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間話 アイゼイヤ·グリエス/3―上

お久しぶりです。

この話はBLがデフォルトです。

これからも宜しくお願いします。

「私はね、レンフィールド以外はどうでもいいのだ」


 深夜に呼び出された法王アレスティラ猊下の御前(ごぜん)

 俺は息苦しさを必死に耐える。


「きみもそうだろう?」


 それに対して「はい」も「いいえ」も答えられない。

 猊下は俺の返事など求めていないのだから。

 これはただの確認だ。

 猊下がレンフィールドのためにすることを、俺も全力で支えるように……。


 猊下の視線は冷たい。

 レンフィールド以外は誰でも同じ。

 等しく無関心だ。


「あの子の誘いを断っておきながら私の配下になる……と聞いた時にはどうしてくれようかと思ったが、あの子のために私の配下になる。と言ったね。ずいぶんと回りくどいやり方だが、今にしてみれば都合がいい」


 そう言うと猊下は室内に並ぶ侍従たちを見回す。


「今をもってアイゼイヤ·グリエスをレンフィールドの侍従見習いとする。あの子の手足となる“予定”の者だ。多少の(たわむ)れは見逃してやるように。

 ハイネ、頼むぞ」

「承知致しました」


 猊下の言葉に侍従たちが一斉に頭を下げ、ハイネが返事をする。

 もちろん俺も頭を下げた。




 猊下が退出された後、俺はハイネに近付いた。

 挨拶と業務スケジュールを聞くためだ。


 しかし今夜は色々なことが起こる。

 レンフィールドの卒業パーティーでの騒動から始まって、猊下との結婚話まで……。

 ようやく自室に戻り、着替えもそこそこにうたた寝し始めたところで叩き起こされた。

 猊下のお呼びとあって急いで身嗜(みだしな)みを整えて行けば、室内は古参侍従たちが勢揃いしていた。

 そこへ侍従長を伴って猊下が現れ、先ほどのやり取り。

 正直なところ、俺はかなり混乱していた。

 疲労困憊なところに猊下から発せられる威圧にも似た魔力が苦しくて、恐ろしかったせいもある。


「ハイネ殿。今よろしいですか?」

「ええ、大丈夫ですよ。では場所を移しましょう。殿下がお目覚めになるまでに、一通りのことを教えておかないといけませんからね」


 あ?

 これから?

 今何時だと?


「さあ、行きますよ」


 有無を言わさず、ってところは猊下と同じだった。

 こうして俺は一睡も許されずに侍従の心得ってものを叩き込まれた。






「な……」


 朝になってヨロヨロしながらもハイネに続いてレンフィールドの寝室に入ると、睡魔と疲労を吹き飛ばす光景があった。


 な、な、なんて格好で寝ているんだ!


 レンフィールドの夜着(ナイトウェア)はワンピース·スタイルだったのだ!

 子供の頃なら分かるが、男なら思春期を迎える頃にはパジャマ·スタイルに変えたほうが色々と都合がいいはずなのに……。

 まさか、まだ男の性に目覚めていないのか?

 薄青色の生地がこいつの身体のラインに添っていて、裾から覗く手足がヤバい。

 男の手首と足首なのにムダ毛のない綺麗な肌に興奮してしまう。

 頼む。

 俺、完徹なんだよ。

 おまけに昨夜の騒動前の食事が最後で、朝飯もまだなんだ。

 ハイネが殿下より先に朝食を取るつもりか?って言うから、顔を洗った時に水を口にしただけで……。

 理性が飛ばないようにしないと何を言い出すか、自分でも分からない。


「お、お手伝い、させていただきますっ」


 案の定、欲望が先走ってしまった。


「何で?」


 レンフィールドが不思議そうに見つめてくる。

 何でって、側付きになったからだけど……。

 あー。

 まだ着任の挨拶をしていなかった。

 格好悪い。

 挽回すべく法王家の王子として(つちか)った洗練された挨拶をする。

 侍従の挨拶としては自信に満ちあふれたものだったかもしれないけれど、レンフィールドもハイネも注意してこなかったから良いだろう。


「うん、よろしくね」


 朝からレンフィールドの微笑み。

 完徹の疲れも吹っ飛ぶぜ。


 そして着替えを手伝ったのだが……。

 レンフィールド。

 お前、いくら侍従相手だからって無防備すぎる。

 ハイネの手によってスルスルとワンピースを脱がされ下着1枚となり、これで衣服を着せればいいのかと思ったら。

 寝汗を(ぬぐ)うためということで身体の隅々まで……そう、本当に隅々まで濡れた布で()き清められている。

 俺も実家に戻れば王子だけど、こんなにも細々した扱いなんてされたことないぞ。

 朝から下着の交換なんて粗相(そそう)でもしない限りはしないだろうに……。

 まあ……おかげで綺麗な顔をしていても男だったなって……確認できっ……ごふっ……ん……んんっ、そ、それは良いんだ。


 その後もレンフィールドが把握してない部分というか、たぶん猊下が意図して教えていないことを幾つか知った。


 夜着の種類がワンピース·スタイルしかないと思っていること。

 自分の食事量が貴婦人より少ないということ。

 俗にいう偏食家の部類なんだろうに、はっきりと教えてないこと。


 まぁこのあたりは可愛い話。

 問題は10年前に亡くなられた猊下の配偶者アイヴィー様のことや、猊下の固有スキル【不老】のことを正確に理解していないことだ。

 そうは言っても、俺も猊下に血の忠誠を誓ってから先輩に教えてもらったことだけど……。

 レンフィールド、次期法王なんだよなぁ?

 大丈夫か?






「猊下はアイヴィー様のこと、そしてご自身の固有スキル【不老】と初期に血の忠誠を誓った者たちとの関係性を殿下に伝えるつもりはありません。

 あくまでも乳幼児時代から猊下に付き従っている我々が、自ら【不老】の契約を猊下に願い出て叶えられたことになっています。

 聡明な殿下は我々の【不老】にすぐに気付かれましたが、その契約内容についてはご存じありません」


 何度目か忘れたが、ハイネによる侍従見習い講座。

 俺の疑問に答えてくれているのだが、そもそも俺はまだ口にしていない。

 他人の思考を読み取る能力(スキル)でも持ってるんじゃねーだろうな?


「けれども殿下の固有スキル【鑑定】は素晴らしいものです。

 お優しい殿下は【鑑定】を使用することに躊躇われておられるようですが、我々を【鑑定】すれば契約内容もお分かりになるでしょう。

 猊下もそれによってお知りになる分にはかまわない……と仰られております。

 つまり、それまでは……」


 続きをハイネの目が語っている。

 そこまで察しは悪くない。


「了承致しました」


 頭を下げると「結構です」と返された。


「それから猊下はアイゼイヤ殿の殿下への“戯れ”を多少なら黙認されると仰いましたが、殿下は猊下の“唯一”です。そのことを忘れないようにしてください。

 これは貴方ご自身のためです」

「承知しております」


 俺はレンフィールドでなく猊下に血の忠誠を誓った。

 俺なりに考えた末のことだ。

 あいつのために少しでも力をつけ、役に立ちたいと思ったから。

 できればレンフィールド自身に血の忠誠を誓い、側近になりたかった。

 けれど法王家当主……宰相マクミラン(くそジジイ)の力は思ったよりもずっとずっと強かった。

 自他ともに優秀だと認められている俺がレンフィールドの側に立つことを許さず、それどころかある意味で対立する関係になる法王家当主への道を進むように示唆された。成人したら宮廷貴族の一員になるように……それも宰相府付きの内示を受けたのだ。

 冗談ではない。

 いずれ法王家当主となってレンフィールドのために動く未来もあるだろうが、それは俺の求めるものではないのだ。

 何せ当主になる条件の1つが女性の妻を迎えて、子供を複数つくること。

 当主の家系が直系となる法王家ならではの決まりごとだ。

 その場かぎりの関係ならともかく、生涯をレンフィールド以外と過ごすつもりはない。

 報われない想いであっても、できる限り近くにいたい。

 内示を蹴って法王宮職員になれば実家から縁を切られる可能性は高いだろう。それなりに優秀な弟デリックがいるしな。

 それでも構わない。

 覚悟を決めた俺は職員になるために法王宮を訪れた。

 側近候補でもない俺が今の時点で法王宮職員になることは、レンフィールドでなく現法王アレスティラ猊下の配下になることだ。

 あの時はまだ血の忠誠については知らなかったけれど、宰相の手駒にされてレンフィールドの足を引っ張りかねない立場になるより、猊下の配下となって経験値を重ねた方が得策だと考えたのもある。


 ……まぁそのあたりの本音を猊下相手に口にした時は、古参侍従たちに殺気の嵐を向けられて死ぬかと思ったな。

 それでも何とか法王宮職員になることを承認された。

 それに比べれば、法王宮職員になることを許さない父親との喧嘩など全くダメージ無かったものだ。




 今日もハイネに絞られ、くたくたになりながら自室に戻る。

 思いがけないレンフィールドの侍従見習いの立場はとても嬉しい。

 ……嬉しいのだが、あいつの俺だけに見せるくだけた態度。

 気を抜くと触れてしまいそうになる。

 そしてそれをハイネに注意される。

 猊下に言われたとおり。


『レンフィールド以外はどうでもいい』


 側近候補になれないと分かっても学業、武術、馬術、魔法実技などに精進し、同世代の貴族連中や特待生枠で学園に入ってきた優秀な平民たちの情報を集めていたのは、将来レンフィールドの役に立つかもしれない……と考えていたからだ。


 俺にとってもレンフィールドは“唯一”なのだ。






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