最終話 ノロマの証明
ドゴォォォォン!!
森の奥から、世界が砕けるような音がした。
僕は走った。
息が切れても、足が重くても。
(間に合え……!)
そこにいたのは倒れている3人。
本田啓介
保田 美奈子ミーナ
宮條 薫子
そして空を覆うほどの黒い影。
魔王アックマン。
HP:99999
攻撃:9999
「遅かったな、鈍間な人間」
頭の中に直接響く声。
本田がかすれた声で言う。
「……野呂……逃げろ……バグが発生した。
予定外の魔王が現れた。」
ミーナも。
「魔王とか無理……よ……」
宮條が静かに言った。
「勝てませんね……これは」
僕は、ガメラスを抱えた。
震えているのは、手か、心か。
たぶん、両方だ。
でも。
「……逃げない」
魔王が、ゆっくりと手を上げる。
「愚かな選択だ」
振り下ろされる。
ドォォォォン!!
衝撃
でも。僕は、立っていた。
ノーダメージ。
魔王の動きが止まる。
「……なに?」
僕は、小さく笑った。
「こいつ、負けないんだ」
ガメラスを、そっと撫でる。
「遅くて、弱くて、攻撃もできない」
「ノロマって、ずっと笑われてきた」
過去が、よぎる。
教室。
笑い声。
「ノロマ!」
でも。
目の前のガメは違った。
ずっと一緒に戦ってきた。
逃げずに。
何度でも。
「でもな」
顔を上げる。
「一番、最後まで立ってるのはこいつだ」
僕は、走った。
魔王の前へ。
「いけ!!」
投げる。
魔王アックマンにダメージ1。
魔王が、目を細める。
「……塵のような力」
「それでいい」
もう一度。
魔王アックマンにダメージ1。
魔王アックマンにダメージ1。
背後で声がする。
「……野呂……!」
本田が立ち上がる。
「俺も……やる!!」
ミーナが叫ぶ。
「終わらせるわよ!!」
宮條が言う。
「援護します!」
3人が立ち上がる。
僕は、何度も何度も投げ続ける。
魔王アックマンにダメージ1。
魔王アックマンにダメージ1。
魔王アックマンにダメージ1。
魔王アックマンにダメージ1。
何度も。
魔王アックマンにダメージ1。魔王アックマンにダメージ1。
魔王アックマンにダメージ1。魔王アックマンにダメージ1。
魔王アックマンにダメージ1。魔王アックマンにダメージ1。
魔王アックマンにダメージ1。魔王アックマンにダメージ1。
魔王アックマンにダメージ1。魔王アックマンにダメージ1。
魔王アックマンにダメージ1。魔王アックマンにダメージ1。
魔王アックマンにダメージ1。魔王アックマンにダメージ1。
魔王アックマンにダメージ1。魔王アックマンにダメージ1。
何百回も。
腕が震える。
限界が近い。
それでも。
クチャ、クチャ。
ガメの音。
(まだいける)
僕は、最後の力を振り絞る。
「これで、終わりだぁぁぁ!!」
投げる。
魔王アックマンにダメージ1。
静寂。
そして。
魔王アックマンの体に、ヒビが入る。
「……馬鹿な」
魔王の崩壊。
光。
すべてが、白くなる。
【エッグモンスターズワールドのゲームの完全クリア】
気がつくと、僕はカプセルの中にいた。
ゆっくりと目を開ける。
現実へ戻ってきた。
仲間の3人も、そこにいた。
「終わった……な」
本田が笑う。
「最高のゲームだったな!」
ミーナが笑う。
「ほんとね」
宮條が微笑む。
「貴重な体験でした」
僕は、急いで周りを見た。
「……ガメは?」
沈黙。
その時。
目の前に、小さな光が浮かんだ。
やわらかく、温かい光。
ゆっくりと、形になる。
ガメ。
小さな、あの姿のまま。
「……ガメ」
手を伸ばす。
触れた瞬間。
光が、揺れた。
クチャ。
最後の音。
そしてガメは、消えた。
光の粒になって。
僕の手の中から、すり抜けていった。
「……」
涙が、落ちた。
でも。
不思議と、寂しさだけじゃなかった。
胸の奥に、残っている。
確かに、一緒にいた証。
本田が言う。
「お前、ノロマじゃねぇよ」
ミーナが笑う。
「しつこい最強よ」
宮條が静かに言った。
「誰よりも、最後まで諦めなかった」
僕は、空を見上げた。
「……うん」
ゆっくりでもいい。
遅くてもいい。
それでも止まらなければ、辿り着ける。
僕の名前は、野呂猛。
ノロマと呼ばれた僕は最後まで、ガメと走り続けた。
最高の夏休みになった。
ゲーム小説【ノロマと呼ばれた僕と、世界で一番やさしいモンスター】
亀【完】亀




