第一章 隣の席の春
四月。
新学期の朝。
校門の前の桜が満開だった。
風が吹くたびに花びらが舞い、
まるで雪のように地面に落ちていく。
高校二年の春。
**高橋 悠斗**は、
少し眠そうな顔で教室に入った。
「おはよー」
後ろから声がする。
振り向くと、
「今日席替えだぞ」
そう言ったのは幼なじみの
**佐藤 健太**だった。
サッカー部のエースで、
いつも元気なやつだ。
「別に誰の隣でもいいよ」
悠斗は席に座った。
だがその数分後。
「席替えするぞー」
担任の先生が言った。
くじ引きで席が決まる。
教室がざわつく。
悠斗はくじを引いた。
新しい席。
窓側。
悠斗は席に向かう。
そして――
少し驚いた。
隣の席には、
白石 美月
が座っていた。
長い黒髪。
透き通るような白い肌。
クラスでも有名な女の子だった。
理由は簡単。
すごく綺麗だから。
でも彼女はあまり人と話さない。
いつも一人だった。
「……よろしく」
美月が小さく言った。
悠斗は少し慌てた。
「よ、よろしく」
それだけの会話。
でも。
なぜか少し緊張した。
授業が始まる。
数学。
英語。
歴史。
その途中。
悠斗は気づいた。
美月はノートを取っていない。
窓の外を見ている。
桜を。
悠斗は小声で言った。
「ノート書かないの?」
美月は少し驚いた。
「え?」
「授業」
「あ……」
美月は苦笑した。
「ちょっと苦手で」
悠斗はノートを机の真ん中に寄せた。
「見てもいいよ」
美月は少し黙った。
そして言った。
「ありがとう」
その時。
初めて美月が笑った。
その笑顔を見た瞬間。
悠斗は思った。
(あ……)
(この子、こんなに可愛かったんだ)
昼休み。
教室は騒がしくなる。
友達同士で弁当を食べている。
悠斗も弁当を開いた。
その時だった。
美月がまだ席に座っていた。
弁当がない。
「食べないの?」
美月は少し困った顔をした。
「忘れちゃった」
悠斗は弁当箱を差し出した。
「半分食べる?」
美月は驚いた。
「いいの?」
「どうせ多いし」
美月は少し笑った。
「じゃあ少しだけ」
二人で弁当を食べる。
窓の外には桜。
静かな昼休み。
その時だった。
教室のドアが勢いよく開いた。
「悠斗!」
入ってきたのは健太だった。
「昼メシ一緒に――」
そこで止まる。
悠斗の席。
美月。
同じ弁当。
健太はニヤニヤした。
「お前」
「彼女できたの?」
「違う!」
悠斗は慌てた。
美月も顔が赤い。
教室が少しざわつく。
悠斗は健太を廊下に押し出した。
「うるさい!」
健太は笑った。
「あとで聞くからなー!」
ドアが閉まる。
教室は静かになった。
美月は小さく笑った。
「面白い友達だね」
悠斗は苦笑する。
「うるさいだけだよ」
少し沈黙。
風が吹く。
桜の花びらが窓から入る。
美月はそれを見つめていた。
悠斗は聞いた。
「友達いないの?」
美月は少し考えて言った。
「うん」
その声は少し寂しそうだった。
悠斗は言った。
「じゃあ」
美月が見る。
「今日」
「一緒に帰る?」
美月は少し驚いた。
そして。
ゆっくり笑った。
「うん」
それが
二人の恋の
始まりだった。




