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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第六章 初代様

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第91話 エルクとの別れ

 ルナリアの誕生から、一年ほどが経過した(ころ)

 恐れていたことがついに起こってしまった。エルクが病に(たお)れたのだ。

 日に日に弱っていくエルクを見た家族たちは、様々な医者を呼んで診察(しんさつ)してもらっていた。

 私も里に伝わる薬草の知識を用いて、自分で採取してきた薬草を使った強壮剤(きょうそうざい)などを処方(しょほう)していたのだが、症状(しょうじょう)一向(いっこう)に改善しなかった。

 そんなある日。

 すっかりと()せてしまっていたエルクは、その寝室(しんしつ)に私と二人きりになったタイミングを見計(みはか)らって、長い昔話を始めた。

「なあ、ヒデオ。お前がルースをふった日のこと、覚えているか?」

「ええ、もちろん。私にとっても忘れられない出来事でしたから」

 エルクはこのように前置きをした後、あの日の裏話(うらばなし)を話し始めた。

(はた)から見ていればな、お前らが両想いだったのはバレバレだったんだぜ? ヒデオはルースの気持ちを知っていたのか?」

 私はそれに一つ(うなず)きを返し、昔話に応じる。

「ええ、私もそこまで鈍感(どんかん)ではありませんから。ルースがずっと、私からのプロポーズを待っていたのは気づいていました」

「やっぱりな……。だからな、俺はずっとこう思っていたんだ」

 そして、エルクは一つ息を()いてから、こう言い切った。

「ヒデオは何で、さっさと結婚を申し込まないんだよ? 何をやっているんだよ、このヘタレが、ってな」

 そして、エルクはクククと少し笑ってから、その続きを語る。

「そんな日々を送っていたら、ルースが大事な話があるからヒデオの家に行くって言いだしただろう? あの時はこう思ったんだよ。ああ、ついにルースが我慢(がまん)できなくなったか、本当にヒデオは何をやっているんだってな」

 私もあの時のことを思い出し、その内心(ないしん)をエルクに語り掛ける。

「今になって思い返してみれば、おそらく、あの後の話の内容が私にも分かっていたのでしょう。ですから、もう少しこの関係を続けたいと願ってしまい、逃げ道として、エルクに同行をお願いしたのだと思います」

 エルクもあの時の内心(ないしん)を語ってくれる。

「そうだったのか……。実はな、俺はずっと小さい(ころ)からルースのことが好きだったんだよ。だから、あの時は、ついにこの時が来ちまったか、俺の失恋(しつれん)が確定するなって思ったんだが、それでも、せめてその瞬間(しゅんかん)に立ち会いたいと思ってな……」

 エルクはその時の感情を思い出したのか、少しだけ(つら)そうな表情になり、さらに続きを語った。

「何を(しゃべ)っても(うら)(ぶし)になりそうだったから、ずっと(だま)って、お前の家まで行ったんだよ」

 ここで一息(ひといき)ついたエルクは、何かを思い出しているような雰囲気(ふんいき)でしばらく天井(てんじょう)をじっと見つめてから、さらに続きを語る。

「そうしたら、お前はルースに向かって、自分は結婚できないって言うじゃないか。その時、俺は思ったんだよ、これはチャンスだと。何かがおかしいとは思ったんだが、それでも、ヒデオがルースを選ばないのなら、ここでルースを(なぐさ)めれば、俺のものにできるはずだってな」

 そして、エルクは少し思い出し笑いをしながら、ゆっくりとした口調(くちょう)で語り続ける。

「そこで口を開きかけたら、盛大(せいだい)にルースをふったはずのお前が、ルースを愛しているからこそ結婚できないなんて言い出すじゃないか。本当に意味が分からなかったよ。だから、ルースを(なぐさ)めるはずの言葉も引っ込んでしまったんだぜ? ヒデオは気づいていたか?」

 私はそれに首を振って否定する。

「いいえ、全く気づいていませんでした。と、言いますか、それどころではなかった、というのが、真相(しんそう)でしょうか」

「まあ、そうだろうな。俺もお前が年を取らないって聞かされた時には、とても(おどろ)いたからな」

 ここでもう一息ついてから、エルクはまた続きを語る。

「でもな、こうも思ったんだよ。男なら、年老いていくルースを愛し続けられるはずだってな。だから、文句(もんく)を言ってやろうと思っていたら、何度も優しい声で説得を繰り返すじゃないか」

 エルクはここで顔を私の方へ向け、私の目を見るようにしながら語り続ける。

「でも、それだけなら、俺はお前を()(たお)してでも結婚させるつもりだったんだよ。しかしな、あんなに優しい声なのに、顔だけは、とても(つら)そうに何度も何度も説得を繰り返す姿を見たら、そんな気も失せたんだよ」

 エルクはじっと私の目を見ている。しかし、その目線は、私を通してその背後の()りし日の姿を見ているように感じられた。

「そして、俺も気づいたんだよ。ああ、こいつは、本当にルースのことを愛しているんだなってな。だからこそ、共に年老いてゆける人と結婚して欲しいと、心から願っているんだなってな」

 ここまで一気に話したせいか、エルクは少し息が上がってしまっている。私は少し間を持たせるためにも、あの時に思っていたことをエルクに語り掛ける。

「そうだったのですか……。私は全く気づいていませんでした。ただ、不思議(ふしぎ)には思っていたのです。エルクが私を(なぐ)り飛ばすぐらいのことはするだろうなと、覚悟(かくご)していたのです。ですから、最後まで(だま)ってやりとりを聞いていたのがなぜなのか、ずっと分からなかったのです」

 私はここでエルクに微笑(ほほえ)みかけ、話を切り上げようとする。

「そんなことよりも、エルク。あまり長話(ながばなし)をしてしまうと、体に(さわ)ってしまいます。昔話(むかしばなし)もこれぐらいにして、もう体を休めてください」

 しかし、エルクはぜいぜいと息をしながら、続きをさらに語る。

「もうちょっとだけ、話をさせてくれ。あの時の俺は、お前だけが年を取らないって意味を、良く理解できていなかったんだなって、今なら分かる。だから、ヒデオ、礼を言わせてくれ」

 そして、エルクはじっと私の目を見て、すこし目礼(もくれい)をするようにしながらお礼を口にした。

「ありがとう……、あの時、ルースをふってくれて」

 そんな長話をしてから、ひと月ほどがたった、ある日。

 家族全員が見守る中、眠るようにして、エルクは静かに神様のおわす天へと、旅立っていった。

 その時の最期の言葉は、以下のようなものだった。

「ああ、楽しい人生だった、みんな、本当にありがとう……」

 そう口にしたエルクの顔は、本当に楽しそうだった。


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