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【電子書籍化*コミカライズ】夜の街のオネエ様に憑依されている私は、乙女ゲームの当て馬ちゃんと呼ばれています  作者: 束原ミヤコ


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修羅場もしくは私の為に争わないでと俗に言われる三角関係 2


 オスカー様の心遣いは嬉しいけれど、喜んでいる場合じゃないと思い直す。

 レオン様は可愛らしいところもあるけれど、王になる方なので上に立つ者としての意識が染み付いている。

 怒らせてしまうのは良くない。

 オスカー様の将来に傷をつけないためにも、ここは私がこの場をおさめなければいけない。


「レオン様、……私のことはともかく、レオン様は何故訓練場に? やっぱり、カブト虫を探して?」


「あ、あぁ、実はそうなんだ。訓練場の林の奥は深いから、たまに探しにきていて……」


『ほーん』


 マリアンヌが奇妙な相槌を打った。

 姿は見えないけれど、その表情は手にとるようにわかる気がした。


「たまたま、たまたま先に来ていたら、赤玉ドラゴンが現れたんだ。アリスベルが襲われていたから、驚いた」


『ほーん』


 マリアンヌがまた奇妙な相槌をうつ。

 オスカー様の視線も冷たい。

 話題を変えるつもりが、墓穴を掘っている気がする。


「……裏庭は目立つから、逢引の場所を変えたのかと」


 なんてことを言うのオスカー様!

 怖いもの知らずなオスカー様に、内心戦々恐々とする。

 オスカー様は強いので怖いものなど何もないのかもしれないし、私もレオン様が怖いというわけではないのだけれど、やっぱり言っていいことと悪いことがある気がする。

 流石に面と向かって密会を問いただすのは気がひけるというか、なんというか。

 レオン様は怒るのかと思いきや、なんだかしょんぼりと耳を垂れさせた。


「そうか、……それでお前も怒っていたのか、オスカー。……そうだな、お前にとっては大切な、騎士として守るべきアリスベルを俺は傷つけた。当然だな」


「覆水盆に返らずという言葉があります、殿下。一度行った事を取り返すのは難しい。信頼を損なうのは当然の結果です」


「俺もそれは、よく分かっているつもりだ。だからこそ、もうアリスベルを裏切ったりはしない。誰よりも大切にするし、何よりも優先すると誓おう。だからオスカー、もう大丈夫だ。アリスベルの側にいるのは俺の役目だからな」


「いえ、それは受け入れられません。私はアリスベル様に訓練場を使用したいと相談された時、使用時には必ず側にいて御身を守らせて頂くことを誓いました。一度行った誓いは、アリスベル様に拒否されるまでは反故致しません。それが騎士というものです」


 あくまで冷静に、オスカー様は言葉を返している。

 私は成り行きを見守りながら、雰囲気の悪さに内心焦るばかりだ。

 マリアンヌが呑気に『良いわね~』と感嘆の声を上げている。


「……オスカー、お前まさか」


「そのまさかだとしたら、どうしますか?」


「アリスベルは俺の婚約者だ。余計な手出しはするな」


「その婚約者のアリスベル様を追い詰めたのは殿下ですよ。……一度離れた気持ちを取り戻すのは、とても難しい。感情とは制御するのが最も難しいものだと、つくづく思い知らされました。私は、引き下がるつもりはありません」


『うぎゃああああっ! 録画、録画ボタンはないのこれ! ないわぁあああっ! もう一度、一度と言わず何度でも再生してみたいやつじゃない、繰り返し見ながらアリスちゃんとオスカー様の尊さに号泣しちゃうやつじゃないのおおおっ!』


 ちょ、ちょっと待って欲しい。

 マリアンヌが大興奮していることは理解できたけれど、私にはオスカー様の言葉が上手く飲み込めなかった。

 それって、それって、まるで私のことを気にしてくれてるみたいじゃない。

 そんな、期待してはいけないのに。

 うまく呼吸ができない。

 真面目で、立場を弁えているオスカー様がそんなことを言ってくれるなんて、何かの間違いに決まっている。


「……分かった。……俺が取り返しのつかないことをしでかしたのは事実だ。酷い言葉を、アリスベルに言ったのも、俺の婚約者になってしまったせいで、アリスベルが傷ついてきたのだって変わらない。それでも、俺は許されたい。今まで何も知ろうとしなかった君のことを、きちんと知りたいと思っている。だから、俺も付き合う」


「は……、え……?」


 私は何度か瞬きをしながら、レオン様の顔を見上げた。

 王者然とした自信に満ち溢れた傲岸不遜な方。

 そんな印象の強いレオン様が、今はまるで捨て狼のようだ。

 捨て狼というのが実在するのかわからないけれど、捨て猫と言うには体格が良すぎる。


「その、魔法の訓練というやつにだ。俺だってアリスベルを守れる。オスカー程ではないが武器は使えるし、魔法もそこそこ使える。あ、それから、半獣族の血が流れてるから、身体能力が高いし本気を出せば獣の姿にもなれるぞ! アリスベル、どうだ!」


 レオン様は焦ったように付け加えた。

 どうだと言われても。

 そんな、新製品を紹介するように言われても。


『やだ、アホ可愛いわね』


 それは不敬です、マリアンヌ。

 可愛いは良いけれど、明らかに罵倒の言葉はよくない。

 『アホ可愛いは褒め言葉よ』とか言っているけれど、ちょっと怪しい。


「……ええと、……レオン様はお忙しいでしょう? だから、私の我儘に付き合わなくても良いですわ」


「暇だ。退屈で死にそうなほど暇だ。放課後など、部屋で寝るぐらいしかやることがない。だから安心して欲しい」


 レオン様は堂々と言った。

 第一王子としてそれはどうなのかと思う。

 ティグレ様などが聞いたら微笑みながら激怒しそうな発言だ。


「アリスベル様。殿下の好きなようにして頂いたら良いのではないですか? どちらにせよ、拒否したとしてもアリスベル様のことが気になって、林の木の上に潜んで様子を伺う――などといった行動を、また行うのでしょうから」


「ここから林までは、かなり遠いですけれど」


 私たちの立っている場所から、林までは歩いてもしばらくかかりそうなぐらいには距離がある。

 オスカー様は溜息混じりに「半獣族の方は五感が優れていますからね」と言った。


「違う、俺はたまたまカブト虫を探していただけで、別にお前たちの様子が気になって見張っていたわけでは」


「レオン様、そんなに遠くまで見えるのですか?」


「まあ、そうだな!」


 褒めたわけではないのだけれど、レオン様は得意気で嬉しそうだ。

 萎れていた耳も、また元どおりに戻っている。


「ええと……。その、分かりましたわ。……レオン様も、空いている時は私の新しい趣味に付き合ってくださると、いうことで」


「魔法の練習だな。任せてくれ、アリスベル。今まで側にいられなかった分、放課後はずっと共にいる」


 いや、そこまでしなくて良いのだけれど。

 ティグレ様に相談して、レオン様が仕事をきちんと行うように見張っていて貰おう。

 私のことばかりに構っているのは、よくないことだ。レオン様の評判を下げるのは良くない。

 どういうわけか、レオン様が勝ち誇った表情でオスカー様を見た。

 オスカー様は表情を変えたりはしなかったけれど、軽く目を細める。

 再びやや険悪になってしまった雰囲気を感じる。

 毎回これでは落ち着いて散策ができないかもしれない。できれば和やかに、魔物討伐をしていきたいのだけれど。

 困り果てている私の耳へ、不意にやや間延びした元気な声が届いた。


「これ、赤玉ドラゴンのお肉じゃないですかー! こんなところに放置して、勿体ない! 時間が経つと消えちゃうんですよ。貰っても、貰っても良いですか?」


 討伐された赤玉ドラゴンのいた場所に浮いている素材の前で、大声を上げている女生徒がいる。


「コゼット!」


 雰囲気の悪い場所に訪れた天使に見えた。

 睨み合っているオスカー様とレオン様から離れて、私はコゼットの元へ走った。

 破れたスカートが気になったけれど、それどころじゃない。

 私の胃はもう限界だった。

 そもそも男性に囲まれるのには慣れないのに、好意のようなものを向けられているのを感じると、不必要に緊張してしまう。

 嬉しくないというわけではないけれど、はっきりそうだと口にされた訳ではないし、どう受け止めて良いのかわからないのが今の本音だ。


「アリスベル様ぁ! こんなところで会えるなんて、やっぱり私たち運命の赤い糸で繋がっているんですねー!」


 コゼットは笑顔を全開にして、私に駆け寄ってきて両手を繋いだ。

 両手を繋ぐ必要はあったのか疑問だけれど、コゼットがそうしたいなら別に構わない。

 そのままぐいぐいと、赤玉ドラゴンの残した素材の前まで連れていかれる。


「見てくださいよ、アリスベル様! ドラゴンのお肉ですよ~、超、貴重なんです! 流石の私でも討伐はできないし、そもそもドラゴンを見つけるのだって難しいし、市場に流通してるドラゴンのお肉はお高いんですよ! 憧れの食材ですぅ」


「やっぱり、食べるのね……」


「食べますよ。ドラゴンのお肉のローストです。ローストドラゴンですよ。美味しいですよ、食べたことないですけど!」


 赤玉ドラゴンに襲われかけた私としてはあまりおいしそうには見えないのだけれど、コゼットには目の前の丸太の輪切りのような肉の塊が美味しそうに見えているらしい。

 睨み合うのをやめたのか、レオン様とオスカー様も私たちの元へと歩いてきた。


「あ、レオン様と、ええと……騎士科学科長様、こんにちは!」


 ペコリとコゼットが挨拶をした。

 コゼットの呼び方からして、オスカー様とは初対面のようだ。

 私はなんだか安堵してしまった。


「コゼット・デンゼリン男爵令嬢。噂はかねがね聞いている。オスカー・ストライドだ。オスカーで構わない」


「はい、オスカー様、こんにちは! 良い噂だと良いですねぇ」


「そうだな。私もできれば、良い噂だけを耳にしたいものだ。……ところで、レオン殿下に用が?」


 オスカー様は、コゼットとレオン様の関係が誤解だったと知らないのか、冷え冷えとした声音で言う。

 皆の視線を一斉に受けたレオン様は、違うというように、激しく首を振って否定した。




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