第15話① ドレンディアへ向けて
==杏耶莉=マクリルロ宅・リビング==
(髪、伸びてきたな……)
カティとの特訓を初めて数か月、快天の節が終わりを迎える頃に自分自信の変化に気が付く。
元々髪は短めにカットするのを好んでいたが、ここでは短い髪型の女性は不必要に目立ってしまうので伸ばしていた。
(なんだかんだで前髪を整えるのにも慣れちゃったし……)
肩に髪が触れるのに違和感を感じていると、研究室の方から叫び声が聞こえた。
「もう我慢ならないな!」
届けられた大きな宅配物を嬉しそうに研究室に運んでいたマークだったが、どうやら問題があったらしい。
「……どうしたの?」
「どうもこうもないよ! 相手の顔が見えないからって、粗悪品ばかり送られてくるんだ」
箱に入れられたドロップのうち一つを取り出して私に見せる。
「……わかんない」
その手の鑑定能力は有していないので、何を基準に粗悪品であるのか把握できなかった。
「ドロップ内にエネルギーが十分溜まっていれば、このあたりまで色が付くんだよ。 けど、これはこのあたりまでしかないし、外殻の厚みも均等ではないから脆い。 完全な欠陥品だよ」
「へー……」
珍しく感情的なマークは怒りの感情を隠さずにそう話す。
「これはドレンディアで多く排出されるドロップを仕入れたんだけど、どれも研究への使用に耐えうる質じゃない。 これで三度目だよ。 これだけの事をするからには、ボクにも考えがある……」
ドレンディア、正式にはドレンディア共和国。この国、レスプディア王国の南方に位置する国の名前だった。
「考え?」
「今からドレンディアに向かう。 現地で文句を言いながら、実際に確かめて仕入れることに決めたんだ」
「……遠出するって事?」
「そうなるね」
殆どの時間をこの家で過ごしいるマークが、居なくなる事になる。
これでも保護者という扱いなので、その間に問題が起こらないか不安に感じる。
「アヤリー、来たぞー!」
丁度その時、玄関の方からカティの声が聞こえる。確かに今日は、彼との特訓の日であった。
「ちょっと待ってー!」
玄関前に立たせるのも悪いので、一先ず彼を中に招き入れる。
「今日は俺との日だろ? って、どうかしたのか?」
「どうもこうもないね。 実は――」
マークはカティにも同じ説明をする。
「ふーん、ドレンディアにね……。 確かに、俺もこの町に長く滞在してるからな。 偶にはそっちに出かけるのもいいかもな」
「おや、折角なら同行するかい?」
カティがマークの研究を手伝うようになってから、彼らもそれなりに仲良くなっていた。
とは言っても、カティが珍しいドロップの使用をマークに試して見せていただけだったのだが。
「え、マークもカティくんも居なくなっちゃうの?」
「そうだな……、俺も同行することにするか。 折角なら、アヤリも来ればいいんじゃないか?」
「え?」
カティのその提案に驚く。
「……確かに、キミは殆どこの街から出ないで過ごしているからね。 折角なら、この世界を見て回ってみるのもいいかもしれない」
「えぇ……」
自らの意思とは無関係に、私の同行も決定づけられている。
(いや、別に。 嫌って訳じゃないんだけど……さ)
旅……というよりは旅行が嫌なわけではない。寧ろ好きな部類に入るだろうけど、勝手に決められるのは頂けない。
「……私の意見は聞かないの?」
「それなら聞くけど、興味はないのかい?」
「それは……、あるけどさぁ……」
「なら構わないよね?」
「……」
絶妙にぞんざいな扱いを受けるのは気にくわないが、かといって置いて行かれるのも癪である。ここは素直に従うことにした。
「で、出発はいつにするんだ?」
「そうだね……、もろもろの手配も必要だし、キミや彼女の連絡も必要だろう? ……五日後ぐらい後でどうかな?」
「分かった、それで行こう。 アヤリもそれで構わないか?」
「そうだね……」
私も騎士見習いだし、それ以外の知り合いにも町を出ると声は掛けておいた方が良いだろう。
「それなら俺は準備するから、今日の特訓は中止で大丈夫か?」
「りょーかい」
「準備って、なんの準備だい?」
「……向こうの知り合いに、土産でもと思ってな」
「へぇ……」
カティは様々な土地を巡って、今この町にたどり着いたと言っていた。その途中で出会った知り合いも当然居るということなのだろう。
「じゃあな。 集合は五日後の駅で構わんか?」
「それで構わないよ」
「おう」
軽快に飛び出す様に出て行ったカティを見届けてから、マークに向き直った。
「それで、私は何をすれば良いの?」
「……キミに頼みたいことはないから、旅支度と知り合いへの連絡を済ませて貰えば構わないよ」
「わかった」
……
それから五日後、実際にドレンディアへと向かう日になった。早めに駅のホームに着いて、列車が到着するのをカティ、マークと共に待っていた。
チェルティーナやサフスといった知り合いへの連絡は兎も角、見習いとはいえ騎士に所属しているのだが、特に給料を得て活動しているわけではないので、休むのは構わないと言われた。
「レスプディアの南部まではこの列車で向かう。 その後に乗り継ぎ馬車で国境を越える予定だよ」
「やっぱりそれが早いよな」
「列車は大丈夫なんだけど、馬車は酔うから苦手だな……」
「使用経路は道整備がされているから、以前程揺れないから大丈夫じゃないかな?」
「確かに、揺れなかった記憶があるな」
「そう? カティくんはここに来る際も同じ経路だったの?」
「そうだな。 金銭的負担は多いけど、その分早く移動できるからな」
「支払いはボク持ちだから、気にしなくて構わないよ」
そんな話をしていると、大きな音を立てて列車が向かってくる。
「そういえば、これもドロップで動いてるんだよね?」
「その通り、ボクが技術的援助をして、この世界で作成可能にした技術の内の一つだよ」
「ほんっと、やりたい放題だよな……」
カティによれば、これらの技術は他国では開発されておらず、レスプディアは圧倒的技術力の優位性を得ているらしい。
列車が止まり、わらわらと乗客が出てくるのを待ってから、マークが荷物を持ち上げる。
「それじゃあ、行こうか」
「おう」
「はーい」
ドレンディアへ向けて、三人での初めての旅行が始まった。




