第1章 第4部:新しい一日
さて、そんなわけで、翌朝俺は目を覚ました。泥のように眠っていた。実際、自力で起きたわけではなく……。
「ワタル、起きて。もう始める時間よ」
コンコン。 朝、アリアが部屋まで起こしに来てくれたのだ。彼女がいなかったら、間違いなく二度と起きられなかっただろう。
「ん……あ、すぐ行く」
体を起こそうとしながら答えた。まるで布団が体に張り付いているみたいに重かった。
あくびをしながら制服に着替え、部屋を出た。誰とも出くわさなかったので、その隙に洗面所へ向かい、顔を洗ってリフレッシュすることにした。顔を洗い、長くなった髪を濡らした(マジで近いうちに切らなきゃな)。鏡を見ながら、濡れた手をくし代わりにして髪を後ろへかき上げた。少しでもきちんとして見せようとしたのだ。部屋を出る前に、しばらく鏡の中の自分を見つめた。
「よし……きっとうまくいく。たぶん」
そう自分に呟いた。
それ(本気で必要だったステップ)を終えてから、厨房へ下りて行った。自分が今どこにいるのか、そういう現実感が少しずつ湧いてきていた。厨房に着くと、朝食の準備をしているアリアがいた。
「あ、おはよう、アリア。少し遅くなっちゃってごめん」
挨拶をして謝った。それ以外に何ができるだろう?
「おはようございます。ええ、遅いですね」
朝食を作りながら、冷淡なトーンで言われた。怒っていなければいいのだが。
「うん、ごめん。……それはそうと、厚かましいかもしれないけど、今日は何をするのかな? あと、俺に何ができる? 初日だし、ぶっちゃけ役立たずにはなりたくないんだ」
嘘くさい奴だと思われたくなかったので、本音を素直に伝えた。
「あら……そうですね。お嬢様とお騎士様の朝食を準備しているところです。よろしければ、あなたが運んでいただけますか?」
「うん、喜んで!」
俺は即答した。
彼女が準備を終えると、俺はトレイを両手でしっかり持ち、彼女は言った。
「くれぐれも気をつけてくださいね。お嬢様は執務室にいらっしゃいます。それが終わったら、次の作業を決めましょう」
「ちょっと厳しいけど、了解。気をつけるよ」
今度は少し本気度が伝わったのか、彼女の口調も幾分柔らかくなった気がした。
厨房を出て執務室へ向かった。嘘をつくつもりはないが、案の定迷子になり、二度もトレイを落としそうになった。だが運よく辿り着くことができた。入る前にドアを叩く。
「お入りなさい」
中からリアンの声がした。
両手が塞がっていたので、足でドアを押し開けた。中に入ると、リアンとあの例の彼女が、私服姿で寛いでいた。
「おはようございます、朝食をお持ちしました」
「おはよう、ワタル。もう働き始めてくれたのね。調子はどう?」
リアンが尋ねてきた。
「実はこれが最初の仕事なんです。だから、順調と言えると思います」
嘘偽りのない事実だった。
「そう……頑張ってね」
そう言われて、正直ちょっとキュンとしてしまった。そんな言葉をかけられたのは初めてだったかもしれない。いや、過去に言われたことがあったかもしれないが、覚えていない。まあ、どうでもいいか。
「あ、はい……それじゃ、失礼します」
うわ、吃ってしまった。こればかりは自分でもどうにもできない。
厨房に戻ると、アリアが待っていた。ついて来るように言われ、素直に従った。俺たちが向かったのは最上階で、どこか放置されたような雰囲気が漂っていた。そこで彼女から、掃除機をかけ(箒ではき)、部屋の埃を払い、最後にカーテンを洗うのだと説明を受けた。俺は箒と小さなハタキを受け取り、作業を開始した。彼女が左側、俺が右側を担当した。
まず部屋という部屋、すべての窓を開けて回った。自分が思いついたわけではなく、アリアがそうしているのを見たからだ。間抜けに見られたくなくて必死だった。
まずは床の埃を掃いた。廊下が無駄に長くて永遠に終わらない気がした。アリアの様子をチラッと見ると、彼女はすでに床を掃き終わり、ドアの脇にある花瓶や小テーブルの埃を払っていた。速すぎるだろ! 正直ちょっと焦ったが、追いつこうとペースを上げた。
本物の掃除マニアのように必死で磨き上げたが、俺が一つの部屋を出るたびに、アリアはすでに別の部屋を出入りしていた。手際が違いすぎる。ここでふと思い出した。これまで彼女は一人でこの巨大な屋敷を切り盛りしていたのだ。その完璧な手際を目の当たりにして、『俺がここにいる意味ってあるのか?』と疑問が湧いてきた。正直、かなり凹んだ。
部屋を掃除している間、なぜか自分の過去の生活についての記憶が蘇ってきた。両親のことを考えた。正直、俺なんていない方が親のためだ。それは明白だった。それからさらに色々なことを思い出したが、中でも一番俺を落ち込ませたのは、実家の近所の光景だった。時々、野良犬が食べ物をねだりに寄ってくると、俺は冷蔵庫から肉を引っ張り出してまで与えていた。当然両親にはめちゃくちゃ怒られたが、知ったことではなかった。近所の野良猫たちにも餌をやっていた……。あいつら、俺がいなくなってどうしてるんだろう? 正直なところ、俺は人間よりも動物の命の方が大切だと思っている。そういう性分なのだ。変人だと思われても構わないが、あの犬や猫たちが俺なしで何を食べているのかを考えると、胸をナイフで刺されたような激痛が走った。
とにかく、ようやくすべての掃除が終わった。最後の部屋から出ると、アリアがカーテンを外しているところだった。俺の側のカーテンまで外してくれていた。俺は近寄って言った。
「ごめん、足を引っ張ってばかりで」
嘘偽りのない本音だった。
「気にしないでください。それより、これを洗うのを手伝ってください」
彼女はカーテンの半分を俺に手渡した。
彼女について裏庭へ向かった。小さな小屋から巨大な木製のバケツを二つ取り出し、洗濯板を手渡された。その道具が俺の知っているものとそっくりで驚いた。見栄を張るつもりはないが、実家では洗濯機を使っていたので、手洗いで洗濯をするのはこれが人生初だった。
「ワタル、バケツに水を汲んでおいていただけますか? 私は洗剤を取ってきます」
「うん、分かった。ゆっくり行ってきて。これくらいなら俺のメンタルでもこなせると思うから、ハハッ」
面白おかしく言おうとしたのだが、彼女相手に冗談を言おうとするたび、俺はいつも間抜けに見えてしまうのだ。今回も例外ではなかった。
「真面目におっしゃっているのか理解に苦しみますが……すぐ戻ります」
彼女はそう言い残して去っていった。
少し落ち込んだが、心の中で『諦めるな』と自分を奮い立たせた。バケツに水を汲みながら、俺の冗談は自分にしか理解できないものなのかもしれないと考えた。もっと自然体に振る舞えば、普通に会話できるようになるのだろうか。
そんな思考に没頭するあまり、バケツから水が溢れ出ていることに全く気づかなかった。そして、まるで運命が俺を嫌っているかのように、まさにそのタイミングでアリアが戻ってきた。
「……ごめんなさい」
俺はうつむいて謝った。あの時、彼女は絶対に心の中で俺を笑っていたはずだ。
気まずいアクシデントの後、二人でカーテンを洗い始めた。一枚目に取りかかり、残りの山積みになったカーテンを見て一気に萎えたが、やるしかなかった。
ようやく一枚目を洗い終えてアリアを見ると、彼女はすでに三枚目を洗い終えていた。またしても凹んだ。置いていかれている実感がすごかったが、心を落ち着かせた。俺は楽な方法を見つけてもあえて苦労するタイプだし、容量オーバーになってもパニックにはならない。遅くても自分のペースを保つのが性分なのだ。もちろん、それは正しくできている場合に限るが。できないとただの完全な敗北者に思えてくる。
その後も作業を続けたが、事件が起きた。ふとアリアの方を見ると、彼女は靴下と靴を脱ぎ、両手でスカートの裾をまくり上げて、カーテンを踏み洗いしていたのだ。楽しそうに小刻みに跳ねていた。否応なしに目が釘付けになった。時折、白い下着がチラリと見えた。それが限界だった。俺は顔を真っ赤にして、即座に目を逸らした。
邪念を払うため、力任せにカーテンを擦り始めた。まだまだ残っているのを見て、思考の海に潜り込んだ。癖みたいなものだ。無意識にやってしまうし、時には頭の中で作った架空のキャラクターや自分自身と長々と会話してしまうこともある。
さっき見た光景について考えた。変態というわけではないが、ふと過去の出来事を思い出したのだ。去年のことだ。授業中、前の席の奴らが卑猥な話をしていて、そういう動画を見たとか自慢していた。中には「一日に5回は余裕」なんて言っている奴もいた。限界を迎えた俺は教室を飛び出した。
帰宅後、その夜、彼らの会話を思い出して、なぜか俺も試してみようという気になってしまった。パソコンを立ち上げ、動画を探して再生した。だが、いざという時になって、何もできなかった。猛烈な自己嫌悪と罪悪感が襲ってきたのだ。画面の向こうの女の子のこと、何千人もの盛った男たちに見られている彼女の気持ち、そして彼女の両親の気持ちを考えたら、自分が最低のゴミクズに思えた。乱暴にパソコンをシャットダウンし、洗面所に走って手を洗った。石鹸が小さな欠片になるまで削り落とす勢いで洗った。制服のままベッドに倒れ込んだ。二度とあんな真似はしないと誓ったが、あの動画の女の子のことを思うと憂鬱でたまらなかった。彼女はどんな気持ちで生きていて、両親に尋ねられたらどんな嘘をついているのだろう。考えれば考えるほど落ち込んだ。
翌朝、重度の鬱状態に陥った俺は体調不良のフリをした。パジャマに着替え、腹を押さえながら痛そうな顔をして部屋を出た。幸い家にいたのは母親だけだった。嘘をつくと、過保護な母はすぐに学校に連絡して休みをとってくれた。部屋に戻って少し安堵した。父親がいたら一発で見抜かれていただろうからだ。だが、ズル休みしたからといって楽しい一日だったわけではない。昨夜の罪悪感を引きずり、一日中そのことばかり考えていたのだ。
ハッと我に返り、俺は思わず声を張り上げた。
「アリア!」
彼女は足を止め、こちらを振り返った。
「はい、何でしょうか?」
「ご……ごめんなさい!」
さっき覗いてしまったことを謝っていた。
「はい? なぜ謝るのですか?」
彼女は首をかしげた。本当のことなんて言えるはずがない。
「あ……いや、なんでもない! ちょっと言いたかっただけなんだ」
彼女は『この人、何を言ってるの?』という視線を向けてきたが、俺としてはどうしても言わなければ気が済まなかったのだ。
さて、残りのカーテンはあと三枚になった。アリアの進捗を確認すると、彼女はすでに最後の枚数にかかっていた。自分がどれだけトロくて役立たずかを思い知らされた。彼女は洗い終えると、言った。
「ワタル、終わり次第、気をつけて干してくださいね」
「うん、遅くなってごめん。でも安心して、丁寧に干すから」
そう答えると、彼女は小さく頷いて去っていった。急に一人になって寂しくなり、慌ててペースを上げて洗った。
しばらくしてようやく終わり、言った通り丁寧に干した。昨日と同じで、一番遅かったものの、やりきった達成感があった。ピカピカになったカーテンを見て誇らしくなった。かなり疲れていたので、しばらくその場に立ち尽くし、心地よい風を顔に受けた。
バケツを片付け、厨房へ向かった。アリアが何かを作っていた。
「何を作ってるの?」
「おやつ(軽食)です。召し上がりますか?」
すごく美味しそうだったので、遠慮なくいただくことにした。
「うん、食べる! あ、何か手伝うことある?」
ニートだと思われたくなくて尋ねた。
「いえ、座ってお待ちください。もうすぐ終わりますから」
言われた通り、素直に座って待った。しばらくして彼女は二人分の皿を運んできた。二人並んで無言で食べた。食べ終えると、俺は真っ先に立ち上がり、彼女の皿を受け取った。
「いいよ、俺が洗うから」
彼女は俺を見つめ、言った。
「では……お願いします」
もう少し何か言われるかと思ったが、それだけだった。手早く皿を洗い終えた。
「ワタル、休憩時間です。ご自由に過ごしてください」
「え、本当? じゃあ……また後でね」
そう言ったものの、すぐに後悔した。『何か一緒にしない?』と誘えばよかったのだ。
部屋に戻り、ベッドに横になった。やることもなく、かといって寝たくもなかった。リアンは何をしているのだろうかと考えた。会いに行こうかとも思ったが、そんな勇気はなかった。じっとしていると、何かしら体を動かしたくなってくる。俺の場合、無性に歩きたくなるのだ。じっとしているのが苦手で、歩き回りたくてウズウズしてくる性分なのだ。
立ち上がった。机の上に置いてある自分の鞄が目に入り、中身をチェックしたくなった。昔使っていた古いスマホが出てきた。バッテリーを確認すると、まだ残っていた。ガラケーやガラホの頑丈さは異常だ。教科書や本も入っていたが、開く気にもならなかった。ポケットを漁ると、忘れていたものが出てきた。カセットテープ式のポータブルプレイヤーとイヤホンだった。すっかり忘れていた。
電源を入れ、テープを確認した。自分でアニソンや洋楽を録音したお気に入りのテープだった。イヤホンを耳に装着して再生すると、最高の気分だった。雑誌でこれを使っているモデルの男を見て、憧れて買ったのだ。古着屋のような古い店で親切な店員から買い、テープをサービスしてもらった思い出の品だった。
プレイヤーをポケットに押し込み、部屋を出た。無性に歩きたかった。広大な裏庭へ下りていくと、遠くでアリアが花に水やりをしているのが見えた。引き返そうかとも思ったが、勇気を出して近づき、「手伝おうか?」と声をかけた。彼女は少し不思議そうな顔をしたが、同意してくれた。ジョウロを手渡され、一緒に花に水をやった。長い時間、二人で作業を続けた。花々に囲まれた彼女の姿は、まるで絵画のように美しかった。
だが suddenly、土砂降りの雨が降り出した。屋敷に戻るには遠すぎる場所だった。彼女に案内されて迷路の central へ向かうと、そこには二つのベンチと小さなテーブルを備えた東屋があった。二人並んで腰掛けた。間一髪だった。雨はますます激しさを増していった。アリアはカチューシャ(ヘアバンド)が濡れてしまったのか、それを外した。彼女の髪はしっとりと濡れていた。俺も同様だった。
二人で沈黙を守っていたが、どうしても話がしたかった。このまま雨がやむのを無言で待つなんて耐えられなかった。何の話をすればいいか分からなかったが、ポケットの中のプレイヤーのことを思い出した。それを取り出し、尋ねた。
「ねえ、アリア。音楽って好き?」
「え……? 音楽ですか? はい、好きですが……なぜですか?」
機械を見せながら言った。
「これ、俺がいた世界にある機械で、音楽が聴けるんだ。聴いてみる?」
「本当にそんな小さなものから音が鳴るのですか?」
信じられないといった様子だった。
「本当だって! ほら、これを耳に当ててみて」
少し吃ってしまったが、気にせず片方のイヤホンを彼女の耳に差し込み、もう片方を自分の耳に装着して再生ボタンを押した。
流れてきたのは英語の曲だったので、彼女には歌詞の意味が分からなかったはずだ。
「どうかな?」
「素敵ですが……何という言語ですか?」
実は俺も英語なんてさっぱり分からなかった。
「俺のいた世界の言葉なんだけど……メロディはどうかな?」
その瞬間、昨夜の出来事が頭をよぎった。抑えきれなくなって、俺は口を開いた。
「あ、あのさ……アリア。昨日の夜、君が庭で笛を吹いているのを見ちゃったんだ。ストーカーだと思わないでね! マジでたまたま通りかかっただけだから! でも……あの曲が頭から離れなくて。もし嫌じゃなかったら、なんて曲なのか教えてくれないかな……?」
うわ、完全にストーカーの言い訳だ。彼女はしばらく沈黙した。怖くて彼女の顔を見ることができなかった。だが……
「本当ですか? よろしければ、今ここで吹きましようか? それと、ストーカーなんて思っていませんから安心してください」
冷や汗をかいていたが、その言葉を聞いて心の底から安堵した。
「良かった! 変質者扱いされるかとヒヤヒヤしたよ」
「そんなこと思いませんよ」
深呼吸をして、リラックスした状態で言った。
「そっか……じゃあ、厚かましいお願いだけど、もう一度聴かせてほしいな」
アリアはポケットから笛を取り出し、息を吹き込んだ。俺は背筋を伸ばし、目を閉じて深く耳を傾けた。昨夜感じたあの感覚が蘇ってきた。一瞬、雲の上を漂っているような錯覚に陥った。曲が終わると、俺は惜しみない拍手を送った。
「すごい……今まで聴いた中で一番素晴らしいよ。ねえ、曲名を教えてもらえる?」
「自分で作った曲なんです。『水底に眠る花』という題名です」
「すごく綺麗な名前だね……君が作った曲だと知って、ますます好きになったよ」
心からの本音だった。その言葉が嬉しかったのか、彼女の lips にかすかな微笑みが浮かんだのを見逃さなかった。
そこで名案が浮かんだ。俺の古いスマホには録音機能がついていたのだ。スマホを取り出し、録音モードを起動した。
「アリア、もう一回吹いてくれる? ちょっと試したいことがあるんだ」
「はい」
録音を開始し、吹き終わるとイヤホンをスマホに差し替えた。
「これをつけてみて。聞き覚えのある音が流れるから」
疑わしそうな目でみつめられたが、彼女は素直に従った。再生ボタンを押すと、彼女の笛の音がイヤホンから流れ出した。
「あ……これって……」
驚きに目を見開く彼女に、俺は優しく頷いて見せた。
彼女は目を閉じ、愛おしそうに微笑んでいた。本当に可愛らしかった。それを見ているだけで、胸が温かくなった。雨はまだ降り続いていた。しばらくの間、録音したメロディが繰り返し流れていた。一向にやむ気配のない雨の音を聞いているうちに、強烈な眠気が襲ってきた。
ふと、左肩に心地よい重みを感じた。アリアだった。イヤホンをつけたまま、俺の肩に寄りかかって眠ってしまったのだ。起こそうかとも思ったが、その必要はなかった。雨はまだやみそうにないし、何より彼女はとても安らかな顔をして眠っていたからだ。そのままにしておくことにした。
ふと冷静になって気づいた。女の子と二人きりで、片耳ずつイヤホンを分け合って雨宿りしている……まるで恋愛漫画のワンシーンじゃないか。不快感なんて微塵もなかった。こんな状況で不快になる男なんて世の中にいるだろうか? それどころか、胸の奥から温かい感情が溢れ出してきた。もう以前のような孤独感はなかった。俺は体勢を整え、ゆっくりと目を閉じた。猛烈な眠気に身を任せながら、意識が遠のく直前に小さく呟いた。
「ありがとう、アリア……」
……
「こちらこそ、ワタル」




