機から守るためにはその脅威となる敵機そのものを可能な限り駆逐し掃討する必要があった。

 その作戦を丸二日掛けて行っている、確かに贅沢な作戦だった。

 通常の作戦であったなら、先行して戦闘機隊(制空隊)が突入して敵機の脅威を減殺して後続の陸攻隊が敵基地を攻撃する。それで良い筈だった。

 しかし、連合艦隊司令部か軍令部かは知らないが作戦を決めた上の連中は、徹底して敵の邀撃能力を奪うことを基地航空隊に求めていた。

 それは航空掃討作戦の目的が、一時的な制空権の奪取ではなく中長期に渡る敵の制空権の喪失、つまり敵基地をある程度の期間使えなくすることを求めていたのだ。

 やがて聞き慣れない爆音が聞こえてきた、それも複数だ。

 一瞬敵襲を疑ったが周囲に緊張した様子は見られなかった。爆音の聞こえてきる方角は西、ラバウルのある方角だ。

 となれば、この爆音の主は友軍機であろうと推測できた。

 天幕にいた各員も爆音に気が付きやがて西の方角を各々が見やった。

「おっ、やっと来たか。」

 西尾中尉がそう言う頃には西の彼方にポツンと黒い点が見え始め、次第に 大きくなると同時にその数が増えていった。

 やがてその姿がはっきりと見えるまで近づくと、その姿の異質さが際立った。

 大きさは零式艦戦と大差はない、単発の発動機を収めた機首は細長く尖っていて日本機としては珍しい液冷(実際には水冷)の発動機を搭載している事を示していた。

 その機首から後方の胴体も水冷の発動機に合わせて細身で滑らかな曲線を描くそれは素人目からも抵抗の少ない極めて高速な機体であることを声高に宣言しているように見えた。

 主翼はこれも日本機としては少数派の中翼で、主翼下の胴体が爆弾槽に成っている事を知ったのはもう少し先の話だった。

 その珍しくも精悍な姿に見とれている間にその機体、総数十二機のその機体は一機また一機とブインの滑走路に滑り込むように着陸していった。

「あれは?」

 倉本上飛曹が何やら知っていそうな西尾中尉に問いかけた。

「あれは、艦上爆撃機の〈彗星〉、いや、今はまだ試製〈彗星〉だったな。」

「ほう、あれが噂に聞く十三試艦爆ですか。

 随分と早い機体だと聞きましたが。」

「ああ、搭乗員に聞いたところだと零式艦戦よりも早いそうだ。」

 小橋中尉の問いに軽い感じで西尾中尉はトンでもない答えを返してきた。

 当時、まだ機密扱いで知らなかっただが試製〈彗星〉の最高速度は552km/h、対して零式艦戦は二一型で518km/h能力向上型の二二型でも542km/hと〈彗星〉には及ばない、巡航速度でも426km/hに対して零式艦戦は296km/hと大差をつけていた。

 〈彗星〉は九九式艦爆の後継機として開発され、同機の弱点であった速度の遅さと航続距離短さを克服した機体として完成していた。しかし、実は〈彗星〉はその高性能とは裏腹に多くの問題点も抱えた機体でもあった。

 そのもっとも深刻な問題が高速性能をもたらした水冷発動機の〈アツタ〉の存在であった。盟友ドイツのユンカース社のユモ211の陸海軍共通のライセンス品である同発動機は日本の技術では生産性が悪くまた性能が安定せず故障も多かった。加えてこれまで空冷中心であった地上整備員への教育もあってせっかくの性能が生かせないという問題も発生していた。それでも直前まで購入の有力候補であったメルセデスのDB601よりは随分とましであったろうが。

 更に〈彗星〉の基となった十三試艦爆は実用機としてではなく技術立証機としての側面が強い研究機であった、それ故に高性能を発揮したのだが実用機としては問題も多く特に操縦系に多用した電動装置も経験の少ない未熟な技術で問題解決までには多くの時間を必要としていた。

 その箱入りの秘蔵っ子が激戦地、ブインに姿を現したのだ。何故と疑問を抱くのは当然のことであった。

「そんな秘蔵っ子の高性能機が何でブインまで来たのですか?」

 私の疑問を倉本上飛曹が口にしてくれた。

「連中、十日ほど前からラバウルに来ていて完熟飛行や準備をして出番を待っていたんだ。」

「って言うことは。」

「そうだ。ついに出番という訳だ。明日には作戦も次の段階に入るって事だな。

 さて、俺も明日に備えて身体を休ませるとするか。」

 そこまで言って西尾中尉は湯飲みを私の返すと搭乗員の宿舎に当てられている幕舎へ戻って行った。

「『明日には作戦は次の段階に進む。』か。」

 西尾中尉の後ろ姿を見送りながら私は先ほどの西尾中尉の言葉を反芻した。

「なるほど、こりゃいよいよガ島から米公を追い出せそうだな。」

 倉本上飛曹も何か期待する表情でそう私の肩を叩いた。

「私達もガダルカナル島まで行ければ良いのですが。」

「まあ、俺たちは攻撃隊の連中の帰る場所を守るの仕事だからな。

 無い物ねだりは出来んさ。」

 田内上飛の残念そうな言葉に小橋中尉はそう答えた。

 今は、俺達の、俺達しか出来ない仕事をしよう、と。

 やがて時間が過ぎ、敵機のの来襲が無いまま直の時間が終わり私達はどこか不完全燃焼のまま宿舎に引き上げた。


 私には先程の西尾中尉の言う『明日には作戦は次の段階に進む。』と言う言葉の意味を理解も想像も出来なかった。

 しかし、そういった現実を理解できない私を置き去りにして作戦は新たな段階に入ろうとしていた。


 同じ頃、我が軍の南方最大の拠点、トラック島より戦艦「大和」を中心とする主力部隊と、それを支援する空母機動部隊が出撃していた。

 更にショートランド泊地に集結していた輸送艦艇も出撃準備に入っていた。

 トラック島を出港した主力部隊と空母機動部隊は、対潜警戒序列を組みつつ時折警戒のための之の字運動をしながら一路南方を目指して行った。


 その行く先、進路の目標は、ガダルカナル島・ヘンダーソン基地。


 結局、二つに分けた話に加筆したので更に文字数が増えてしまいました。

つくづく自分に文才が無いと実感します。

 それでもここまで読んでいただいた方には感謝します。よろしかったら感想などをお願いします。もし有りましたら出して欲しい兵器なども宜しく。

 誤字脱字が有りましたら感想へで結構ですので一報ください。

 次は、何時に成るかな〜

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