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最悪の魔女と誤解された男  作者: サンショウオ
第4章 ロヴァル騒動
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4-20 檄文

 

 ジュビエーヌは、小石を使ってスリングショットの練習をしていた。


 今までは自分を守るのも護衛任せで周囲の人達が危機に陥っても見ているだけだったのが、これからは自分を守る事が出来るのだ。


 それがとても嬉しくて、毎日練習するため町の外に出ていた。


 そして力を得た事で、気持ちも前向きになってきていた。


 今日も練習を終えて町中に戻ると、これも日課となったカフェでお茶を楽しんでいた。


 女性店長のベルタさんとも仲良くなって、私が店にやってくると笑顔で迎えてくれるのだ。


 暫くお茶を飲みながらベルタさんと雑談していると、ツィツィがエリアルのバンテ流通会社から情報を得たとのことで報告に来てくれた。


「公女殿下、エリアルの町中では、エルメリンダ様達が抵抗運動をしているようです」


 それを聞いたジュビエーヌは驚いていた。


 そしてエルメリンダや私の身の回りの世話をしてくれたマーラが、剣や弓を手に取り私が戻って来るのを信じて戦っている姿を思い浮かべていた。


「皆を助けないと」


 だが、思いだけで助けることなど出来ない事は理解していた。


 どうしても力が必要なのだ。


「ユニスに会わないと」


 ジュビエーヌはそう言うと、ツィツィを伴って元娼館に向かった。


 +++++


 あおいちゃんの孫娘を家に送り届けるには、本人がその気になってくれないと無理なので、その気になるまで好きにさせていた。


 そこに護衛を連れたジュビエーヌが訪ねてきたというので、早速会う事にしたのだ。


 あおいちゃんは姿を隠しているので、俺の隣にはジゼルが居た。


 そしてジュビエーヌの顔には、今までには無かった決意と言うものが見て取れた。


「ジュビエーヌ、覚悟が決まったのですね?」

「ええ、今日はその件で、ユニスにお願いを聞いてもらう為に来ました」

「なんでしょうか?」

「私がエリアルに戻るのに協力して欲しいの」


 ああ、やっとその気になってくれたか。


 これでやっと、あおいちゃんの冷たい視線から逃れる事が出来るぜ。


「了解しました。それと他に協力して貰えそうな貴族はいるのでしょうか?」

「それなら西のシュレンドルフ侯爵かしら? 南のオルランディ公爵家はアイテールの侵攻があったから、今どうなっているか分からないわ」

「それじゃあ、出兵を促す檄文を書いてください。私が届けて来ましょう」

「ええ、分かったわ」



 ジュビエーヌが書いてくれた檄文を持った俺は、一路シュレンドルフ侯爵領の領都フェルダを目指していた。


 ジュビエーヌの話だと西のルフラント王国軍が攻めてきたとは言っていたが、その後どうなったかは知らないそうだ。


 そして暫く飛行していると、前方にパルラとは比べ物にならない位大きな町が見えてきた。


 そしてどうやら戦闘中のようだった。


 +++++


 シュレンドルフ侯爵は大公の出兵に合わせて3千の兵と共に参加していたが、西のルフラント王国軍が国境を侵犯したという報を受け、2人の護衛を連れて領都フェルダに戻ってきていた。


 戦況を聞くと国境を守るチェバル砦は既に陥落しており、敵軍はフェルダに向けて進軍中という事だった。


 チェバル砦から逃げてきた兵士の話では、敵はこちらの3倍という事だった。


 軍議の結果、チェバル砦からここフェルダまでは平たんな土地が続き防衛に向かないため、フェルダで迎え撃つ事になった。


 籠城の準備を整えルフラント軍を待ち構えていたが、予想以上にルフラント軍の侵攻速度は遅くフェルダで待機をしていると、バルバリ丘陵での敗戦とエリアルが陥落したという悲報が届いた。


 陛下と両殿下の消息が分からず心配だったが、今この地を離れるわけにもいかないので、無事を祈ることしか出来なかった。


 その後やって来た商人から、王都を脱出した公女と公子がこの私を頼って逃げているという噂と、それを阻止するためエリアル西街道には幾つもの検問所が設けられたという話を聞いた。


 シュレンドルフ侯爵は、直ぐにでも軍勢を従えて公女殿下をお迎えするつもりだったが、そのタイミングでルフラント軍が現れてしまったので、それを断念せざるを得なかった。


 本来なら自分が守らなければならないお方に苦難を強いる事を悔やんだが、今は公女殿下の目的地を守るためにも何が何でもフェルダを守るつもりだった。


 侵攻してきたルフラント王国軍は、遥か後方に陣を敷いていた。


 そしてその中から1隊が分離して、こちらに迫ってきた。


 それは体に何枚もの装甲板を覆った魔物で、こちらの物理攻撃を簡単にはじき返しそうだった。


 それを見たシュレンドルフ侯爵は、場内に待機させていた魔法兵を呼び寄せた。


 敵の動きを監視していると、隣に嫡男のアンドレ―アがやって来た。


 アンドレーアには、陥落したチェバル砦から脱出してきた兵士達の面倒を見させていたのだ。


「そう言えば、生き残りが突然砦に轟音と振動が起こり崩壊したといっておりましたが、アレが原因ですかね」


 魔物達はルフラント兵の指示に素直に従い、城壁に対して横一列に並んでいった。


 距離的に魔法兵達の攻撃範囲外なので黙ってみているしかないが、こちらの迎撃準備は整っていた。


 ルフラント王国軍の動きが鈍いのは、急ぐ必要が全く無い事を良く理解しているかのようだった。


 確かにこちらは一刻も早く公女殿下をお迎えに行きたいのだが、ルフラント軍にはそのような事情は関係無いのだ。


 やがて敵兵の中から1騎こちらにやって来ると、降伏を促してきた。


 敵もこちらが孤立無援なのを知っているようで、かなり横柄な態度だった。



 降伏勧告を拒否すると敵の攻撃が始まった。


 ルフラント兵が手を挙げて何か命令を発すると、それまで大人しくしていた魔物が動き出した。


 それはゆっくりとした動きだったが、次第に速度を増し城壁に到達する頃には随分な速度に達していた。


 城壁の上で味方の魔法兵が詠唱を始めると、体の前に青色の魔法陣が現れた。


 魔物は加速しながらフェルダの城壁に激突してきた。


 その衝撃で城壁が揺れると、乗り出して攻撃していた数名が悲鳴を上げながら落下していった。


 魔法兵が唱えた青色の魔法陣からは、火炎弾や水弾、風刃等の攻撃魔法が眼下の魔物に向けて飛ぶが、その固い鎧にはじき返されていた。


 そして熱した油をぶちまけても魔物にはあまり効果が無いのか、慌てた様子もなくルフラント兵の号令で後退すると再び突撃してきた。


 こちらの攻撃が効かないのでは、城壁を破られるのも時間の問題だった。


 +++++


 フェルダまでやって来ると、城壁の外にはドワーフのバラシュと一緒に入った坑道で見たメタルムーブが何体も居て城壁に激突していた。


 壁の内側では、これから外に打って出るつもりなのか騎馬隊が整列していた。


 丁度良いのでその近くまで接近していくと、こちらに気が付いた兵達が弓を構える姿が見えた。


 俺は慌てて、前にあおいちゃんがパルラに持って来た公国の旗を振ってみた。


 すると騎馬兵達は、その旗を見て戸惑いを見せていた。


 今のうちにこちらの用事を済ませてしまおうと、声を掛けた。


「私はユニス・アイ・ガーネット、ジュビエーヌ公女殿下の使いでシュレンドルフ侯爵に会いに来た。取次願いたい」


 俺がそう言うと、兵士達は一斉にある人物の方を見ていた。


 その視線を浴びた男は、立派な鎧を纏った将軍に見えた。


 その男は俺の方を見ると声を張り上げた。


「私がヨーゼフ・エルマー・シュレンドルフだ」


 目的の人物はがっちりとした体躯で、いかにも武人といった風体だった。


 その野太い声は、戦場で命令を発するように良く通った。


 俺は兵士達を刺激しないように魔力で具現化した翅を付けたままゆっくりと地面に着地すると、そのまま侯爵に近づいた。


 侯爵は鷹のように鋭い目でこちらをじっと見ていた。


「侯爵閣下、初めまして。公女殿下は、侯爵にエリアル解放のための出兵を促しております」


 俺はそう言うと侯爵は目を丸くしていたが、懐からジュビエーヌから預かった檄文を取り出し、それを見えるように翳すと直ぐに片膝をついていた。


 侯爵のその姿を見た兵達も、馬から降りると同じように片膝をついて頭を下げた。


 その姿を見てから、俺は檄文を読み上げた。


 =======

 告


 私、公太女ジュビエーヌ・ブランヴィル・サン・ロヴァルは、我が公国を土足で踏みにじった賊徒共から公国を取り返すため兵を挙げる。


 既に知っている通り、私の潜伏地であるパルラに攻めてきたアイテール大教国軍並びにバルギット帝国軍は撃退した。


 私を次期女王と認める者は、私の呼びかけに応じて参集せよ。


 私は、これから賊徒に支配されたエリアルを奪回するため攻め上る。

 =======


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