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アンジュ・ス・バートル  作者: Jyona3
ー第2章ー カースス王国編
44/55

どうしてこうなったー3



 私は一瞬で、その視線の先……



 ポッカリと穴の開いたお姫様の元に駆け寄る。





「き……貴様か……貴様がやったのか?」




 寒気が全身を襲う。


 普段、気配などわからない私だが、サエウムの声で狂気めいた殺気がこもっていることが容易にわかった。



 怒りで我を忘れるとはこのことだろう、何度か見かけた胡散臭笑顔は見る影もなく、目は血走り、握っている剣は力を入れすぎているのか震えている。



「貴様か? 貴様がやったのか?」



 サエウムが剣を構える。



 私は、考えながら慎重に刺激しないよう口を開く。



「あ、いや、確かにやったにょは、私だけど……ぉっと!」



 言い終わる前に、サエウムの剣が襲ってくる。



「ちょ! まって!」



 だが、サエウムの攻撃の手は止まない。



「話しっ! 聞いてっ! ちゃんとっ!」



 攻撃を避けながらサエウムに話しかけるが、全く止まる気配がない。




 ーーー糞! 斯くなる上は!




 サエウムにも正拳突きを喰らわそうとした瞬間、部屋の外から



「急げ!」

「姫の部屋だ!」



 と声が聞こえてきた。



 ーーーまずい! 人がくる。しかも結構、多そうだ。このままじゃ、レイムの言ってた“皆殺しゴッコ”を一人でやる羽目になる! ……もう、逃げるしかない!



 剣を避けながら、近くにいたエフの所に行き左手で掴む。




「んん! んんんん!」




 何か興奮気味で言っているが、うるさそうなので猿轡と縄はそのままに、乱暴に左手で掴んだまま、次は姫のところに移動する。



 エフが体をいろんな所にぶつけて唸っていたが気絶したのか静かになった。


 今は緊急事態だ、無視する。



 姫を掴もうとした瞬間、部屋の中にたくさんの兵士達が入ってきた。



「何があった!」

「何で姫が!」

「何て日だ!」



 兵士達は思い思いの言葉を発し、こちらを見て固まっていた。



「全員聞け! この子供が姫を殺ったのだ! 子供だからと侮るな! 私の攻撃を全て見切っている! 全員、慎重にかかれ! そして必ず! 姫様の仇を討つのだ!」



 サエウムの号令に、兵士全員が我に帰り剣を構える。




 ーーーまずい! このままだと、姫殺人犯にされてしまう! ……まあ、犯人は私で間違いないが。あぁーーー! 考えるのも面倒臭くなってきたー!




「うおぉぉぉおぉおぉーーー!」



 とりあえず、この言い表せない感情の丈を叫ぶ事で発散させる。



 すると、サエウムを含めた兵士全員の動きが止まる。




 ーーーお! これはチャンスじゃないのか?!



「みにゃ様! 聞いてくだしゃい!」



 全員の視線が私に集まる。


 下を向き深呼吸し、ゆっくりと顔を上げる。



「こ、これは! 事故にゃのです!」



 子供らしく、いつもより高めを意識して声を出す。



「事故だと?! どういう事だ! 説明しろ!」



 サエウムは疑っているのか、声を荒げて聞いてくる。




「事故か……確かに、こんな小さな子が人を殺すなんて信じられん」


「事故か……確かに、人間の体にこんな小さな子が穴を開けるなんて信じられん」


「事故か……確かに、姫の服装もいつもより奇抜だ信じられん」




 周りにいた兵士達も思い思いの言葉を発している。



 ーーーどうしようか。事故に持っていきたい! しかし、サエウム今にも飛びかかってきそうだな。兵士達は、チョロそうなのに。……あ! 私、天才!



 私は閃いた。



 また下を向き深呼吸し、ゆっくりと顔を上げる。



「みにゃ様! しょう……これは事故! 不幸にゃ事故だったにょです……」



 思わしげに少し斜め下を向く。

 これで哀愁漂う感じに見えるだろう。



「こにょ姿を見て下しゃい! 何をちてたかわかりゅでしょ?」



 お姫様とエフを指差す。



 兵士達がお姫様を見て一瞬顔を赤らめ鼻の下を伸ばしたが、すぐに元に戻り顔を悲しげに曇らせる。



「この格好がなんだ! さっさと話せ!」



 怒りの為か、一人鼻の下を伸ばさなかったサエウムが急かす。




「……しょう、この二人は……




 兵士達が私の次の言葉を待ち、唾を飲むのが聞こえた。




「この二人は…………SMゴッコをちてたのでしゅ!」


「「「!! なんだと!!!」」」



「見ての通り、お姫様がSでしゅ!」


「「「!! なんだと!!!」」」



「いちゅものように、お姫様が彼女をロープで縛り遊んでいた所……鞭打ちでは、もにょ足りないと言い出して……グスン。」


「「「!! なんだと!!!」



「巨大ドリルで穴を開けたいと言い出して……謝って……手を滑らし……自らに……穴を! ……うぅ」


「「「!! なんだと!!」」」



 兵士達は若干、大袈裟に相槌を打って私の話を盛り上げてくれた。



 …………



 サエウムがゆっくりと口を開く。



「そうか……不幸な事故か……」



 …………




 どうやら信じてくれたようだ。



 ーーーグフフ。チョロイぜ!


 私は下を向き笑いを堪える。



 …………



「って! そんな話し……誰が信じるかーーー!」



 突然、サエウムが叫び剣を構える。


 兵士達もその声に頷き、剣を構える。



「えぇーーー!」



 私も思わず驚きで声を上げる。



 ーーー こりゃ、一杯食わされたぜ! まずい! もう、無理だ! ……やっぱ逃げるしかない!




 意を決して、右手で姫の服……紐を掴み、左手でエフの服を掴む。



 そして、力一杯踏み込んでレイム達が出て行った窓の前に一瞬で移動する。



「何!? 早い!」



 サエウムの驚嘆の声が聞こえた。



 窓の縁に立ち、ゆっくりとサエウムと兵士達に振り返る。



「あ、後で、お姫様返しゅから、元に戻ちて絶対返すから! とりあえず持っていくね! じゃ! お邪魔しまちたー!」



 手を振り、窓の縁を思いっきり蹴って近くの塔に飛び移る。



 振り返れば、サエウムが叫んでいる。




「糞! 待て! 全員呼べ! 全員で追うんだ! 逃がすな! 殺しても構わん! 兎に角、絶対に逃がすな! 」



 サエウムと目が合う。



「必ず捕まえてやる! 必ずだ! 」



 ーーー怖っ! 返すって言ったのに!



「いたぞ! あそこだ!」



 近くにいた兵士がこちらに向かってくる、



 ーーーもう来た?! さっさと城から出なきゃに! もう城はこりごりだーーー!



 ………………



 私は走った。


 城の敷地内を走って走って走った。


 道がわからないのでめちゃくちゃに走った。


 湧いて出る兵士達をかわしながら走った。


 弓矢や魔法も避けながら走った。


 乱暴に掴んでいるのでお姫様もエフもいろんな所にぶつけたりしたが走った。


 私は兎に角、走った。



 …………



 どれくらい走っただろうか、気づけば日は傾き夕暮れのオレンジ色へと景色を変えてたいた。



 城壁が目の前に見えてきた。


 だが、壁の前には一人の男が立っている。


 あれは……



 サエウムだ。



 サエウムは剣をゆっくりと抜き、構える。



 何かを決意した真剣な顔、夕映えに映る立ち姿がとても美しく見えた。



 距離が縮まるに連れ、サエウムが左脚をゆっくりと引くと剣を横に構える。


 どうやら、何か技を繰り出そうとしているようだ。



 私は構わず突き進む。



 距離にして約10メートル、サエウムが力強く叫ぶ。



「逃がすものか! くらえ! 奥義!……



 サエウムが技を繰り出す直前、私はまた思いっきり地面を蹴り距離を詰め飛び上がる。



「セイントソーっ?! っグフ!」



 サエウムの顔を踏み台にして、その勢いで壁の上に飛び乗る。



 上手いこと壁に登れたことに嬉しくなった私は、振り返りサエウムに向かって“アッカンベー”を繰り出す。



 そう、いつでもどんな時も調子に乗れるのが私だ!!



 サエウムは鼻から血を流し、こちらを睨みつけていた。額に浮かんだ血管が、今にもはち切れそうなほど浮き出ている。



「おのれ! 覚えていろ! どこまでも、お前を追いかけてやる! どこまでもだ! 街の外だろうと、他国だろうと! 二度と平穏が訪れると思うな! 地獄の果てまで追いかけてやる!」



 ーーーえっ。怖っ! ……そう言えば、サエウムはおちょくったらダメなタイプだった!



「ご、ごめんよー!」



 とりあえずペコッと頭を下げ、壁を降り走り出す。




 お腹空いたし、目指すは宿屋だ。




 ………………




 気づけば、辺りは完全に暗くなっていた。


 私は未だに、お姫様とエフを引きずりながら走っている。




 ーーーどうしてこうなった?




 本当なら今頃、宿屋で夕飯を食べ風呂に入ってゆっくりしているはずだった。


 考えが甘かった。


 城から出れば、自由だと思っていた。


 だが街の至る所に既に、兵士が待ち構えておりどこへ逃げても兵士がいる。



 未だに私は、逃げ続けていた。



 人通りや灯りのない場所で、小さな橋を見つけその下に身を隠す。




 ーーーどうしてこうなった? ……元はと言えば、リリスの所為だ! 次あったら覚えてろよ。



 人の所為にしたら、少しだけ心が軽くなった気がした。


 だが、そんな情け無い自分に無性に悲しくなった。



「ハァ。……帰りたい」




次回は、明日になります!

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