第14話② 度を過ぎた技術
==杏耶莉=マクリルロ宅・リビング==
「……話を戻すが、俺は協力するつもりはないからな」
私を力強く押し返すと、カティはそう言い放つ。
「それなら金銭的――」
「だから、物で釣ろうとするなよ。 金も同じだ」
「弱ったな……」
どうしてもカティを研究に協力させたいらしく、マークはなかなか食い下がらない。私も彼の研究を手伝っている身なので、カティと共に何かできれば嬉しいのだが……。
「俺は唯でさえ普通じゃない。 俺が協力するメリットがなければ聞くつもりはないな」
その言葉に再び悩む様子のマークだった。彼の提供できるものはあくまで何かしらの品だけだということなのだろう。
私の場合は先立つものもなく、金銭的援助で手伝うと決めたのだが、当然カティの場合はそれだけで決められはしないだろう。
だが、私としても協力者は多い方が良い。特に知り合いで、気の置ける彼ならば気兼ねなく研究を手伝えるだろう。
「私からもお願いするよ」
「……アヤリからの頼みでも聞けないな」
「でも、マークの研究が進めば、いろんな人の適性が簡単にわかる様になったりするんだよ?」
「……適性なんて知らない方が幸せな事なんてたくさんあるぞ。 自分に他人を排する力があると知ってしまったり、逆に欲しかった才がないと気づいてしまったりするからな。 新しい物には必ずそれで損をする人間が居るんだよ……」
まるでそんな情景を見てしまったかのように話すカティの言葉には妙な説得力があった。
「でも、マークの最終目標。 ドリームドロップを作れるようになったら、世界は良くならないかな?」
カティはその一言に大きく反応する。
「――それは無理だな」
「そうかな? 諦めたら出来ることも出来ないよ?」
「いや、無理だ。 アレは人間の手の届くような代物じゃない」
「……そんなことはわかっているよ」
私達の言い合いにマークも割り込む。
「その異常性を理解した上で、ボクはそれを目指しているんだよ」
「それは、知らないからそんなことを考えれるんだな」
「……ボクは不可能を可能にするつもりだよ」
「どうやってするつもりだ。 俺の知る限りアレを再現できる技術なんて存在しない」
「……それは、この世界の基準かな?」
それはそうだろう。とカティは頷いた。
引っかかる言い方をしたマークは長考の末に、ため息を吐いてからにやりと笑って見せた。
「…………なら、見せてあげるよ。 それを可能に出来る技術力を、ね」
マークはカティと私を見渡してから、付いて来るように示しながら研究室の方へと向かった。
「え、私も? 入って良いの?」
以前、危険だからと立ち入らない様に言われていた。
そのお願いを律儀に守っていたので、その内部を私も見ていなかった。
「構わないさ。 いずれはキミにも教えることになっていただろうしね」
「「……」」
私とカティは彼の後を追って、その研究室へと向かった。
……
「な!?」「え……」
マークの研究室に入ってすぐにその異常性に気が付いた。曇りのないガラス製の試験管が並び、巨大な機械が幾つも室内に詰め込まれていた。
唯の機械ならこの世界にも存在するだろうが、それだけでない。空中に浮かび上がるパネルには私でさえ苦笑いを浮かべるしかない。
明らかにこの世界の基準から大きく逸脱した技術力で作られたそれらは地球並み。いや、それ以上なのだろう。それだけの技術力をマークは有しているという何よりの証拠になった。
「ボクが持ち込んだ機械類。 これさえあれば、キミの不可能という基準は越えられるかな?」
「は、はは……」
カティはこれまでにない放心状態で室内を見まわしている。その表情は驚きと困惑を行き来しているのか、目まぐるしく表情が変化していた。
「マーク、貴方は一体……」
「ボクかい? ボクは、キミと同じくこの世界の人間じゃない。 これで答えになるかな?」
「へ? あ、うん……」
いまいち実態は掴めないが、その言葉に嘘偽りはないと思われた。
「そもそも、キミは気が付いていたんじゃないのかい?」
「……貴方の口から言われた記憶はないんだけど?」
確かに、今までの情報から、彼が異世界人だという予想は立てていた。だが、それを本人の言葉で聞いていないし、確証があった訳でもない。
「……それは、……それを話すタイミングがなかったからね。 でもそれなら、最初に渡した翻訳機は何だと思ってたんだい?」
「あ……」
そう言われて初めて気が付いた。事実この世界の技術力では到底できそうもない事をあの小さな機械で成していた。
「確かに……」
「それは今気が付いたんだね……」
呆れた様子のマークだったが、そんな私を置いておいてカティに声を掛けた。
「で、キミはボクのことを信用してくれたかな?」
「……信用は出来ない。 だが、興味は湧いた。 俺はこの施設の凄さは一割も理解出来そうもない。 だけど、その研究とやらは手伝ってやるよ」
「それは助かるよ。 でも、その対価は何になるのかな?」
「……それはまだ決めてない。 後出しでの条件で良いなら協力するが?」
「キミ以上の研究対象は存在しないからね。 ボクに可能な事であれば構わないかな」
「……都度協力するかは俺が基準で決めるが?」
「それも、構わないよ」
「……なら、よろしく頼む」
「よろしくね」
彼らは再度握手をして協力を結んだ。
「じゃあ、今日からカティくんも仲間だ!」
もう一度抱きつこうとするが、ひらりと躱されてしまう。
「……何で避けるの?」
「それに付き合う理由がないからだ」
「……危険な物もあるから、この場所で暴れないでくれないかな?」
一先ず説得するために部屋を見せただけなので、三人共この場所を後にしてリビングへと戻った。




