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魅了の魔女だと嫌われている私ですが、光属性の皇子様から溺愛されています  作者: 束原ミヤコ


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アルヴァイスの凶行



 それは――瞬く間の出来事だった。

 視界の端にちらちらと光る何かがある。

 視線をあげるとそれは振り上げられた短剣で、その白刃は真っ直ぐに、背後からステラの首に振り下ろされた。


「え……」


 その瞬間だけ景色が切り取られたかのように、ルティナの網膜には輝く凶刃とステラの白い首だけがうつった。


 ひどく緩慢に、ゆっくりと、刃が細い首に食い込んでいく。

 世界は緩やかに動いているのに、その中でルティナは動くことができない。

 

 体が石像にでもなってしまったかのように、目の前の光景を見ていることしかできない。


「ステラ様……ッ!」


 こんなに近くにいるのに。

 ルティナはステラの両手を握っている。その細い指の感触も、あたたかな体の感触も触れ合う皮膚から伝わってくる。

 ステラの両手に握られている、髪飾りの金属の硬さも――。


「……っ」


 ステラの両手が、強い光を放った。

 ステラの首に食い込んだはずの短剣の切っ先が、ぼろぼろと崩れていく。

 長年海風に晒された鉄のように錆びて、刃こぼれをして、崩壊する。


 ステラの両手の中で、竜の守護の髪飾りが輝いていた。

 命を守る力――一度だけの、守護魔法が発動したのである。


 ルティナは力いっぱいステラの体を引き寄せた。

 ステラの両手の中で、髪飾りが砂のようにさらさらと崩れる。


「……髪飾り、せっかく、貰ったのに」


 状況をまだ理解していないのか、ステラはルティナに庇われながら、唖然と呟いた。

 ルティナは片手を広げてステラを庇う。

 目の前には黒いローブを着た男がいる。


 目深にかぶっているフードが、竜の守護が発動した衝撃で、風にはためいてめくれあがる。


「アルヴァイス様……」


 崩れた短剣を残念そうに眺めているその男は、燃えるような赤毛に金の瞳をした――アルヴァイス。

 カイネルードの異母弟であり、第二王子である。

 その姿を見るのは、入学式の日に話しかけられて以来だった。


 優しい口調に反して、おそろし気な雰囲気があった。

 そのために、ルティナはできる限り近づかないように気を付けていた。


 そのアルヴァイスが、何故、短剣でステラを害するのだろう。

 理解はできないが、目の前で起こった現実が全てだ。

 

(今、ステラ様を守ることができるのは、私しかいない……!)


 ステラを連れて逃げるべきか。校舎まではすぐだ。

 放課後とはいえ、誰か他の生徒が残っているだろう。

 アルヴァイスがどういうつもりか分からないが、ステラを害しようとしたことが表沙汰になれば、第二王子としての立場は危うくなる。


 ことを荒立てたくないはずだ。誰かに知らせなければ――。


「――あぁ、僕だと知られてしまったね。逃げようと思っているだろうけれど、それは無理だ」

「……どうして」

「どちらの意味のどうしてだろうか? 逃げられない理由を尋ねているのだとしたら、それは一歩でも君が動けば、ステラの心臓を僕の魔法が貫くから。どうしてこんなことを、という理由なら――その女は役立たずだから」


 口元に笑みを浮かべたまま、アルヴァイスは続ける。


「兄上をルティナから奪うことを期待していたけれど、それもできず。ルティナを徹底的に傷つけることを期待していたのに、それもできず。実に、中途半端だ」

「ステラ様の気持ちは、アルヴァイス様には関係ないことで――」

「分かっていないね、ルティナ。傷ついた君を僕が慰めて、君を僕の物にする予定だったと言っているんだよ?」


 アルヴァイスは、長い指で赤い髪を弄んだ。

 背中に冷たいものが流れる。どんな魔物よりも――アルヴァイスがおそろしいと感じる。


 それは、アルヴァイスが人間だからだ。

 魔物とは対話ができない。

 彼らは動物のように、本能で動いている。

 理解をすることができない相手には、純粋な畏怖を感じる。


 けれどアルヴァイスはルティナと同じ人間だ。

 同じ人間なのに――会話が通じない。それはとても怖いことだ。

 過去、一方的に責められ、嫌われた記憶がルティナの体をじわりと浸食する。

 今すぐ耳を塞いでうずくまりたいような恐怖を振り払い、ルティナはアルヴァイスを睨みつけた。


「私は、あなたのものにはなりません。私は――カイネ様の婚約者です」

「それがどうした? ルティナ、君の力があれば何でも思い通りにできる。誰も彼もを支配下における。兄上もそれが目的で、君を婚約者にしたのだろう」

「それは、違います……っ」

「兄上はそうじゃないかもしれないが、サラデイン皇家はその腹積もりだろう。君は利用される。可哀想に」


 ルティナは首を振った。背後にいるステラが事態の深刻さにやっと気づいたのか、ルティナの腕を掴む。


「ルティナ、あなたがカイネを魅了していると、その男が私に教えたの……! 私、それを信じた。あなたを傷つけるために、あなたに近づいて友人のふりをした。あなたの悪い噂を広めた。アルヴァイスと一緒に、計画をしたのよ……!」

「そのどれも、中途半端に終わったけれどね」

「どうして、どういうつもりで……」

「言っただろう。君を傷つけて、兄上と仲違いをさせて──僕が慰めてあげようと、思ったのに。君の心を手に入れて、その力を手中におさめれば、この国も、世界だって思うがままだ」


 くつくつ笑いながら、アルヴァイスは言う。

 ルティナはきつく眉を寄せた。

 人の心を操るとは、そういうことだ。

 ルティナの力をつかえば確かに、大多数の人々を支配下におくことができるだろう。


 けれど――そんなことはしたくない。

 カイネルードもそんなことを望んでいるわけがない。


「私は、あなたに利用などされない。そして、ステラ様を利用させたりもしない!」

「失敗してしまったけれど。ステラを殺し、その罪を君になすりつけようかと思っていたんだ。嫉妬のあまりステラを殺した君は、この国の法に則り投獄されて、処断をされる。それを救えば、君は僕に心を許すだろう、ってね」

 

 でも、失敗をしてしまったと、アルヴァイスは呟いた。

 その足元に光輪が輝き始める。

 アルヴァイスの背後に、光り輝く縦に長い女性の姿が浮かびあがった。






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