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第14話① 不審な研究者


==カーティス=エルリーン・南中央道==


 突如アヤリに抱き抱え上げられる。


「や、やめろぉー!」

「いーじゃん。 減るもんでもないんだし」


 そういう問題ではない。往来でこのような扱いをされるのは羞恥心が刺激されるので、勘弁願いたかった。

 無理やり蹴飛ばしでもすれば離れることは可能だが、仲の良い女の子にするような行為ではないので、彼女の意思で離すことを促す。


「……意味が分からんし、一先ず降ろしてくれ」

「はいはい」


 慌てず冷静にそう頼むと、すぐにアヤリは地面へと俺を降ろした。


「……立ち話も何だし、マークの所にでも来る?」

「あそこか……」


 以前尋ねたことがあるあの家のことだろう。そこに彼女は居候していると話してたが、その家主とは会っていなかった。


「それは構わんが、突然訪問しても良いのか?」

「うーん……、大丈夫でしょ」


 適当な態度でそう返す。一応借りている身分なのにいい加減なものである。


「はぁ……、じゃあそこに向かってみるか。 最悪門前払いされても構わんしな」

「そうしよう!」


 何故かハイテンションな彼女と共に、町の西側へと向かった。


 ……


「というわけで、連れてきちゃった」

「ボクは構わないよ。 で、キミがその友達クンかな?」

「あ、あぁ。 カーティスだ……」


 彼女の保護者だという男性は、余りにも異質な出で立ちだった。

 材質のわからない眼鏡を付けて、真っ白な衣を身に纏い、顔立ちや髪色もどの大陸とも違う特徴だった。


(何者だ……?)


 素性が判断できない男性に一瞬身構えるも、アヤリが信頼している様子から、一度警戒を解いて様子見をすることにした。


「初対面だもんね。 彼はマーク……じゃなくて……、何だよね?」

「本名で覚えていないんだね……。 ボクはマクリルロ・ベレサーキス。 よろしく頼むよ」

「……よろしく」


 手を差し出してきたので、それに応じて握手をする。


「で、キミは何者だい? その髪色について教えて欲しいな」

「!?」


 強く手を握ったまま、そう尋ねられる。驚いて手を離そうとするが、強く握られているので離れない。


「それはねマーク。 カティくんは勇者ごっこしてるんだよ」

「……なんだいそれは?」

「それは――」


 この国の子供の間で流行っているらしい勇者ごっこについて彼女は説明をする。


「ふーん……。 そうなのかい?」

「……」


 実は勝手に勘違いされることはあったが、そのごっこ遊びとやらをしていると宣言するのは抵抗があった。


「そういう子供っぽいところもあるんだよね?」

「本当にそうなのかい?」

「ぅ……」


 マクリルロという男性は、きっぱりとさせたい性格らしくしつこく質問してくる。


(……どうする? プライドを捨てて嘘をつくか? でも、それで良いんだろうか……)


 マクリルロは兎も角、アヤリは出会ってそれなりに交流しているので、騙すのは気が引けるし、嫌な嘘のつき方なのも気に入らなかった。


「……だよ」

「へ?」「ん?」

「俺は、本物の勇者だよ!」


 王子とグリッドにしかバレていない秘密を明かした。この国に来て自ら宣言するのも初めてだった。


「そういう遊びだもんね。 そう答えるかー」

「……キミはそれを証明できるかい?」


 いまだにそのごっこだと信じているアヤリは置いといて、マクリルロは更に俺に対して追及を続ける。


「はぁ……」


 手持ちのドロップから水のものを取り出してディートする。前髪をかきあげて、生成した水球をコントロールして何度か通過させる。

 勇者か、その末裔でもなければ染めない限りこの髪色にはならない。染めているなら水に触れれば多少は色落ちして水がその色に染まるというだろう。


「ほら、これで良いか?」


 狂いなくコントロールした水球をマクリルロの前に差し出す。


「……ふーん。 でも、キミが末裔か何かではないという保証は?」

「なら、使える奴が少ないドロップを幾つか持って来てみろよ」


 ぶっきらぼうに答えると、彼は少し考える仕草をしてから奥の部屋に引っ込んだ。


「え? カティくんって、本当に勇者なの?」

「……そうなるな」

「え! えーー!!!」


 驚くアヤリを尻目に、戻ってきたマクリルロに目をやる。彼が手にしていたのは毒、吹き矢、インク、紋章、面、占いという役に立たなさそうな種類のドロップスだった。


「本物なら、キミは()()適性を持っているだろう?」

「……」

「……試してみてもらえるかな?」

「あー! わかったよ!」


 受け取ったそれらを次々と試していく。 空中に毒を出したり、それ以外の物品も生成する。唯一生成物の存在しない占いはすぐに証明しようがないが、そこまでの時点でマクリルロは満足そうな表情だったので、構わないのだろう。


「……お前は今日、水害に遭うだろうな」

「随分と抽象的な結果だね」

「占いってのはそういうもんだろ?」


 必ず命中するという保証はないが、俺のこれ以上ない適性なら間違いなくマクリルロは水害に直面することだろう。


(規模は大したことないだろうけどな)


「私も占って?」


 自らに指を指すアヤリも一緒に占ってみる。


「……これは? えーっと、今日間食とかしたか?」

「? 確かに食べたけど……」

「……そのことを近いうちに後悔するらしいな」

「本当!? どうしよう……」


 何故かその場で足踏みを始めた彼女を無視して、マクリルロに向き直る。


「……これで満足か?」

「十分だよ。 まさか、彼女が勇者と交友していたなんてね」


 怪しい笑みを浮かべるマクリルロ。背筋がざわめくその表情に不信感を覚える。


「……俺は変な事に協力するつもりはないぞ?」

「おや、それは残念だね。 ボクがしていることはおそらく変な事だからね」


 彼は、キッチンの方を指差して笑いながら話を続ける。


「ボクは……例えばドロップ製品を作るといった、ドロップの研究をしているんだよね」


 以前ここに来た際に冷凍庫等が一式揃っていることに疑問を感じていたのだが、この男性はその開発に携わっているらしい。


「一応権利者なので、多少融通が利くんだけど。 どうかな?」

「……物で釣る気か? 研究ってのが、なにかは知らんが関わる気はないな」

「えー。 カティくんもやろうよ、研究!」


 アヤリは、先程のようなノリで今度は正面から抱きつく。背丈の関係から彼女が少し屈んだ状態のまま話を続ける。


「きっと楽しいよ。 絶対!」


 耳元の近い距離で話すので、声の振動が直接伝わる。同時に彼女の吐息も吹きかかるので、嫌でも意識させられ――


(――と、ちょっと待て。 アヤリってこういう事をする性格だったか?)


 以前の彼女の行動を振り返るが、非常識な言動こそする事はあった。だが、ここまで積極的にべたべたと他人に触れる性格ではなかった気がする。


「アヤリ、何か変わったか?」

「……何が?」


 肩を掴んで引きはがすが、そこには以前通りのどこか抜けている少女の顔があるのみだった。


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