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【電子書籍化*コミカライズ】夜の街のオネエ様に憑依されている私は、乙女ゲームの当て馬ちゃんと呼ばれています  作者: 束原ミヤコ


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魔石と魔法


 コゼットやシャルル、ティグレ様と過ごした昼休みは、賑やかで楽しかったこともあって、あっという間に時が過ぎてしまった。

 迷惑じゃなければ明日も一緒に過ごしたいと言うコゼットを、シャルルは拒絶しなかった。

 明るく賑やかで何を言われてもめげないコゼットと、心根は優しいけれどはっきり物を言うシャルルは気が合うのかもしれない。

 私も友人が増えて嬉しい。

 今までシャルルがいないときは一人きりで過ごしていたけれど、これからはコゼットも一緒だと思うと、レオン様の事は気になったけれど心が躍った。


 午後はグレイ先生の魔法学の授業だ。

 教室に戻ると、予鈴の鐘が鳴る。少し遅れてグレイ・ドミニオン先生が教室へと入ってきた。


 グレイ先生は、頭の両脇から羊の角の形に似た黒い角と、背中には飛竜に似た羽のある目立つ外見の魔族である。

 羽持ちの魔族の羽は二種類あって、龍に似た滑らかな皮でできた黒いものと猛禽類のそれに似た白いものに大別される。

 白い羽持ちは例外はあるけれど女性の魔族に多く、ルーファスのお母様の羽も白いものだったらしい。

 背中に羽があるために、背中がむき出しになる特別な衣服を着ている方が多い。

 魔力が高いため自分の周囲の温度調節が可能で、背中がむき出しでも寒くは無いらしい。

 これは我が家の執事長である、ルーファスの父君、オーガストに聞いたことだ。

 オーガストが言うには、ルーファスも魔力だけでいえばオーガストよりも高いらしい。

 角も翼もないことをルーファスがどう思っているのかは知らない。

 もしかしたら気にしているのかもしれないけれど、ルーファスとはそのことを話した記憶はない。

 羽持ちの魔族は飛べるけれど、ルーファスはどうなのかしら。

 グレイ先生もいつも背中があいた服を着ている。

 男性の素肌を見る機会は少ないので、グレイ先生の後ろ姿を見ると、なんだか見てはいけないものを見ているような気持になってしまう。

 実際は羽が大きいので、背中は隠れてしまっていてあまり見えないのだけど。


 教壇に立ったグレイ先生は、ちらりと私を見た。

 そういえば昨日は午後の授業を無断で欠席してしまった。

 グレイ先生はルーファスに連絡をとってくれたというし、授業が終わったら心配をかけたことを謝りに行かなければいけないと思う。


「……さて。我々魔族以外が魔法を使うためには、力を持つ石である魔石が必要になる。魔石とは、どのようにして作られるか知っているか、アリスベル君」


 低くも高くもない不思議な艶のある声が、私の名前を呼ぶ。

 魔法学の基礎の質問だ。魔力のない半獣族や、私達人族は、虹色に輝く水晶のような石である魔石が必要になる。

 そして、それは。


「死んだ魔物の体から魔力が地中に凝って形成された魔石が、地中から掘り起こされることもあれば、魔物を討伐したときに体から零れ落ちる事もあります」


「その通り。失礼、君には簡単な質問だったな」


 優しい声音で、グレイ先生が褒めてくれた。

 何をしてもきつく怒ってばかりだった私の教師とはまるで違う対応だ。

 学園の教師の方々は、不用意に怒ったりしかりつけたりしない。

 間違いを指摘するときも、それはただの指摘で、叱るのとは違う。

 物差しで、手の甲や背中を叩かれる恐怖に怯えなくてすむというだけで、学ぶのはこれほど楽しいなんて学園に来るまでの私は知らなかった。

 それがとても幸せだと感じる。

 授業は、好き。

 王妃になるからと真面目に取り組んでいたけれど、それを差し引いてもこうして何かを教えてもらえるのは楽しい。


『真面目ねぇ~』


 久々に、マリアンヌの声を聞いたような気がした。

 私は喜びに綻ぶ顔を隠すために、顔を伏せる。

 マリアンヌちゃん、おはよう。


『おはヨーグルト。お疲レインボ~』


 眠そうで気怠るそうな声で挨拶をしてくれる。

 寝起き、という感じだ。

 マリアンヌは一体なんの仕事をしているのかしら。

 毎晩働くのは大変なのではないかしら。


『アリスちゃんてばあたしのことが気になる? あたしはねぇ、帝都のニューシンジュクのちょっとしたお洒落バー、ソロネで、バーテンダーをしてるのよ』


 お洒落バー? ソロネ? ていとの、にゅーしんじゅく。


『ソロネが名前ね。バーは夜お酒を飲むとこ。バーテンダーはお酒を作る人。午後七時からぁ、深夜零時までの六時間労働の、いたって真面目でクリーンなオシャンティバーよ。帝都は都市の名前。あんたのクロイツベルト王国の、王都みたいなもんね。ニューシンジュクは、街の名前。帝都は広いから、区画ごとに街の名前がついてんのよ』


 なるほど、お酒をつくる仕事だなんてマリアンヌは大人だ。

 私はマリアンヌの姿を見た事がないけれど、きっと美しくて豊満で女神のような方に違いない。

 そんなマリアンヌにお酒を作って貰えるなんて、その帝都とやらに住んでいる人たちは、とても幸せね。


『うーん。あたしの見た目については、そういう事にしておこうかしらね~。十六歳のお子ちゃまのあんたには、まだ早い世界よ。あんたの国だって酒場ぐらいあるんでしょうけど、まぁ、似たり寄ったりね』


 クロイツベルト王国では、十八歳で成人とされている。

 私も後二年したら大人の仲間入りなので、お酒も飲むことができる。ちなみに、結婚が許されているのは十六歳からだ。

 良縁があれば、十六歳で早々に嫁ぐ貴族の娘もいる。

 マリアンヌにとっては子供なのだろうけれど、十六歳というのは王国では大人としてみなされている。


『早熟ねぇ~、そんなに早く大人になんなくても良いのよ。子供時代なんて貴重なんだからね、学生のうちは子供のままで良いのよ? グレイ先生やらルーファスは大人だろうけど、アリスちゃんはまだまだお子ちゃまよ。はぁあ、疲れた体にあんたの純粋さが染みるわぁ~』


 夜中まで眠らずに働いていたのだから、日中はマリアンヌは眠たいのだろう。

 このところ私にずっと付き合ってくれていたし、疲れているのではないかしら。

 私はマリアンヌとお話しできて嬉しいけれど、無理はしないで欲しい。


『大丈夫よ。あんたたちが女子会できゃぴついてる間によおっく寝たわよ。コゼットとシャルルとあんたが集まると、お花畑みたいで可愛いじゃない。ま、あたしはシャルルもコゼットも嫌いじゃないけど、女子供にそこまで関心ないから、あんたたちの会話を聞きながら昼ごはん食べてたわよ。今日はマリアンヌちゃん特製スペシャルオムライスよ』


 マリアンヌちゃん特製スペシャルオムライス。

 どんなものかは分からないけれど、絶対美味しいと思う。

 正直、コゼットの作る地底蛸パイよりは食べてみたい。

 地底蛸パイ。

 どんな味がするんだろう、怖い。


『地底、タコパイ? あぁ、なんかそんなミニゲームあったわねぇ。ダンジョン探索して、モンスターからとれる素材を材料にして料理を作るやつ。プレゼントすると好感度上がるのよねぇ。下がる料理もあったけど。地底蛸パイとか、クラゲスライムのゼリーとか、地龍の輪切り肉ステーキとかね。コゼットちゃん、可愛い見た目なのに肉体派で行動的なのよね~』


 コゼットの口ぶりでは、時折魔物討伐というか食材集めに出かけているようだ。

 魔物の類が食べられることを私はよく知らない。

 食卓に並ぶのは野菜や魚や果物、短角牛や羊や馬肉は牧場で育てられている。それらは家畜であって、魔物ではない。

 魔物からは魔石と素材がとれるけれど、素材を料理に使うのは知らなかった。

 グレイ先生なら詳しいだろうか。アルテミス魔王国には魔物が多いと聞くし、もしかしたら魔物料理も一般的かもしれない。


『グレイ先生ね~、良いと思うわよ。あ、ちなみに攻略対象はグレイ先生で最後よ。もう増えないから安心して良いわよ』


 今までのマリアンヌの中で一番反応が薄い気がする。グレイ先生のことはあんまり好きじゃないんだろうか。


『そういうわけじゃないんだけど、オスカー様に会っちゃったしね~、慣れたわ。目がイケメンに慣れたのよ。あとは、やっぱり生徒に先生が手を出すのは、あたし的には案件警察に引っかかるっていうか、なんていうか。グレイ先生はスパダリよ。それだけは言っておくわ』


 すぱだり?

 魔法の呪文のような言葉だ。


『文句のつけようがないイケメンのことよ。そうねぇ、コゼットちゃんの話だと、グレイ先生と親しくなると、途中からアルテミス魔王国に行くことになるわね。グレイ先生は、アルテミス魔王国の十番目の王子様なのよ。今は趣味で先生してるんだけど、学期途中で魔王国に呼び戻されるのよ。後継者争いへの強制参加ね。アルテミス魔王国での大冒険に話が変わっちゃうから、あんたやシャルルは関わらないわ。平和よ』


 なんだか凄いことを聞いてしまった気がする。

 魔王国の王子様なんて、国賓扱いだろう。レオン様たちは知っているんだろうか。

 コゼットがもしグレイ先生と恋に落ちたら、魔王国に行ってしまうのかと思うと、親しくなったばかりだけど寂しい気持ちになった。



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