7-15. 【閑話】ファウストの願い
(グレーテルには酷だったかなぁ?)
ファウストは手にした地図をバサリ、と机の上に放り投げる。そして、大きくため息をついた。
悪魔の禁忌について伝えた時の、グレーテルの表情が目に焼き付いて離れない。明らかに、放心していた。
(とはいえ、ちょっとメフィストのこと好きすぎない?)
グレーテルが親しげにメフィストと触れ合うのを見るたびに、好意を持っているだろうな、とは察していた。けれど、あの反応を見る限り、ファウストが想像していた以上の気持ちがあるようだ。
再度ため息をついて、窓の外に目を向ける。外は暗く、まるで、切り取ったように月だけがぽっかりと空に浮いていた。
こちらを見下ろす光は、まるでファウストの行いを責めるように、まばゆく輝いている。
(メフィストがどういうつもりかは分からない。ただ、一緒にいる以上、悪魔の禁忌を知らないのは不公平だ)
誰に向けるでもなく、ファウストは心の中で言い訳じみた言葉を零す。
机上に放り投げた地図を再び手に取り、ザンクト=ミカエル修道院の文字をなぞる。そして、その近くにある集落まで指で辿った。
そこは、かつて、ファウストとグレーテルが出会った街――レイツィヒ。
前世の思い出が、ファウストの中で鮮やかに蘇る。
(僕は……)
指先に力が入る。くしゃり、と地図が歪んだ。
(誰よりも、グレーテルの幸せを願っている)




