脳内でダンス
私が下を向き落ち込んでいると。
「主人よ。どうして逃げてばかりで反撃しないのだ?」
肩に乗っていたフッ君が、飛び降り話しかけてくる。
器用に二本足で立ちシャドウボクシングをしている。一人……いや一匹やる気満々だ。
「ハー。手加減がまだできにゃいから、反撃できないにょ!」
「手加減か……別にしなくてもいいだろう」
「いやいやいや、これ以上、犯罪者にはにゃりたくないにょ! 犯罪者……犯罪……」
ーーーグハァ! このままじゃ、お尋ね者だ! 始まってもない伝説が終わる!
ハー。っと大きな溜息をつく。
「主人よ。では変装して逃げるとかどうだ? そんな珍しい格好だから、目立つのだろう」
「変装? ……できるわけ………………あったわ!!」
突然、思い出したように立ち上がる!
「できるのか?! さすが主人だ!」
「あたりまえだ! しかし、フッ君ナイス!」
フッ君の頭を撫で回す。
フッ君も褒められて喜んでいるのか、気持ちよさそうに撫でられていた。
私はアイテムボックスに手を入れ、お目当ての物を取り出す。
「じゃじゃーーーん! お久しぶりの! ウサぐるみメイクBOX!」
「おぉーー! 一体なんだ! それは?!」
「フッ。まぁ、大人ちく見てにゃ!」
フッ君の若干大袈裟なリアクションに、落ち込んでいた私のテンションはすぐに上がる。
「へーん・しん! トォウ!」
掛け声と一緒に《ウサぐるみBOX》を使用すると羽が体に巻きつき、ウサギの着ぐるみ姿に変わる。
少し自分の掛け声に、恥ずかしくなったが
「おぉー! さすが主人だな! どっからどう見ても毛深い兎人族に見えるぞ!」
パチパチと音は鳴らないが両手を叩きながら私を褒めるフッ君。
若干、毛深いという言葉に引っかかったが気にしない。
「私に! できにゃい事は! にゃい!」
仁王立ちポーズで、とりあえず決めておく。
「凄いぞ主人! これで、バレずに逃げれるな!」
「うむ! さて……」
この後どうしたものかと思い、引きずってきた二人を見る。
「……げっ! 誰だ!?」
そこにいたのは誰かわからないほど変わり果てた二人だった。
激しく打ち付けた為か、全身の至る所が張り上がっている。
あんなに可愛かった二人の顔も別人の様に変形していて、タコ殴りされた様な見るも無残な顔へと変わっていた。
二人だと判別できたのは、この奇抜な服……紐のおかげだろう。
ーーーうーん。折角、変装? できたのに、この二人を引きずって歩いたら目立つし意味ないからなー。…………よし!
「ここに、置いていこう!」
やはり連れ歩くのは無理だし、それ以外には無いと思ったのだ。
「……やはり、主人は悪!」
フッ君が何かボソボソ言っていたが、よく聞こえなかったので、気にしないことにする。
「では! ……復活魔法!」
再び二人の身体を光が包む。
「おぉ! それは! 失われたとされる復活魔法か?! 万年生きてきたが、始めて見たぞ!」
フッ君は興奮した様子で、くるくると回っている。
その姿はまるで、自分の尻尾を何かと間違えて追いかける“アホな犬”のようだ。
「フッ。このくらい出来て当然にゃのだ!」
私はすぐに調子にのる。
「主人凄い! だが……本当に蘇ったのか?」
フッ君が疑いの眼差しでこちらを見てくる。
「あ、当たり前だ!」
言いながら二人を見る。
顔がちゃんと元に戻るか内心では不安だったが、どうやら杞憂だったようだ。
ホッ。と安堵の息を漏らす。
本当に、本当に良かった。
だが、お姫様とエフは目を閉じたままピクリとも動かない。
少し心配になり、エフの胸に耳を当てる。
ドクンドクン。心臓が動いている音がした。
ちゃんと生き返ってるようだ。
フッ君に向かってサムズアップする。
それを見たフッ君も私にサムズアップで答える。
「しゃてと、宿屋に帰ろ! フッ君!」
「わかったぞ!」
フッ君が定位置になりつつある私の肩に飛び乗る。
ーーーうん大丈夫……きっと時間が経てば、勝手に目覚めて帰ってくれるだろう。うん! 大丈夫!
「F! 後は任しぇた!」
寝ているエフに声をかけ、歩き出す。
◆◆◆
橋を離れ、宿屋に続く大通りを家の影から覗くと、兵士達がまだそこら中にいて私を探しているようだった。
ーーー本当にこれで大丈夫か? バレないか?
口から心臓が出てきそうなほどバクバク鳴っているのが自分でもわかる。
勇気を出して道に出る。
ゆっくりと何事も無いように歩く。
兵士が3人近づいてくる。
ーーー怖い。怖い。怖い。
先程よりも心臓の音が激しく頭の中を鳴り響く。もはや心臓の音以外何も聞こえない。
ゆっくりと、すれ違った瞬間。
「嬢ちゃん、待ちな!」
一人の兵士が声をかけてくる。
ーーーまずい、まずい、まずい。
心臓の音が……兎に角うるさい。
「あ、あい。」
ゆっくり兵士の方へ振り返る。
すると、兵士が怪訝そうな顔で私を見つめてくる。
ーーーやばい。やばい。やばい。
「嬢ちゃん、凄い汗だな。大丈夫か?」
「えっ?」
自分の身体を確認する。気づけば全身から大量の汗をかいていた。
「あ、あい。大丈夫でしゅ。……ちょっと暑くて」
…………
少しの沈黙が永遠の様に長く感じた。
「……そうか。嬢ちゃん、こんな時間に一人で歩いてたら危ないぞ! さっさと家に帰りな!」
「そうだぞ! 今、街に殺人犯が逃げ回ってるからな! 危ないぞ!」
「その犯人も子供らしいがな! 世も末だよ! まぁ、気をつけて帰れよ! 」
「あ、あい。とっとと帰りましゅ」
ペコッとお辞儀をして、歩き出す。
ーーーセーーーフ!!! やったぜ! バレてない! ……バレない! ヒャッホーーーウ!
脳内で喜びのダンスを踊る。
◆◆◆
あの後、無事に何事もなく宿屋に着いた。
宿屋の扉を開けると、エドモンド達もちょうど帰って来たところなのか、中でばったり会った。
エドモンドがこちらに気づき、優雅に近づいてくる。
「セイラ様。今、帰りですか? 遅かったですね」
「まぁ……いろいろとにぇ」
「そうですか。レベル上げは無事終わりましたよ。それで、ですね。実は森で出会った少年……「ごめん! 疲れたから今日は、もう寝る。明日聞くよ。夕飯もみんにゃで勝手に食べて。おやしゅみ〜」
エドモンドが何か話そうとしていたが、長くなりそうだったので遮るように言い、手を振って部屋へと向かって歩く。
ーーーダメだ。疲れすぎて、一刻も早く! 兎に角! 寝たい!
「……わかりました。おやすみなさい」
背後から、少し寂しそうなエドモンドの声が聞こえ申し訳ないとは思ったが、そのまま部屋へと向かう。
罪悪感よりも疲労感の方が圧倒的に優っていたのだから仕方ない。
トボトボと歩き部屋に着いた瞬間、ベットに飛び乗る。
「ほんと……いろいろあったにゃ……いや、あり……すぎ……だろ……
相当、疲れていたのだろう。あっという間に夢の世界へと落ちていった。
◆◆◆
とある橋の下。
一人の少女が、眠りから目覚める。
「ん、んん〜」
少女は目を開けると、驚いたように辺りをキョロキョロと見回す。
「こ、ここは、どこ?」
だが、少女の問いに答える者は誰もいない。
「……この方は、どなたなのかしら?」
首を傾げている少女の横に並ぶ様に、ハーフエルフの少女が眠っていた。
「……さ、寒い」
あまりの寒さに、身体を縮める少女。
すると突然、自分の身体をペタペタと触ったかと思えばまじまじと見て驚いている。
「……な、なぜ、私はこの様な破廉恥な格好をしているの?!」
やはり、少女の問いに答える者は誰もいない。
少女は一人考える。
「これは、もしかして……
少女はゆっくりと立ち上がる。
「そうだわ! 神様が私に与えて下さったチャンスなのだわ! 私は、自由よ! お城でのつまらない日々は、もうお終い。これからは自由に生きて行くの!」
少女は、これから待っている明るい未来へと向かって希望を胸に歩き出す。
だが、数歩進んだ所で足を止め、後ろを振り返り、ハーフエルフの少女を見つめる。
「……ごめんなさい! やはり、この格好では出歩けませんわ!」
そう言って、ハーフエルフの少女の着ていた服を剥ぎ取る。
すると服が、箱の様な物に形を変える。
「きゃあ!」
突然の事に驚き、思わず声を上げる少女。
恐る恐る箱に近づき、触る。
すると少女の体が光り輝いたと思えば、黒い布が現れ包んで行き、先程のハーフエルフの少女と同じ格好になる。
「まぁ。世間には、この様な便利な物がありますのね。知りませんでした」
少女は感心した様子で、自分の姿を確認している。
「ごめんなさい。いつか必ず、お返しします」
寝ているハーフエルフの少女に、そう告げると、夜の闇へと消えていったのだった。
次回は、明日になります。




