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第22話① カーティスとの会話


==杏耶莉(あやり)=マクリルロ宅・リビング==


「やっと治ったー!」


 灼天の節に突入して数週間。熱帯の気候にも慣れた頃に、私がドレンディアで受けた怪我が完治だとマークの診断で言い渡された。


「完治したからと言って、今後は危ない事はしないで貰いたいんだけど……」

「それは、可能な限りそう思ってはいるけど……」


 何らかの事柄が目の前で起きれば、その約束は頭からすっぽり抜け落ちることだろう。


「……キミの身に何かあれば、これまで取ってきたデータが無駄になるじゃないか」

「だよね……」


 マークは時折思わせぶりな事を発するが、その実は彼の研究に繋がる。


(その優しさを他に向けられれば、モテそうなのに)


 近くに住む人達にも変人扱いされる彼だが、資産容姿共に優良物件にもかかわらず、浮いた話は一切聞かない。

 精々接する時間が極端に短いドロップ店の店員程度なものだ。


(頻繁にお使いを頼まれるせいで、嫉妬深い目を向けられるのは止めて欲しかったり……)


 確証に近いとはいえ、憶測だけで他人の恋路に介入するのも憚れる。だからこそ、そのしわ寄せが私に向いていたりする。


「……また変な顔になっているよ?」

「おっと……、気を付けないと」


 私は頭で何かを考える際に、顔に出る癖があるらしい。自覚していなかったが、それを聞いてからは直すように心掛ける様にしていた。


「アヤリー! 来たぞー!」


 玄関のベルを鳴らすのと同時に、カティの声が聞こえる。

 事前に経過として今日の診察で完治するかもしれないと言伝していたので、様子見に来たのだろう。


「はーい」

「……ボクは研究に戻るよ。 彼との特訓も程々にね」

「わかってるー」


 研究室へと向かうマークを背にして、玄関で待つカティの元へと向かった。


 ……


「ってことは、ランケットが認められたってことなの?」


 カティと会話をする際に、彼の所属……正確には臨時とのことだが、その自警団ランケットが、国に認められたとの報告を受けた。


「そうだな。 以降は公的機関として活動することになる。 活動内容や方針に変化はないが、権力を得た事は利点が大きいと言えるな」

「ほへー」


 頻繁に見かけるランケットの人達は、町の人と友好関係が築けているらしく、好意的に話しかけられているのを見かける。そんな人達が認められたのは良いことなのだろう。


「とはいっても、その次に俺が引き受けた仕事が拍子抜けでな。 ……何だと思う?」

「え? ……ぎ、銀行強盗の鎮圧とか?」

「それのどこが拍子抜けなんだよ……。 それがな、畑を荒らす害獣駆除だった」

「駆除……」

「そうそう。 害獣って言っても、大したことなくて、群れを率いてた長を倒したら、散り散りになって逃げてったよ」

「ふーん」


 そんな会話をしていると、話題が途切れて沈黙が流れる。


「……そ、そういえば、ドレンディアの時以降、こうしてアヤリと落ち着いて話す機会もなかったな……」

「あー、確かに。 言われてみれば久しぶりだよね」


 あの女の子が給仕をしているランケットの酒場には意識的に近づかないようにしていた。だからこそ、彼と連絡を取る手段がなく、どうしてもという理由もなかったので、合わなかった。カティ側から接触してこなかったのも一因するが。


「……アヤリ。 変なことを聞いて悪いんだが、マークの事をどう思ってる?」

「マーク? 別に、何時も研究の事ばっかり考えてるなーって思うけど」

「そうじゃなくてだな。 ……その、異性として……」

「へ?」

「――いや、何でもない! 他意はないんだ! 忘れてくれ!」

「……あ、わかった!」

「なっ……」


 私はある可能性について思いつく。


「カティくん。 あのドロップ店よく利用するよね?」

「あ、あぁ……」

「あの店員の人、マークの事好きっぽいんだけど、その偵察を頼まれたんでしょ?」

「は?」


 私の推理によれば、以前カティとあの店内で会話をしたことがある。だから私とカティが知り合いであると判断した彼女は、カティに探りをするよう頼んだのだろう。


「面倒だからカティくんの方から言っといて。 私、マークの事を別に何とも思ってない、って」

「あ、あぁ……」


 勘違いの嫉妬で、襲われでもしたら面倒なので、第三者である彼に解決を求めることにした。

 厄介毎に巻き込まれたことに気が付いたのか、えらく落胆する様子のカティを元気付けるべく、自家製の果実水をあげたら喜んでくれた。


 ……


 偶には会話の話題を提供してみようと、出会わなくなってしまったサフスのランケットでの様子について聞くと、何故かカティは不機嫌になる。


「サフス……、サフィッドか? 何でまた」

「いや……、教会の講義を受けなくなったから会わなくなってて、ちょっと様子が気になったから」

「……サフィッドについて、どう思ってる?」

「へ? うーんと……小難しい所があるけど、それを踏まえて、可愛い?」

「かわっ……。 それってどういう意味なんだ?」

「そのままの意味だけど? 何と言うか……、カティくんもそうだけど、小さくて可愛い」

「お、俺もなのか?」


 はっきりそう告げると、何故かカティは落ち込む。


「私、結構子供好きみたいで、近所の保育園……小さな子を預ける施設が元の世界にあるんだけど、そこで散歩とかしてるのを見かけると、ハグしたくなるんだよね」

「子供……」

「あ、カティくんもぎりぎり可愛いから安心して?」

「ぎりぎり……」


 少しの間、俯いていたカティだったが、「はっ」とした表情で顔を上げる。


「俺、勇者として大人だった記憶があったりするんだが……」

「? それがどうかしたの?」

「いや……、その……。 大人な行為をした記憶も、だな……」

「??」


 表現が曖昧で、何を言いたいのかが理解できない。


「よくわかんないけど、サフスについて教え――」

「決めた! 今からアヤリの特訓するぞ!」

「え?」


 そう言い放った彼は、マーク宅の庭へと歩き出す。


「俺がどれだけ強いか見せてやる。 どの道、実戦に近い特訓をするつもりだったしな」

「今から?」


 私の恰好は、運動をするような服装ではない。


「実際戦闘になった際に、そういう服を着ていないとも限らないし、それで構わないだろ」

「……汚れたら洗濯が大変なんだけど」


 そう言いつつも、彼の言葉に一理あると考えた私は、そのままの恰好で追いかけて庭へと向かった。


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