動き出す世界
「おい沙月に何してる?」と煩わしい音が聞こえる
「沙月から離れてください」と本でキューブを殴りつける。内側からは鈍い音がしている
「お前たちうるさいよ」とキューブから出してやる。わらわらと集まってくる様子を見ているが
体はどうやら動かないようだ
意識を失っている少女の柔らかい髪をなでる
「お前らにこの子は扱いきれないよ。よこせ」と私は欲しい黒い蝶が見える少女
私と、同じ存在になりえる少女を逃すわけがない
私のものだ……。黒い蝶の愛される子……もしかしたら、失われた懐かしい感情を、
味わえるかもしれない
遠い記憶にある——まだ普通の少女だった時に思いを……
時間を止めている私に
「勝手なこと言うな沙月を返せ、クソ」と茶色い髪の男で……覗き込みたい衝動を感じる
「沙月さん、起きてください」
「藤の沙月だよ、とらないで!!」
「……」もう一人の子供は、何も言わずにこちらを見ている
「お兄……ちゃん」と静かに口を動かす沙月という少女
「やめろ沙月を離せ」という男の体が急に光出す
その瞬間ものすごい風を感じ、ピタリと私の目の前にいる男
ありえない……この世界は私のものだというのに……
「なぜ、動ける」と驚きながら見ていると
「沙月は渡さない」と魔法使いの格好に変身し、襲ってくる
「なんで、ルリの本がないのに変身ができてるの?」と藤という子供は言っている
「もしや……」その男の姿に気づき、でもそんなはずはないと迷いが生じている間に攻撃してくる
「沙月を離せ!!」瞳の色も魔法と同じ色の目になっていた
沙月から離れ後ろに下がりながらよけると、その一瞬を逃さないように沙月を担いで離れる男
——キューブは共鳴するかのようになりだすその音は懐かしい喜びの音であった
これはいいものを発見した。こんなすぐそばに、あれが二人もいたとは……
*
*
*
俺たちは透明なキューブの中に閉じ込められていた。そこから吐き出されるように落っこちた
沙月が、お兄ちゃんと言いながら倒れた
それを、驚いた顔で沙月を見つめる少女に虫唾がはしった。
沙月に手を出すなと怒りがわいて噴き出すかのように
時を止められていた体が急に軽くなる
動けたのを感じながら後ろから後押しされるかのように時間が動く
「お兄……ちゃん」失うかもしれない思いを取り越して、体が震える
その瞬間、魔法に包まれていく
そこから自分の記憶はないが、沙月を取り返せたことだけはわかる
藤がなにかを言っていたが、それを気に留める隙もなかった
初めて本気で、殺したくなるほどにその得体のしれない少女に攻撃を仕掛ける
俺は、何かを忘れている気がする
——お兄ちゃんという言葉が、ひどく意味を持っている気がしてならないのだ




