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第15話② レスタリーチェ本家


==カーティス=レスター列車駅・ホーム==


「よっこいしょっと……。 ずっと座ってるのも疲れるねー」


 列車を出るなりアヤリは大きく伸びをする。隣を歩くマクリルロも面倒臭そうに欠伸をする。

 朝早い時間に乗車したのだが、空を見ると既に夕焼けに染まっている。


「……結構時間が掛かったね」

「これでも大国の半分近くを横断してるからね。 列車(これ)も速度に優れている訳じゃないし……」


 彼らは言葉の通り、異次元の話をしていた。本来節単位の時間が掛かる移動距離を日単位で動ける列車に不満げなのだ。


(こういう話をすると、異世界人だ。 って実感するな……)


 多少は交流を重ねている自覚はあるが、根本の考え方が彼らは違うということなのだろう。


「……っと、時間なくなるぞ?」

「それは問題ないよ。 宿を取っているからね」

「そうか……、じゃあその宿に――」


 駅から出てすぐにその気配に気が付く。かなりの手練れ集団が俺達を囲い込んでいるらしい。


「宿の方角は……あっちだね」

「私は早く横になりたい。 体が凝って凝って……」


 二人はのんびりとした会話を続ける。この気配にアヤリとマクリルロは気が付いていないらしい。


「お前ら、ちょっと待て!」

「え?」「ん?」


 強い口調でそう告げると、流石に何らかの事態であると理解したのか、会話を止める。


(だが、これで俺がこいつ等に気が付いていると伝わっちまったな……)


 圧倒的に経験不足のアヤリと、戦えないマクリルロ。殆どその二人を守りながらということになるのならば、厳しい戦いが予想された。


「おねぇさま。」

「――!?」


 そんな折、いつの間にか近距離に迫っていた小さい男の子がアヤリの背後に立っていた。

 その身なりは明らかな貴族。それも公爵家の血筋であることを示す紋章が胸に付けられていた。


「え、ぼくどうしたの? 迷子とかかな?」


 衣類から格を把握出来ていないのか、アヤリはそこいらの子供と同じような対応で男の子に話しかける。


「まいごではありません。 ぼくはレスタリーチェけのつかいとしてさんじょうしました。」

「レスタリーチェ家……」


 レスタリーチェ。この国の公爵家にしてその影響力は王族に次ぐと伝えられる大貴族の名称である。

 そういえば俺はほぼ面識はないが、アヤリはチェチェという末代と仲が良かったはずだった。


「もしかして、チェルティーナさんの所の?」

「はい。 ぼくはチェチェおねぇさまのおとうと。 ルピルド・レスタリーチェです。 アヤリおねぇさま。」

杏耶莉(あやり)お姉様って、私の事?」

「はい。 チェチェおねぇさまより、アヤリおねぇさまがこのりょうをつうかするのでもてなすようにと、たのまれております。」


 どうも、自らの屋敷に招き入れたいらしかった。この家系に関しては悪意はおそらく存在しないのだろう。

 だが、俺の立場としては断りたい内容だった。


「……アヤリ、断ってくれ」

「え? でも折角だし、招待してもらえば――」

「あなたがカーティスさまですね。 ていこうするならぶりょくこうししてもかまわないとつたえられています。」

「……」

「かなりのじつりょくをおもちときいておりますので、しへいのくんれんにつきあっていただけるということでしょうか?」


 ルピルドは小さい図体ながらも、ギラギラとした目で俺を見つめる。


(うわ、本気の目だな……)


 この様子なら、冗談ではなく言葉通りに実行するだろう。


「はぁ……わかった。 俺が折れるよ」

「ごきょうりょく、かんしゃいたします。」


 事実、今俺達を取り囲んでいる連中と事を構えるのは厳しいものがある。


「……マクリルロは構わないのか?」

「ボクかい? ボクは休めれば何でもいいからね」

「あそう……」


 半ば無理やり、レスタリーチェ家の屋敷を利用することになってしまった。


「それで、ボクが予約した宿はどうなるんだい?」

「それは、ぼくらのほうでことわりをいれておきます。」


(気にするところはそこじゃないだろ……)


 どこか感覚のズレたマクリルロに心の中でツッコミを入れながら、この町の中心に鎮座する彼らの屋敷へと向かった。


 ……


「貴方達がチェルティーナの友人ね」

「はい、今日はよろしくお願いします」

「良いのよ。 久しぶりに連絡を寄こしたと思ったら、これを頼まれただけなのだから」


 レスタリーチェ家にしては至って普通の女性に見える彼女は、年齢からしてチェチェの母親なのだろう。


「――ちょっと、エルメナ! お客様は私が出迎えると言ったでしょう!?」


 そんな挨拶もそこそこに、奥から高齢の女性が現れる。


「あっ……」


 ()俺は思わず声に出して驚いてしまう。年齢こそ重ねているが、その姿は見知った()()()のものであった。


(――違う!)


 引っ張られそうになる意識を頭を振って無理やり戻した。


「えっと、あなたは?」


 俺の気が散っている間に、アヤリが()()()()()()へと声を掛ける。


「私はメルグリッタ・レスタリーチェ。 チェルティーナの祖母であり、現レスタリーチェ家当主ですわ。 お見知りおきを」

「は、はい。 アヤリ・ハルミヤです。 よろしくおねがいします」


 メルグリッタは腕を組んで、自身あり気な表情を作って挨拶をした。


「御母様、またそういう挨拶を……」

「そう言う貴方は挨拶を済ませたの?」

「まだですわ。 エルメナ・レスタリーチェ。 宜しくお願い致しますわ」

「は、はい……」


 エルメナと名乗った女性のみ、普通のカーテシーによる挨拶を行った。


「ボクはマクリルロ。 マークとでも呼んでくれて構わない」

「……俺はカーティスだ。 カティとでも呼んでくれ」


 メルグリッタは俺を見るなり、目の色が変わる。貴族社会に慣れていない人間ならまず気が付かない程度に動揺が走るが、それを悟られないように平静を装っていた。


「では、使っていただく部屋をご案内しますわ」


 その言葉に応じるように皆で建物内を進んで行く。


「(……カティ様、この後お時間宜しいでしょうか?)」


 アヤリやマクリルロに聞こえない声量で、メルグリッタはそう話す。答えるようにかすかに頷くと、案内をするために列の先頭へと戻っていった。


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