秘密の集会
時間ができたので本日2回目の更新です。今回、主人公は出てきません。
ここはグロワース帝国《帝都プロスペレ》、人口80万の大きな都市だ。海に面しており貿易など商業で発展した都市で、たくさんの店が立ち並んでいて活気に満ち溢れている。
都市の中心には城があり、それを囲うように海からの水をひいていて、そこから街にも運河が流れている。いわば水上都市だ。移動手段として小舟が使われていて水路を行き交う姿が無数に見える。
そんな小舟の一つに身を隠すようにローブを羽織り、フードを深く被る2人の男の姿がある。
その小舟は、ゆっくりと人気のない方へと進んで行く。辺りは、先程の活気に満ちた明るい雰囲気と違い錆びれた物になっていく。
しばらく漕いだ先に、同じようにローブとフードを深く被った男が橋の下に立っていた。
その男の前で小舟を止めると2人は急いで降り、後に続くように歩く、しばらく進んでいると壁があり行き止まりになる。
先導していた男が壁に手を置く、すると壁が一瞬光ったかと思うと消えた。
その先には地下へと続く階段があった。
2人は先導していた男から松明を受け取り階段を降りて行く。
「もう、脱いでも大丈夫でしょう。」
そう言って、片方の男がフードを脱ぐ。
「そうだな。」
もう一人の男も頷きフードを脱ぐ。
階段を降りた先には扉があった。
3回ノックする。
すると中から、1人の男が出てきた。
その男は、シワの見えないシャツにフロックコートを着ていて金色の髪をキチリと全て後ろに撫で上げている。つり上がった青い目はとても鋭く、全てがキッチリとした佇まいは見るだけで普段の几帳面さが伺えるほどだ。
その男は、訪ねて来た男を見るなり深く丁寧なお辞儀をする。
「ご無事でなによりです。ジルフリーク様。」
「ああ、いろいろあったが全て上手くいった、手筈通りだ。」
「おや? 何か良い事でもあったのですか? いつもより顔が楽しそうに、お見受けします。」
フッ。ジルフリークは何か思い出したかのように笑うと男に、着ていたローブを渡し先を歩く。
「まあな、それも含め皆に話そう。」
「かしこまりました。他の者はすでに集まっております。」
するとジルフリークと一緒に来た男が
「相変わらずお堅い野郎だなサジェス。」
と、サジェスの肩に手を置く。
「貴方も相変わらずのようですね。ヴィグール」
と肩に置かれた手を弾く。
この全く正反対の性格をした2人は長年ジルフリークに仕えていて、幼い頃からの知り合いであり腐れ縁というやつだ。仲が悪そうに見えるが、これがこの2人なりのコミュニケーションの取り方なのだろう。
「私からすれば、2人共相変わらずだがな。」
しばらく進んだ先に、テーブルと椅子しかない小さな部屋があった。
ジルフリークが部屋に入ると、すでに先にいた者たちが席を立ち深くお辞儀をする。
それをよい、と手で制し入り口から一番奥の上座に座る。
それを見て他の者達も席に座る。
「遅くなった。いろいろとあったが、無事カースス王国の力を借りる事となった。」
おぉー。
その場にいた者達から感嘆の声があがる。
「いよいよでございますね。」
その中にいた一人が興奮を抑えきれないというように立ち上がり言う。
「ああ。この僅か数年で、私利私欲のために、前皇帝が貿易で蓄えた富を、底が尽くまで使い込み、それでも足りず民を苦しめる愚帝を……我が兄を打ち倒す時が来たのだ。」
現在の帝国は、一見栄えた先進国に見えるがその内情は、現皇帝に課せられた重い税や傍若無人に作られた新しい法により住民の生活は貧困化していた。
このままでは数年で帝国は滅びるだろう。
一人の男が言う。
「我等、反乱軍の狼煙を上げる時が来たのですね。」
その場にいた者たちがその言葉を聞いて奮い立つ。
しかし、ジルフリークの後ろで話を聞いていたサジェスが
「今は……時期が悪いかと思われます。」
と苦味を潰すような顔で言う。
それを聞いた周りの者たちが、
「なんだと、せっかくカースス王国の協力に漕ぎ着けたのだぞ! 」
「そうだ! 今やらずして、いつやると言うのだ!」
「このままでは帝国は滅びるだけだ!」
口々にまくし立てる。
バーン!
ジルフリークが机を叩く。部屋が静寂に包まれる。
そして、ゆっくりと口を開く。
「サジェス、訳を言え。」
「はい、現皇帝に何やら近づいている者がおります。」
「誰だ?」
「諜報部隊の話によれば……アスワン王国の者だと。」
周りがまた騒つく。
「アスワン王国だと?!」
「何故だ?! あんな辺境の国が!」
バーン!
「静かにしろ!」
ジルフリークが再度、机を叩く。
アスワン王国とは、帝国の南の砂漠にある小さな国だ。
「アスワン王国には、何やら黒い噂があります。それを調べてからの方がよろしいかと、」
「糞! 今は時期ではないと言うことか……サジェス! 大至急調べろ! わかり次第報告しろ!」
「かしこまりました。」
アスワン王国では、魔法を使った人体実験を行い強靭な兵士を作っているという噂があるような国だ。それに、現王は好戦的で有名だ。今も、隣のベスティエ獣国に戦争を仕掛けようとしている。
現皇帝が繋がっているとすれば、これは内戦だけですまない事になる。
「全員聞け! 今は時期ではないようだ。焦る気持ちはわかる!だが待て。必ず好機は訪れる。それまでは、待機だ!」
それを聞いて全員、静かに頷く。
◆
集会が終わり今部屋にいるのは、ジルフリークと、ヴィグールとサジェスの3人だけだ。
ジルフリークは、フーっと長い息を吐く。
「お疲れ様です。」
サジェスがそっとジルフリークの前に紅茶を差し出す。
「本当に疲れた。 」
そう言いながらゆっくりと紅茶に口をつける。
「そういえば、聞き忘れておりました、いい事があったと、おっしゃっていましたが。何があったのですか?」
「あぁ、森でな、面白い者達に会ったのだ。」
「……ジルフリーク様が興味を持たれる者がいるとは、珍しいですね。」
すると横で聞いていたヴィグールが興奮して話に割って入る。
「いや、あれに興味持たないやつはいないと思うぞ! 何せ、ゴブリンロードの首を素手で吹っ飛ばす奴だからな!」
「なっ?! ゴブリンロードの首を? 嘘をつくな!つくならもっと、ましな嘘を言え!」
「いやいや、嘘じゃないぜ。俺はこの目でしっかり見たからな。本当ですよね? ジルフリーク様」
「あぁ、本当だ。」
「……それが本当ならその者は、かなり有名な騎士かSランクの冒険者か何かですか?」
「いや、ただの兎人族の子供だ。」
「なっ!」
サジェスは驚きのあまり言葉を失う。
「ハハハ。サジェスもそのような顔をするのだな。」
ジルフリークは、サジェスの驚きを隠せない顔を見て笑う。
「サジェスよ。時間があればあの者達の事を調べてくれ。」
「かしこまりました。」
「うまく扱えば、こちらの大きな戦力になるだろう。」
ジルフリークは、冷ややかな意地の悪そうな微笑みを口元に浮かべていた。
ーーーあの子供は、あまり賢くなさそうだった。扱いやすそうだ。
……しかし、一緒にいた男……エドモンドと言ったか? あれは注意しなければならないかもな。こちらの事は何でも見通しているかのように、ずっと笑っていて何を考えているかわからなかった。
……本当に不気味な男だ。
「サジェス。この件は慎重にな。」
「かしこまりました。」
「まぁ、確かに戦力にはなりそうですが、あんな子供を巻き込むのは……」
ヴィグールが少しバツが悪そうに言う。
「確かにな……だが、アスワン王国が絡んでくるとなれば力が足りないのもまた事実だ、」
フーっとまたジルフリークが長い息を吐いた。
主人公が出ないと話がシリアス気味になってしまいます。次回は主人公が出ます。明日になります。