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サタンの襲撃から三日が経ち、またも実加と沙織は正義のヒーローになっていた。


「どうしようブルー…サタン来たら気まずいよ。胃が痛いよ…」


「うだうだ言わない!パワードスーツ着たからには あんたはヒーローなんだから!サタンだろうがチタンだろうが、けちょんけちょんにしてやるのよ!」


「ブルー…」


ブルーの言う通りだ。実加は今、正義の味方 地球防衛隊のピンクだ。弱音を吐いている暇なんかない。沙織の横顔が いつもよりも凛々しく見えた。


「この私の柔肌に傷をつけたこと、絶対に後悔させてやるんだから!」


えっ?それって完全に私怨入ってるよね?と実加はブルーを二度見したが、燃える闘志の塊の沙織は 既に走り出していた。

闇色に染まり始めた空を仰げば、漆黒の鎧の男が虚空に佇んでいた。


「うはっ、さ、サタンだ」


なんて空気の読めない奴なんだ。と実加は数歩後ずさったが、勇敢にもサタンに飛び掛かる沙織を視界に入れると そのためらいも吹き飛んだ。

私は今、地球防衛隊のピンク。私は今、地球防衛隊のピンク。そう自身に言い聞かせて、実加も大地を蹴った。


漆黒のロングソードと青い光の刃で激しく斬り合う二人。実加は息を潜ませながら、サタンの背後の岩影に潜む。手の中にピンクの光球を生み出し、隙をついてサタンに ぶちかます寸法だ。しかし、サタンと沙織は 苛烈な斬り合いを繰り広げており、なかなか隙が生まれない。

普段の実加なら隙がないなら無理矢理にでも突撃して、隙を作る。かなり無茶苦茶な戦法をとる実加は、何度も沙織に注意という名の 説教を受けてきた。けれども、性格のせいか突撃癖は直らなかった。

それなのに、どうしてか二人の間に踏み込めない。足は すぐにでも飛び込んでいけるのに、実加の心がブレーキをかけているようだ。

どうして?何をためらっているの?そう自分に問うてみても、答えは出てこない。


そうこうしているうちに、体力が劣る沙織が押されてきた。ハッ、と今更ながらに目が覚めた様な気がした。もう ためらってはいられない。実加は 何かを吹っ切るように、強く頭を左右に振った。


すると その数瞬後に、沙織が何かに足をとられてバランスを崩した。


危ない!


この好機を逃すほど相手も甘くはない。サタンは一気に距離を詰め、ロングソードを目にも止まらぬ速さで逆手に持ちかえる。背中が ぞくりとした。沙織がやられてしまう。私のせいだ。私が ぐずぐずしていたから。


「サ タ ン っ ! !」


実加は怒号を発しながら岩影から飛び出した。怒りのためか、力が制御しきれずに暴走しかけている。

―――――――まずいかも…そう思った時には もう遅く、実加は サタン目掛けて手に持った光球を投げつけていた。そうして飛び込んだままの勢いを借りて、沙織を思いきり突き飛ばし、自身の攻撃から沙織を守った。


「ピンクーっ!」


沙織の絶叫が 切れ切れに聞こえる。ありったけの力を込めた実加の攻撃は、サタンに着弾してすぐに弾けた。

そして、サタンと その近くに居た実加も巻き込み、爆発した。衝撃で沙織は吹き飛ばされ、辛くも体勢を整えて なんとか着地した。


「ピンクーっ!」


煌々と赤く激しく燃え盛る爆心地に向かって、沙織は叫んだ。



身体が熱い。焼けるようだ。炎に包まれ、朦朧とする意識の中で 実加は 沙織の絶叫を聞いた。

よかった。沙織さん、無事だったんだ。自分の攻撃を自分で食らうなんて、馬鹿としか言いようがない。でも、実加は やりきったという達成感を感じていた。ここでリタイアしてしまっても、何も悔いはない。両親には何て報告されるんだろう。親不孝な娘で ごめん。ついに花嫁姿も見せられなかったな…ほんと、ごめん。


指先一つも動かせなくなってしまって、炎から辛うじて実加を守ってくれていたパワードスーツも、ついに あちこち燃え始めている。

終わった…と実加が意識を失いかけていた時、炎の中から漆黒の影が飛び出してきた。


サタン…!彼は鎧を所々焼かれながらも、生きていたのだ。この攻撃が直撃してもなお、炎の中を動き回れることに実加は驚いた。やっぱり、こいつは格が違う。私たちじゃあ敵わなかったんだ…沙織さん、サタンを倒せなくてごめん…


もう目を開けていられない。瞼が重くなり、ゆっくりと瞳を閉じた。


その時。



「気を付けてくださいって、言ったじゃないですか」



どこかで聞いた台詞を、聞き慣れた声が紡いだ。実加は反射的に目を見開く。声の先に目を凝らすと、そこには闇色を赤く燃やすサタンだけ。


ま さ か


絶句する実加を軽々と横抱きに抱え、サタンは焼けた大地を力強く蹴った。


すぐに ちりちりと身体を焦がす炎から解放され、吹きすさぶ風が熱を持った身体を撫でていく。


爆心地から離れた大地に着地すると、サタンは 実加を そっと地面に横たわらせた。冷たい土が肌に心地よい。そうして、横たわった実加に自らの漆黒のマントを外し、優しく掛けてくれた。パワードスーツが所々燃えて穴が開いていたので、この気遣いは正直 嬉しい。しかし、実加に触れる その手が あまりにも優しくて、実加は混乱した。


「あなた、もしかして…でも、そんな…まさか、そんなはず…」


当たって欲しくない。自分の推測が当たらないで欲しい。そう願いながら実加はサタンを見つめる。サタンは 実加を見つめ返したかと思うと、ふっ、と仮面の奥で一つ、笑った。


「あなたは か弱い女性なんだからって…言ったじゃないですか、佐藤さん」


その台詞は。実加に そう言ったのは。


「佐竹、さん…?」


実加が恐る恐る問い掛けると、サタンは やけにゆっくりとした動作で仮面を外した。仮面を取り、そこから現れた顔は、やはり―――――佐竹だった。


「どうして…佐竹さんが?」


無意識に震える手を握りしめながら、実加はサタンに問う。憧れの、好意を抱いていた隣人が、まさかの悪の組織の手の者だった。実加は目の前が真っ暗になった気がした。


「話せば長くなるんですよ。でも、これで今日から佐藤さんは――――」


そこで言葉を切ると、佐竹は ニッコリと満面の笑みを浮かべた。


「僕の花嫁ですね」


「…………………はあ?!」


突然の爆弾発言に、実加は耳を疑った。実加の反応に驚いた様子の佐竹は、不思議そうな顔をする。


「だって、直接手を下していなくても貴女は炎の中で動けなくなっていて、僕は それを助けました。それって、間接的に僕の勝ちでしょう?僕が勝ったんだから あなたは もう僕のものでしょう?」


トンデモ理論を繰り広げる佐竹に、実加は更に混乱して早口で「間に合ってます」、と返してしまった。すると、目を見開いた佐竹は


「そんな…どうして そんなことを言うんですか?やりたくもないのに 星の掟通りに戦って、嫌々あなたを傷つけてまでして、やっと花嫁に できると思ったのに…」


と、地面に膝をついて、うなだれてしまった。

嘆き悲しむ佐竹を見て、困ってしまったのは実加である。


「あのー…とりあえず、お話を聞かせてください?」


頭にハテナを たくさん並べて、実加は ついに涙まで流し始めた佐竹に聞いてみた。




聞いてみた結果、黒の組織の連中は、悪の組織ではないことが判明した。

彼らは、地球とは違う別の星から来た異星人だという。地球に よく似た環境の星で、彼らは人間とほぼ同じ生態を持つらしい。彼らは 少し、地球よりも科学が進んでいて、少し、人間よりも身体能力がハイスペックだが、基本は人間と同じだそうだ。

そして、本題。なぜ 地球に彼らが やって来たのかと言うと、彼らの星では年々女性が産まれなくなり、男性の割合が高くなってきたらしい。そうして、ついに女性がほとんど産まれなくなった。焦った彼らは 自分達の星を出て別の星の人間に なりすまして生活し、その星で伴侶を…花嫁を確保することにしたらしい。

つまり、彼らが地球に押し寄せてきた理由は、婚活のためだったのだ。

しかし、やはり異星間では文化も違う。彼らの星では、求婚とは戦いを挑むこと。そして相手に勝てば、プロポーズ完了。ゴールイン、らしい。


彼らは、かなりの戦闘民族のようだ。


しかし、その一方で一度伴侶になったからには死ぬまでパートナーを変えないらしい。ごく たま――に例外もいるらしいが。



何を言ってるのかサッパリわからんと呆ける実加に、佐竹は「ずっと好きでした」「貴女に近付きたくて隣に引っ越したんです」「僕は この星では○○商社に勤めていて…」と今更ながらに告白とアピール?を開始した。それをただ見ていた実加だったが、はっ、と気付いて佐竹に問いかけた。


「あの……とりあえずNASAか何か通してもらっていいですか?」



あの衝撃の事実を知った日から三ヶ月が経ち、実加と沙織は地球防衛隊から除隊された。彼らは地球の脅威ではなくなったのだ。彼らと国のしかるべき何らかの組織との間で どのようなやり取りがなされたのかは分からないが、黒の組織による被害は めっきりと減った。

どの新聞でもニュースでも、異星人について触れた記事は皆 組織とは関係ないイカやタコのイメージばかり。どうやら国は隠蔽する気満々らしい。それはそうかもしれない。実際に異星人と遭遇した実加でさえ、未だに佐竹たちを異星人だと信じきれない。

あれは嘘でした。そう言ってくれれば実加も「あ、やっぱり?」と笑い飛ばせてしまいそうだ。

こんな状況でなければ。




「本日は お日柄もよく――」


高級な料亭の一室で、これまた高級な着物を着せられて、華やかに化粧を施された実加は一人の男性と向かい合って座っていた。

分かりやすいくらいにセッティングされた この「お見合い」は、謂わば「異星人交流の最先端」だろう。もしくは、異星人交流の架け橋か。

国は、異星人と密に関わっていた実加と沙織を異星人と結婚をさせるつもりのようだ。


口封じなのか。実験なのか。または戦国武将の嫁のごとく人質か。


とりあえず今 実加が分かっているのは、この結婚は政略的な思惑があり、避けられないということだった。


なんちゃって仲人が退室して男性と二人きりになった途端に、実加と男性は 同時に溜め息を吐いた。


「あーもうやだ、毎日毎日お見合いなんて疲れたし。それも今日は よりによって相手がファングとか、萎えるよーめっちゃ萎えるー」


「それはこっちの台詞だコラ!早くブルー出せよブルーをよ!」


テーブルをばんばんと叩くファングに げんなりする。沙織も実加と同じく 毎日お見合い漬けだ。


「出せって言われても、私じゃなんにもできないよ。私だって、ただ毎日着飾って ここに座ってるだけだし」


できれば、ピンクのフリフリ衣装を着ている姿を見られたクロコダイルやホークやレオ…その他の今まで戦ってきた奴等の素顔なんて知りたくなかった。しかし今のところ、異星人は皆様イケメン100%だ。それぞれ趣の違うイケメンだらけで非常に目の肥やしになっている。


でも、結婚という文字がチラつくと実加が思い浮かべるのは、あの人だけだった。

やっぱり、好きだったんだなあ…と胸がチリチリと痛む。花嫁に、と言われて あの時は戸惑いが勝っていたけれど、本当は嬉しかった。しかし、こうして国家間の思惑に挟まれて、彼と再び会えるのかどうかも分からない。


実加の方から お見合いを断り続けて、ローテーションで佐竹が見合い相手になるまで待っていようかとも思っていたのだが、どういうわけか 異星人たちと いざ顔を合わせて、二人きりになった途端に「縁がなかったということで…」と即座に お断りをされてしまう。これが何回も続けば、さすがに色んな事に図太い実加でも落ち込んでしまう。

傷心のまま沙織に相談すれば、沙織は真逆で めちゃくちゃにモテまくっていて、求婚されまくりらしい。これには更に落ち込んだ。


「おいって、聞いてんのかコラ!」


気づけば、実加は うっかり悲しい回想モードに入っていたらしい。ファングが やかましく怒鳴り散らしている。


「ええと、聞いてなかった」


「ふざけんなよな!明日は何があっても見合いに来いって言ってんだよ!わかったかボケが」


「はあ…私は もはや この見合いに意味を見出だせない…」


しょんぼりと呟く実加を見て、


「ま、明日になりゃわかるだろうよ」


と ドヤ顔で実加を見下ろしたあと、ファングは さっさと退室した。ちなみに、去り際に「ピンクは少女趣味らしく、とっとと幸せになりやがれ」と捨て台詞を残していった。


「いや、少女趣味は私じゃないっての…」


と 呟きながら、実加は温くなった お茶を飲み干した。


翌日。実加は日課になった見合いに臨んでいた。

いつもと違うのは、実加が 変に そわそわしてい点だ。


「やっと会えましたね、佐藤さん…いえ、実加さん」


満面の笑みの佐竹が、実加の前に座った。


「さ、さ、佐竹、さん…」


あのプロポーズから三ヶ月。やっと佐竹に会えた。実加は、心臓が口から飛び出しそうな程に緊張していた。しかし佐竹は、実加と二人きりになるとすぐに、


「実加さん、単刀直入に言います。僕のものになってください」


と ド直球に切り出してきた。もはや、実加は過度の緊張により息も絶え絶えだったが、なんとか 暴れる心臓を落ち着けると、


「わ、私、腹筋割れてて林檎も素手で かち割る女だけど、それでも、いいですか?」


と、聞いた。佐竹は ニッコリ笑うと、


「そんなの、最高じゃないですか」


と言った。


こうして、ここに異星間結婚が成立した。実加と、なぜか金髪不良の夫を持った沙織は、子宝にも恵まれ 末永く幸せに暮らした。

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