間話 アイゼイヤ·グリエス
学園卒業パーティーを別視点から。
BLモノローグです。
読まなくても大筋に影響ないですが、読んでもらえると嬉しいです。
今夜は従弟であるレンフィールドの学園卒業パーティーだ。
俺の仕事は会場内を密かに警備すること。
俺は1つ年下のあいつに子供の頃から惚れている。
癖のない綺麗なプラチナブロンド、深く蒼い瞳。
白い素肌に神が与えたに違いないと称される絶妙なバランスで配された目鼻立ちは美しく麗しい。
うっすらと赤く色付く唇に、何度吸い付きたくなったことか。
「くそっ」
女だったら、絶対に俺のものにしたのに!
何で、あいつは男なんだ。
そりゃあ男同士だって結婚できるが子供は望めない。
少なくとも家系を維持する為に女と過ごす必要が出てくる。
この国は一夫一婦制だ。
あいつを妾になんてするつもりはないから正妻だろ。
そうなると子供を生ませるための女を妾にして家に入れることになるが、あいつに手出しさせないようにしないとな。
何しろ、あいつは美しい男だ。
俺が惚れるくらいだ。
誰だって惚れるに決まってる。
残念なことにあいつが『聖魔法』の遣い手である限り、手出しは許されないんだけどな。
こんな妄想だって頭の中だけしか許されない。
表に出したら……。
それにしても今夜のレンフィールドも美しい。次期法王の証である白と紫を基調としたロゼットを礼服に付けている。
17歳になったというのに似合う。
女顔なわけじゃないが、男っぽくもない。
身長は人並みにあるんだけどなぁ。
細身なせいか?
髭なんて生えてないんじゃないか?
肌もきめ細かくて……ああ、くそっ!
パーティーが始まった。
去年、俺が祝ってもらった卒業パーティーよりずっと盛大だ。
同じグリエス法王家の王子だっていうのに。
やっぱり次期法王って肩書きのせいなんだろうな。
招待客の顔触れは殆ど変わらないが、表情が違う。
俺の時は『法王家当主である宰相マクミランの初孫が、無事に学園を卒業して大人の仲間入りをすることになりました』『それはおめでたい、ぜひともお祝いしなくてはいけませんね』……って感じだった。
おかげで俺は『健やかな成長と巣立ちを祝いに来ましたよ』と言わんばかりの招待客をひたすら相手にしたものだ。
レンフィールドは違う。
同級生はともかく身分の上下を問わず少しでも頭の回る貴族や商人、この都をはじめとする主だった市街の顔役たち全てが、あいつの一挙手一投足を値踏みするように見ながら挨拶する。
非礼にあたるから笑顔で隠してはいるけれどな……。
次の法王として、どれほどの才があるのか? 人との付き合い方はどうなのか?
観察しているのだ。
それをあいつは容姿に負けない優雅さで捌いていく。
軽い歓談の後はダンスが始まる。
最初に踊るのはレンフィールドと婚約者のハーネット公爵令嬢だ。
あいつと同じ年に生まれた高位貴族の娘。
血統だけしか取り柄のない凡庸な女だ。
容姿も頭脳も魔力も、何一つ釣り合わない。
あんな女があいつの婚約者と決まった時から、ずっと納得できなくて憤り続けた。
けれども1年前。
学園を卒業し正式に法王家を支える一員として生きることを誓い、法王猊下に血の忠誠を捧げた俺は『聖魔法』の遣い手と法王家の真実を知った。
長い歴史を有する法王国は広い国土と多くの国民を持つ。
それらを自ら作り出した法という魔法の支配下に置き、平時には癒しを与え、乱す者には罰を与える。
そんな神のような魔法を何の代償もなく使えるはずがなかった。
人としての愛欲を封じ、『清らかな体』であること。
破れば魔法は消えてしまう。
この秘密は他国はもちろん、自国の者でも知られるわけにはいかない。
『聖魔法』によってある程度の自己防衛は可能らしいが、心は縛れない。遣い手の心を奪う存在が現れたら大変なことになるからだ。
その一方で法王候補となる『聖魔法』の遣い手が多くいた時代は、法王家内で法王位を争う手段として用いたそうだ。見目麗しく才長けた者や心の機微に敏い者を候補に近付け、恋愛関係に引きずり込む。
そして魔法を失わせて候補から落としたのだ。
ここ150年ほどは『聖魔法』の遣い手が1人も生まれなかったことから、猊下やレンフィールド、ヴィリジアンにそんなバカなことをする奴が現れないように秘密を知っている連中は警戒している。
猊下や法王候補の周囲には基本的に血の忠誠を誓った者しか配属されない。
あいつは猊下の計らいによって多少の自由があるけれどな……。
猊下はあいつのために俺たちのような存在は少し離れたところから警護するように命じてるくらいだ。
俺の異母妹ヴィリジアンは血の忠誠を誓った者たちで固められているというのに。
ヴィリジアンは7歳の少女だから。
より厳重に……ということらしいが……。
まぁヴィリジアンのことはいいんだ。
レンフィールドのことだ。
あいつに婚約者なんてものが宛がわれた原因だ。
『聖魔法』の遣い手が『清らかな身体』でなくては……といっても、独身のまま恋人も作らず法王として君臨されては秘密を知っていようと知らずとも、それなりの地位にある者には息苦しくなる。
特に権力と財力にものを言わせて遊びたい連中にしてみれば、国家元首が恋愛の1つもしないで真面目一辺倒だと困るってわけだ。秘密を知らない奴らの中には法王を誑かす者を送り込む人間もいるからな。
それで数百年前、秘密を知る者たちは考えた。
血の忠誠を誓った令嬢や子息の中でも特に忠義に厚い者を、法王の配偶者として添わせればいいのではないか? 彼らなら心を通わせても、絶対に法王や法王家に不利益になることはしない。それどころか命に代えても守るだろう……と。
その目論見は大失敗。
そんなにも忠義に厚い者が法王の配偶者になったところで、忠実な配下にしかなれない。とても夫婦には見えなかったり、逆に敬愛から逸脱し法王の身が危なくなったこともあったようだ。
そうして、失敗を繰り返して今のような形になった。
法王の相手は異性、同性どちらでも構わないが、白い結婚に同意し全てを秘密にできる、身持ちの固い貴族であること。
婚約期間中に相手のことを調べ上げ、最終的に法王家当主が婚姻しても大丈夫なのかを判断する。まぁ婚姻後であろうと、法王の配偶者という栄誉だけで満足しない者は消されるんだけど……。
たまに、子供が生まれないことに余計な気を回す奴らがいる。
だから法王家の血を引く子供を秘密裏に生ませ、法王と配偶者の赤ん坊として公表し育てたこともあったそうだ。
それは意外にも国民の安心感に繋がっていたらしい。
神のような力を持っていても法王も自分たちと同じ、人の営みをしている。
そう思わせることが大事なのだろうな。
そんな真実を知ったら、あんな女に苛立つことはなくなった。
どうせお飾りの婚姻相手。
あいつには上手く隠しているようだが、貴族の女特有の虚栄心を捨てないうちは婚約者止まり。
改善されなければ婚約は解消される。
適任者がいなくて独身のままの法王も過去にはいたからな。
……そうは思うものの。
あんな女を完璧にエスコートして微笑みかけるレンフィールドに苛ついてしまうのも確かだ。
どうもあいつはあの女をそれなりに大切にしているようだ。
そんな必要などないのに……。
できることなら俺が結婚相手になりたいが、絶対に手を出してしまう哀しい自信がある。返り討ちにあいそうな気はするけどな。そうでなかったら、側近候補にだって名乗りをあげている。
───っと、何だ、何だ!?
あの小娘はオーリー侯爵家で面倒みてる異世界人のサラ……か?
ほぉ、すごいな。
公爵令嬢に喧嘩を売ってる。
レンフィールドに相応しくない、か。
確かに。
だが、小娘。それはお前も同じだ。
微々たる『聖魔法』の力しか出せないのに努力もしない。
そのくせ、毎年恐ろしい額の教育費を受け取っている。
って……。
ジョシュア、アーサー、ルイス。
お前らまで何してるんだ!
側近候補だろ!?
レンフィールドは次期法王だぞ!
法王猊下と法王家が正式に認めた……。
あ~あ。
何で、小娘のほうが法王に相応しいとか言うかな。
おまけに血の忠誠って……。
めんどくさい事態になりやがった。
皆、あいつがどうやって収拾つけるのか見てやがる。
どうしたものか……。
とりあえず、いつでも間に入れるように場所を移動しておくか。
そう考えた俺の体が動かない。声も出せない。
いつの間に?
こんなことができるのは、あいつの『聖魔法』だ。
どのくらいまで支配下に置いた? この大広間ぐらいなら増援を期待できるが、宮殿全体となるとヤバい。
サロンにいる宰相たちにバレる。
誤魔化す時間も手段もない。
チラリと少し離れた場所にいる同僚を見ると、向こうも俺を見ていた。
互いの目で分かる。
これ、絶対に始末書だよな。
これ以上は、もめないでくれ。
始末書+ペナルティはいらねぇ。
結局あいつはジョシュアたちが側近候補としてテストされていた……という話にすり替えた。その上で彼らはそれを鵜呑みにしてしまった。この騒ぎもそれが原因だということにした。
『聖魔法』で押さえつけられているジョシュアたちは否定も肯定もできない。
大したものだ。
そう思っていたら3年前の召喚事件のことを話し始めた。
何を考えてるんだ?
「私は見聞を広め深めるために、一人で世界を見て回ろうと思う」
見惚れるほどの微笑みであいつは言った。
俺は息を飲む。
何を言ってる?
そのタイミングで『聖魔法』を解除したのだろう。
人々がざわめく。
急いであいつに近付こうとするが、近衛兵にジョシュアたちをエンドレス·ルームへ運ぶよう命じているのを聞いて立ち止まる。
「殿下は何をされようとしているのだ?」
同僚が青ざめながら俺に尋ねる。
「俺だって知りたいぜ」
あいつは本気でこの国を出ていくつもりなのか?
次期法王の立場はどうするんだ。
その後の閉会の挨拶も、己れの未熟さをさりげなくアピールして終えた。
おいおい……。
あいつが公爵令嬢を伴って退場したとたん、会場内は大騒ぎ。
そうだろうな~。
しかし今の俺は、側近候補のバカ3人と異世界人の小娘がヤラかしたのを瞬時に利用したレンフィールドの優秀さを感じながらも仕事しなくちゃならない。
俺は狼狽しているオーリー侯爵夫人ティルダに話しかける。
「侯爵夫人、別室で話を伺いたいのでご同行願います」
ジョシュアたちがあんなことをしたのは3年前も今もこの女が原因だろう。ティルダは俺を見ると持っていた扇子を広げて睨む。
「アイゼイヤ。伯母であるわたくしに無礼ですよ」
この女は降嫁したのにいつまでも王女気取りだ。
今の身分はオーリー侯爵夫人。
臣下である。
伯母といえど俺は法王家の王子。立場が違う。
無礼なのはどちらなのか分かっていない。
まぁ相手にするだけ時間の無駄だ。
「これは失礼を致しました。ご一緒いただけますか? ティルダ元·王女殿下」
そう言って、返事も待たずに拘束した。
間話って本来は「ゆったりとした話」らしいですが、思いきりアイゼイヤの心の叫びが響いてます。
内面の素直さ全開を書くのはとても楽しいです。




