お出かけと不穏な影
あれからまた月日がたち、マナの扱い方も板についてきた。
同様に、少しずつだが言葉もしゃべれるようになってきたので以前よりも意思疎通が楽になった。
今日はかあさまに連れられて街の視察に出てきている。見たことのない食べ物がそこら中にあって見ているだけでも楽しい。
「めずらしいの、たくさん!」
「そっか、ノーラちゃんはこうして街に出るのは初めてだからどの景色も新鮮だよね。せっかくだし色々見て回ろうか」
「あーい!」
「おやまぁ、エリナ様じゃないか! ユリウス様から元気だとは聞いていたけど、ノーラ様がお生まれになってからお顔見れなくて心配してたんだよ。ほら、栄養たっぷりの野菜と肉だ。あとで屋敷に送っておくからね!」
「へぇ、エリナの嬢ちゃん元気そうじゃねぇか! 仕事と子育てで忙しいかもしれねぇが、たまには顔見せてくれよな!」
「わ~~~、エリナ様だ! ねぇ、久しぶりに遊んで!」
「こら、ノーラ様お連れになっているしお仕事中なんだから無理言わないの! エリナ様、落ち着いたらうちのお店にもまたいらしてくださいね! はいこれ新商品!」
「わぁ、皆ありがとう! 今度は仕事お休みのときに来るからね!」
かあさまに抱っこされて街を歩いていると次々と街の人から話しかけらる。かあさまの見た目の愛くるしさもあるかもしれないが、普段から街の人のために仕事をしているのだろうと思うと
娘としても鼻が高い。
「みんな、かーさま、だいしゅき?」
「なのかなー? お母さんもこの街の人たちが大好きだからそうだと嬉しいな」
嬉しそうに話すかあさまの耳がぴこぴこと動いている。そんなかあさまを見ていると自分も嬉しくなってくる。
「わたし、も、かあさましゅき!」
「えへへ、ノーラちゃんありがと~。お母さんも大好きだよ!」
そう言いながらぎゅーっと抱きしめてくれるかあさま。
かあさまの心地よい体温のおかげかなんか眠くなってきた……。
「うにゃ……」
「ノーラちゃんお眠かな? お仕事まだ時間かかるからしばらく寝てていいよ」
「うー、あい……」
もう少し景色を楽しみたかったが、眠気には勝てず私の意識は遠のいていった――
ノーラが眠りについて少しした頃。視察を続けていたエリナは警備兵に話しかけていた。
「今日もお疲れ様。変わったこととかないかな?」
「え、エリナ様お疲れ様です! っと、ノーラ様がお眠りでしたか。大声を出して申し訳ありません」
「んーん、気にしないで。この子寝つきいいから大丈夫だよ」
「そうおっしゃっていただけると助かります。……1つエリナ様とユリウス様にご報告しておくべきことが」
警備兵の表情からあまり良い内容ではなさそうと感じ、周囲を警戒してからエリナが頷く。
「近頃魔眼を持つ貴族が行方知れずとなる事件が多発していることはご存じでしょうか?」
「うん。ユーくんも調査してるって言ってたから知ってるけど……」
「それと関係があるかはわかりませんが、ここらでは見慣れぬ者が街に出入りしているという話が。魔眼持ちが夜中に追い掛け回されたなどという話もありますので、エリナ様もなるべく護衛をつけたほうがよろしいかと思いまして……」
「魔眼持ちの人が……」
「まぁ、エリナ様ほどの手慣れであれば敵うものなどなかなかいないでしょうが。幼いノーラ様もいらっしゃいますし用心することにこしたことはないかと」
「そうだね、今後は護衛の人をつけるようにするよ。心配してくれてありがとう」
警備兵が敬礼して去っていく。
魔眼を狙った事件は何度か耳にしていたが、この街はユリウスが守っていることもあり他の街よりも平和な日々が続いていたため、こんな近くでも起こるようになっていたのはエリナにとっても予想外だった。
「ユーくんと相談する必要があるね……。それに」
ちらりと後ろに目をやると、一瞬だが人影が見えた。
今日の視察中にも実は気配を感じていたが、ノーラに不安を与えないために平然を装っていたのだ。
「言われた通り護衛つけないとだよね~……」
大きなため息をつくエリナをよそに穏やかに眠っているノーラから元気をもらって帰路へつくのだった