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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第六章 初代様

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第92話 永遠の初恋

 エルクの葬式(そうしき)が終わってから、一年ほどが経過した(ころ)

 愛する夫を失ったルースは、最近、めっきりと()()んでしまっていた。体も徐々に弱っていき、寝込んでしまう日が増えた。

 そんなある日。

 今日は調子(ちょうし)の良さそうなルースと私とエストの三人で、ベランダでお茶を楽しんでいた。

 そんな中、雑談(ざつだん)の一つとして、ルースが昔話(むかしばなし)を始めた。

「ヒデオ、私があなたに求婚した日のこと、覚えている?」

 私はそれに大きく(うなず)きを返しながら同意する。

「ええ、もちろん。私の長すぎる寿命(じゅみょう)を使ったとしても、一生、忘れることができないでしょうね」

 そして、私は少し微笑(ほほえ)みを返し、この話題の感想を語る。

「しかし、あなたとエルクはやはり夫婦(ふうふ)ですね。エルクとも、以前、同じような話をしました」

 ルースは少し(おどろ)いたような表情になり、確認を取る。

「それは、どんな内容だったの?」

「エルクと二人きりで話した内緒話(ないしょばなし)なので、私が墓まで持っていきますよ?」

 私がそう言うと、ルースはいたずらっぽい表情になり、このように未来予想を語った。

「それは残念ね。じゃあ、あの世に行った時に、エルクから直接聞くことにするわ」

 その返答を聞いていたエストが、少し(つら)そうな表情になってこう語った。

「お母様にはまだまだ元気でいてもらわないと、私が(こま)ってしまいます。ですから、そのようなことは言わないようにしてください」

 それを聞いたルースは微笑(ほほえ)みを返し、少し(さと)すような口調になって語る。

「でもね、エスト。この国でのヒム族の寿命(じゅみょう)から考えたら、私もそろそろ寿命(じゅみょう)のはずよ? でも、そうね。もう少しだけ、頑張(がんば)ってみるわ。だから、そんな顔しないで」

 それを聞いたエストは少し安心したような表情になり、続けて質問をする。

「おじい様とお父様とお母様が、若い(ころ)からずっと親友だったのは聞いていましたが、そんな三角関係もあったのですね。でも、お父様と結婚したということは、おじい様はお母様を愛してはいなかったのですか?」

 それを聞いたルースはクスクスと笑いながら、()りし日の真相(しんそう)を語る。

「そんなことはあり得ないわ。ヒデオは絶対に私にぞっこんだったはずよ? とても分かりやすくて、可愛(かわい)らしかったのよ?」

 エストは興味津々(きょうみしんしん)様子(ようす)になり、若干(じゃっかん)前のめりになりながら続けて質問をする。

「そうだったのですか? おじい様」

「ええ。私はルースを心から愛していました。しかし、ルース。私はそんなにも分かりやすかったのですか?」

 ルースは少し笑い声が大きくなり、本当に楽しそうに教えてくれる。

「もちろんよ。だって、ヒデオ。私があなたに微笑(ほほえ)みかけると、それだけで、あなたは(ほほ)()めて視線をそらすのですもの。その仕草(しぐさ)が本当に可愛(かわい)らしくて、何度抱きしめようと思ったことか」

 そんな私たちの昔の様子(ようす)を聞いていたエストは、とても意外そうな顔になり、さらに続けて私に質問をする。

「それでは相思(そうし)相愛(そうあい)じゃないですか。それなのに、なぜ、おじい様はお母様と結婚されなかったのですか?」

 私はエストの方向に顔を向け、その理由を簡潔(かんけつ)に語る。

「私は年を取ることができないのが、(おも)な理由になりますね」

(おも)な理由ですか? では、他にも理由があるのですか?」

 私はそれに(うなず)きを返し、続きを語る。

「ええ……。知っての通り、私は先祖返りです。里に伝わる言い伝えでは、先祖返りはほとんど子供ができません。できたとしても、先祖返りは生まれません。そのため、子供の方が、寿命(じゅみょう)の関係ではるかに早く()くなってしまいます。私はそれが、どうしても(いや)だったのです」

 そんな私たちのやり取りを聞いていたルースが、ここで補足(ほそく)を加えてくれる。

「今なら、ヒデオが言っていたことも良く分かるわ。男性のヒデオが年を取らないのに、女性の私だけが年老(としお)いていくのが、これほど残酷(ざんこく)なことだとは、あの時は分かっていなかったもの。ヒデオの言うことが正しかったのね。それに……」

 そう言ったルースは視線を少し下に下げ、ルースなりの解釈(かいしゃく)を付け加えてくれる。

「幸運に恵まれて、自分の血を分けた子供ができてしまったら、その子を先に見送ることだけは、とても耐えられそうにないと言っていたヒデオの言葉も、今なら良く理解できるわ」

 そして、ルースは顔をこちらに向けて続きを語る。その顔は、どこか少し(さみ)しそうだった。

「だって、血の(つな)がらないはずの孫たちでさえ、あなたはとても愛しているものね。これでは、いつか、エストやメイが旅立った時がとても心配になるぐらいよ?」

 それを聞いたエストは大きく(うなず)き、同意を(しめ)している。

「確かにそうですね……。私はおじい様が年を取らないのがとても(うらや)ましかったのですが、いいことばかりでもないのですね……」

 そして、エストは私とルースの顔を順番に見てから、さらにあの日の出来事の昔話(むかしばなし)をねだる。

「お母様、おじい様。お母様が求婚した時のエピソードを、もっと聞かせてはもらえませんか?」

 ルースはそれに微笑(ほほえ)みを返しながら応じる

「ヒデオは私にぞっこんなのに、いつまでたっても求婚してくれないから、私、待ちきれなくなって、自分からヒデオに求婚したの。あの時は自信満々(じしんまんまん)だったのよ? ヒデオを分かっていた?」

 私は頭を()り、それを否定する。

「いえ……。残念(ざんねん)ながら、全く分かっていませんでした」

 ルースはそんな私の目をじっと見ていて、あの時の情景(じょうけい)を思い出しているように見える。

「だから……、ね。ヒデオに結婚できないと言われた時は、悲しいというよりは、信じられないって気持ちでいっぱいだったわ。何で私の気持ちに(こた)えてくれないのって思ってしまったら、涙が止まらなくなってしまったの」

 ルースはここで視線を少し下に落とし、あの時の真相(しんそう)を語ってくれる。

「でも……、ね。私の幸せそうな顔さえ見せてくれれば、自分は満足だって()り返すヒデオを見てね、少しだけ、納得(なっとく)したの。だって、あんなに優しい口調(くちょう)なのに、今にも泣きそうな顔で説得を続けるのですもの」

 そんなルースの心情(しんじょう)吐露(とろ)に、私はかつてエルクと話した内容が思い浮かび、そのことを指摘(してき)してみる。

「それはエルクにも指摘(してき)されたのですが、そんなにも(つら)そうな顔をしていましたか?」

「ええ。まるでこの世の終わりみたいな顔をしていたわよ?」

 そんな会話を楽しんでから、二か月後。

 ルースはさらに弱っていき、静かに息を引き取った。

 その時の最期の言葉は、以下のようなものだった。

「ヒデオ、私と出会ってくれて、ありがとう。そして、ずっと親友でいてくれて、本当にありがとう……」

 そう言ったルースの顔は、夫のエルクと同様に、とても(しあわ)せそうだった。

 そして、この瞬間(しゅんかん)、私の初恋(はつこい)は永遠のものとなった。


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