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かえりみち

 一学期の修了式と大掃除が午前中で終わったので、昼間の内に学校から帰ることになった。私は夏休みの宿題がパンパンに詰まったランドセルと手提げ袋を持ちながら、帰り道が同じな友達の由里ちゃんと一緒に下校していた。


 私達は重い荷物を度々地面に置きながら、ゆっくりと下校していた。なので、下校にかかる時間がいつもよりも長くなっていた。帰る時間が長くなればなるほど、夏の太陽に照らされる時間が長くなるので、余計に疲れて、さらに、帰る時間が長くなるという負のスパイラルに陥っていた。


 私と由里ちゃんは、初めの内は、互いにニコニコしながら、夏休みに何をするかとか、一緒に遊ぼうとか他愛もない話をしていたが、段々と疲れるごとに、口数も減っていった。最終的には、私達は、夏バテになって、のそのそと歩くだけになっていた。


 しかし、ゆっくりとだが、ゴールは近づいていった。由里の家は、私の家へ通ずる道の最後の曲がり角の少し前にあった。なので、由里は先に自分の家に着いた。由里の家は、私の家よりも2倍程大きし、石積みの塀と玄関に鉄柵の扉がある。さらに、犬を二匹飼っている。


 由里の家は威張るほどの豪邸ではないが、うらやましいなと思うことが多々あった。由里は玄関の鉄柵の扉に手をかけながら、こちらに顔を向けた。


「夏美ちゃん、じゃあ、夏祭り、一緒に行こうね。浴衣、楽しみにしているね。」

 由里は扉を開き切った後、笑顔でそう言って手を振った。私も由里に向かって、笑い返して手を振った。その時だった。


 ああああああああ!!


 突然、獣の様な甲高い奇声が聞こえてきた。私と由里はその人間離れした声の聞こえる方向へ顔を向けた。その声のする方向には、獣や動物ではなく、一人の人間が立っていた。その人間は3,40m先の曲がり角に立っている。


 その人間は、女性のようで、髪を長く伸ばしていて、白のワンピースとつばの大きな麦わら帽子を被っている。しかし、その爽やかな夏の服装とは裏腹に、その女性は老いぼれている。頬やおでこにはしわが深く刻まれ、頬の肉や腕の肉はだらりと垂れている。


 そのような老体に、白いワンピースと大きな麦わら帽子は似合っておらず、その組み合わせの異様さは子供が恐怖に思うには十分だった。私が由里の方を見ると、由里も恐怖で強張った顔をしていた。私は見間違いではないかともう一度、ワンピースの老婆の方を見てみることにした。


 すると、老婆の方に向けた目が、その老婆の目と合ってしまった。老婆の目は大きく開かれ、血走っているので、赤いぎょろりとした目をしている。それはまるで、腹をすかせた獣のようで、私は肉食動物に睨まれた草食動物の気持ちになっていた。


 目の合った老婆は、かさついた唇をゆっくりと開き、にやりと笑った。唇同士は糸を引いていて、歯は黄色かった。その笑顔はとても不気味で、私は心臓を鷲掴みにされたようで、体全体が凍り付くように血の気が引いていくことが分かった。


 私は何とか凍り付きそうな体を動かして、由里もろとも由里の家に突進していった。由里の体は完全に固まっていて、私が突き飛ばさなければ、逃げだすことができなかっただろう。由里は体に当たった衝撃で目を覚ましたように、家の扉の方へ体を動かした。


 二人とも夏休みの宿題の入った手提げ袋を投げ捨てて、無心で由里の家の扉に走っていった。由里が扉の取っ手に手をかけ、扉を引いた。開いた扉の隙間に、由里は体を飛び込ませた。私も由里に続いて、扉の隙間から家の中に入った。


 私は家の中に入った後、反射的に扉を閉めた。私は安心して一息ついた。私は由里の方を見ると、由里も私の方を見ていた。私はいつも見ている由里の顔を見て、さらに心を落ち着かせた。


「……怖かったね。」

「……もしかして、【タチバナ】なのかな……。」

「……? タチバナ?」

「タチバナ、知らないの? タチバナって言うのは……。」

 

 ギギギ


 由里の会話を遮ったのは、玄関の扉が開く音だった。


 私は扉を閉めただけ安心していたが、一つ大きなことを忘れていた。扉の鍵を閉めることを忘れていたのだ。私はゆっくりと開く扉を見ながら、唾をごくりと飲み込んだ。

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