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ようやく王太子殿下登場!




アルのエスコートでパーティ会場へ突入した。

なんか、すっげえ見られている気がする。

この国では珍しい、黒髪同士の二人連れだからかな。どんな国でも珍しい、きらきら放出する男がいるからかな。


うん、きっと、後者だ。

アルのせいだわー。迷惑な男だな。さっさとバラけよう。

どうせアルはいろんな人に挨拶しまくりで忙しいんだ。

わたしはこの後、壁に張り付いてスイーツ食うんだもん。

前回のパーティでは食い損ねたからね。



そう思ったのに、アルがみっちりついて離れない。

まあ、王太子殿下への挨拶くらいは二人で行くよ? でもさあ、今もアルに話しかけたくてうずうずしてる風な人がいっぱいいるじゃん。

ほれ行け。さっさと行け。わたしを解放しろ。



距離を取ろうとしたわたしの手を、アルが握ってきた。

かなり緊張感を漂わせている。

なんでこんなに緊迫してんだ。

パーティ会場に何かあるのか?


敵国のスパイ? 暗殺者? 破壊工作員?


辺りを見回すが、わたしの目には怪しい影は映らない。

ちらちらとこちらを伺う目はいくつかある。だが殺気のようなものは感じない。

わたしはアルに身を寄せた。

周囲に聞き取れない声でアルに問いかける。

近衛時代に身につけたスキルである。



「……アル、どうした?」

「レイ、これはマズイ」

「なんだよ、深刻な顔して」

「想定以上だ。防御が間に合わない」

「……敵と、目的は?」

「敵は会場中の男全て。

みんなレイの、可愛さにやられてる」

「……は?」

「……しくった。

『ちょっとお目にかかれないくらいの清楚な少女、レイ』の完成度が高すぎた。

メイド長と要相談だな」

「……」


わたしは黙ってアルの頭をシバいた。

わたしの知らないところで、メイド長となんてくだらない企画してんだ。

周囲の人間が呆気に取られているが、気にしない。

アルはシバかれても嬉しそうにしていた。


……だめだ、今日のアルは。

脳内のピンクが変な方向に働いてる。

なんとか理由をつけて早く帰ろう。

こんなドレス早く脱ぎ捨てて、さっさと質に入れよう。

じゃないと、アルが変態のままである。

わたしはそう、心に誓った。




王様、王妃様へご挨拶、王太子殿下へは帰国のお祝いを儀礼的に申し上げて、ついでに二人の姫様に小さく手を振った。

姫様たちは六歳と八歳。もう、見てるだけで可愛い。

近衛兵時代、わたしは唯一の女性近衛兵だったから、基本的に王妃様のお部屋警護が任務だったのだ。おかげて王妃様と二人の姫様とは、わりと気安い仲になっている。



よし、挨拶も済んだし、あとは自由時間だ。

魅惑のスイーツコーナーへ突入だ。

コルセットをしない理由はここにもあるのだ。

絶対うまいもん出るんだから、食べなきゃ損じゃん。自動的に王室御用達レベルが並んでるんだぞ。

甘いの行ってしょっぱいの行って、また甘いの食べるんだー!



なのに、アルの手が離れない。

ずっとわたしの腰を抱いてるんだが、そろそろ離してもいいんじゃない? 自分で暑苦しいとか思わないのか?


「レイ、一曲踊っておこう」

「やだ」

「やだ、じゃない。

そもそも一曲くらいダンスしておかないと、不敬にあたるの」

「くはっ、めんどくせえな、貴族!」

「踊らない方が面倒なことになるよ。

踊る価値のないほどの演奏でしたか、とか、楽しめてないようですね、とか」

「うわ、何それ。イミ分かんねえ。

しかも、わたしがダンスできないこと、アル知ってんじゃん」



貴族的な子女教育をすっ飛ばしているわたし。

さすがに淑女的なお辞儀くらいは、できるようになったけどね。

ダンスなんて、一朝一夕で踊れるようなもんじゃないんだから。わたしは基本的に陸軍の任務あるから、ダンス練習なんかする時間取れないしさ。


アルはそんなこと全てわかっている、という顔でにーっこりと笑った。


「会場の音楽に乗って、手をつないだまま、絶対に下を見ず俺の足を踏まない、ってゲームするよ」

「また、あれかよ!」



前回のパーティの時にやったやつだ。

割と大変なんだ。

しかもあの時は、わたしを笑わせまくる悪いアルがいたし! 笑い死にするとこだったわ!


「……笑わせんなよ」

「笑顔はキープで、よろ」

「……努力する」



楽隊の音楽が始まる。

余裕ぶっこいた顔のアルにしがみついたまま、なんとかダンスを乗り切ったわたし。

頑張ったと思う。

ちゃんと笑顔は保ったと思う。


でもダンスって、いろんなパターンがあって、音楽によってステップが違うなんて、庶民は知らねえからな!

前回のステップと、全然違うじゃん!


最後にお互いに礼をして、顔を上げたときのアルの勝ち誇った顔を想像してほしい。

ムカつく。



「……三回踏んだね」

「初見であれだけついてったわたしは、褒められていいと思うんだけど!」

「ペナルティはペナルティ」

「アルって性格、どんどん悪くなってない?!」

「三回分のペナルティ、何にしようかなあ。すごい、楽しみ」

「アルは、昔はそんな子じゃなかったけどね! どうしてこんな大人になっちゃったんだろうね!」

「性格の悪い、婚約者のせいじゃない?」



ニヤついていたアルが、ふと真顔になった。

会場の一角に視線を流している。


「……陸軍の幹部が集まりだした。さすがに行かないと」

「おー。お仕事、行ってら」

「レイは壁の花に徹すること。ダンスは全て断って。話しかけられても愛想良くスルー。喧嘩も売らない。

絶対に余計なこと、するなよ?」

「……どんだけ信用ないんだよ、わたし」

「実績が裏打ちしてるから」

「……ちょっと、返す言葉がなかったわ。

分ーっかったって。壁に張り付いてメシ食ってる」

「ただメシだからって、がっつくなよ。皿に盛りすぎるな、品良く、優雅に!」

「お前、言ってる内容がメイド長にそっくりだな」



アルは何度も念押しして、陸軍幹部の集団へ足を向けた。

よし、解放されたー。

まずは壁を確保だ。適当に会場が見渡せる場所確保して、とりあえずはお金持ちの衣装の金額当てゲームでもしますかね。



わたしは壁に向かって歩き出そうとした。が、そこは壁だった。

なんか知んないけど、人の壁だった。

お? 囲まれてる。

わたしは身長が低いから、壁を見上げる形になった。

ここ、パーティ会場だよな?

でも、この囲まれ方ってさ……。

……リンチじゃね。



わたしは自然と拳を構えた。

アルは喧嘩売るなって言ってたけど、買うなとは言ってなかった。

どういう理由でわたしに喧嘩を売ってきたんだかは知らないが、売られてるからには買うに決まってる。

そんでもって、なんだか男ばっかりなんだけど、遠慮なく全員ぶちのめしていいということか? 一対多数の喧嘩で女一人だったら、殴られても文句言わないよな?


わたしが喧嘩やる気マックスでニヤリと口を歪ませると、近くの数人が手を伸ばしてきた。

おお、来るか!


「お嬢さん、私と踊っていただけませんか」

「……は?」

「いえ、僕と踊りませんか。ぜひあなたをリードしてみたい」

「はあ?」

「私と語り合いませんか。あなたの黒い瞳を独り占めさせて欲しい」

「はあああああ?」


喧嘩じゃないの? リンチ陣形じゃなかったの?

わたしは構えた拳を下ろすしかなかった。

じゃあ、なんでこんな壁になるくらい人が集まってんだ? 大道芸人でもいたか?

辺りを見回してみるがよくわからない。

なんだかよく分かんないけど、誘いは断りまくればいいんだよね。



ダンスは堪能しました少し疲れちゃって学がないのでお話はまた今度とか言い続けてるわけだけど、キリがねえな!

わたしのあまり長いほうではない気がどんどんすり減って、いつぶちギレてもおかしくないところまできていた。

断ってもしつこく誘ってくるやつとか、ホントやめてほしい。断ったんだから、その場を去れ! あの手この手を使おうとするな。どの手を使おうが当たりはない!

下ろした拳を、もう一度上げようかとした時だ。



わたしの目の前の壁が、さっと左右に割れた。

一人の男性がわたしに向けて歩いてくる。

明るい金髪に生き生きとした碧色の瞳。絵になる男だ。

王族を示す紋様がはっきり分かるタイを締めているその人には、先程遠くから挨拶したばかりだ。

周囲の壁から「殿下」「殿下がなぜ」という声が聞こえる。



王太子殿下が、目の前に立っていた。



王太子殿下はわたしの前で、スタイルのよい身体を見せている。アルほどではないが背が高い。

笑いを含んだ表情でわたしを見つめた。



「ローレイ」

「あ、おにいちゃま」



王太子殿下は一瞬かくっとこけた。

わたしを恨めしそうな顔で見てくる。


「……ローレイ、おにいちゃまはないだろう」

「いやあ、姫様たちにつられて、つい。

姫様たちいつも、おにいちゃま遊んでーって、言ってたじゃないですか」

「あれは、妹だから。他にそう呼ぶ人はいない」

「そりゃそうっすね。失礼しました」



殿下とは顔なじみである。

確か、お年はわたしの二つ下だ。だから、今年十五歳のはずである。

なんせわたしは、しばらく王妃様のお部屋にて警護任務を行っていたわけで。人懐っこい二人の姫様と、任務中にバトル……げほげほ、ゲームなども行っていたのだ。


王太子殿下も時々王妃様と妹姫たちに会いにいらしていたので、何度か会話することもあった。

というか、殿下はゲームにも何度か参戦している。

しかも、一度優勝をかっ攫われたこともある。それまでわたしの全戦全勝だったというのに。


わたしが配属されて半年ほどして他国へ留学されたので、お会いした回数はさほど多くはないが、わたしの人となりはわかっている人だ。

主に、礼儀がなってない、というところである。



殿下がゆっくり歩き出すので、わたしもついて歩いた。

さすがに王太子殿下の後をつける貴族たちはいない。だが警護らしき人達は付いてくる。近衛の腕利きの人達だ。



「……ローレイ、久しぶりだな」

「お久しぶりです。

なんか、目線をかなり上に上げなきゃ、殿下の顔が見えなくなったんですけど」

「一年で十五センチ伸びた」

「うおう、どいつもこいつも。わたしをどんどん見下ろしにやって来る……」

「ローレイは小さくて、可愛いままだね」


殿下はくすくす笑っている。綺麗な顔立ちだから、それだけで華がある。殿下を盗み見ている女性たちから、ほわんという空気が生まれていた。

ただ、わたしには耐性がある。

四六時中極上のきらきらを浴びているので、特に何ということも無い。



「殿下はお世辞がおじょーずで」

「可愛いは本心から言ってるけど?

特に今日みたいなローレイは、初めてお目にかかったよ。いつも近衛兵の格好だったじゃないか」

「……今回はですね。とある大貴族の陰謀に巻き込まれまして」

「ローフィール侯爵だね? よくやったと褒めたいくらいだけど」

「やめてください。図に乗ります」

「実に清楚に作り上げられてるよね。

母上もそう言ってたよ。……というか」


殿下は耐えきれないというように、笑いだした。

喉の奥から笑い声がもれている。


「ローレイ、その清楚で儚げな姿で、ローフィール侯爵殴ってただろ」

「あ……」

「大変だったんだから。

あのシーン、母上の笑いのツボに入っちゃって」

「王妃様、笑い上戸だから……」

「真面目に挨拶してくる大臣を前に吹き出しちゃってさ。その場は誤魔化したけど、涙流して笑うから、一度裏でメイク直しに入ったりとか」

「あはははは」

「笑い事じゃないんだからな」


軽くわたしを睨んでくる殿下。目は笑ってるけどね。

王太子殿下がわたしに向き合った。

片手を胸に、片手をわたしに差し出した。


「私と踊っていただけますか、お嬢さん」



……ほえ?




ニブイって面白い。


次回で完結します。

本編の方も覗いていただけると嬉しいです!

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