首トン
睡魔と戦いながら書いたので、書き直しました。少し残酷な表現ありです。
エフに着いていった先は、城から1キロ程離れた場所で、古びた教会があった。門も草が伸びきり巻きついて片側が外れていて、人が長い間立ち入っていないのが見て取れるようだった。
「ここだ。 この教会にある祭壇の下に隠し通路があった」
エフが教会を指差し門の中に入って行く、私も後を追うように中に入る。
敷地内も草や花が生い茂っていた。
石造りの教会の石と石の隙間からも草が伸びていて所々に小さい白い花がたくさん咲いている。朝露に濡れた葉が陽を浴びてキラキラと輝いているようだ。
私には、まるでお伽話に出てくるような神秘的な場所に見えた。
ーーーうわぁ! 異世界っぽい!
「キレイだね! 早く行こー!」
私は興奮を抑えきれず、クルクルと回転しながらエフを追い越し教会の中に入る。
エフの顔を見れば、彼女も同感だと言わんばかりの優しい笑顔だった。
中に入る。中は外観とは違い、窓にも草花が生えていて陽の光が全く入らず真っ暗で、木の長椅子などは腐食して今にも崩れそうだ。
祭壇はエフが先に確認したためか、ずらされており祭壇があったであろう場所には地下へと続く階段があった。
私は階段を指差し
「ここ?」
「ああ、そうだ。降りるぞ」
頷き、エフと一緒に階段を降りる。
階段を降りるにつれ、私の胸はたかぶっていく。
ーーーまるで本当に、忍者……いやスパイにでもなった気分だ! ワクワクが止まらないぜ! この後、たまたま城に来た悪い奴とか倒しちゃって王様達に感謝されて、秘宝とか貰って、国の英雄だ! って事になっちゃうんだろうな〜どうしよ〜
グフ……希望しかない!
妄想で、また口角が勝手に上がっていた。
長い階段を降りた先は、狭い一本道になっていて真っ暗で何も見えなかった。
「ライト!」
私が《ライト》と唱えると辺りが明るくなる。
するとエフが驚いた顔で勢いよく私を見て
「な! 光魔法が使えるのか?! もっちー殿の職種はなんなのだ?! あの速い動きに跳躍力、シーフ系と思っていたのだが……私の洞察力も落ちたようだ」
立ち止まったまま、またボソボソと何か言って落ち込んでいるようだ。
ーーーまじで、その変な癖やめてほしーな。この薄暗い場所と相まって、見てて余計に怖いわ!
「ハー。 Fー! おいてくよー!」
先を歩きながら、立ち止まったままのエフに声をかける
「す、すまない」
エフが謝りながら小走りで追いついてくると私の横に並び歩く。
100メートルくらいだろうか少し進んだ先には、テニスコートくらいの大きさの四角くひらけた何もない場所があった。
「なんだ、ここ?」
私が呟くように言うと、
「ほっほっほ。 こりゃまた随分と可愛らしい侵入者達じゃの〜」
老人特有の錆びた声が、この空間にこだまする。
目を凝らし辺りを見回すと、先程まで何もなかった中央の場所に、いつのまにか老人が胡座をかいて座っていた。
「迷子かの〜? 可愛そうにの〜。この場所に来てしまったのなら、申し訳ないが生かして帰すわけにはいかんからの〜」
老人がゆっくりと立ち上がると、《ライト》の光が当たりハッキリと姿が見えた。
「「な!」」
私とエフの驚きの声が重なり合う。
その老人は、髪はなく坊主で皺の多い顔はかなりの歳を重ねているように見える。目はつぶっているのか開いているのかわからないくらい細い。
そして、何故か上半身裸でとても痩せ細っていて骨が浮き出るくらいガリガリだ、そのうえ裸足で臙脂色のズボンを履いている。
「お前は! あのデーフォルか?! カースス王国の生きる伝説と言われている、仙人デーフォルか?! お前が、ここを守る番人というわけか……」
「お前は! にゃんで上半身裸にゃんだ?! 年寄りが無闇に体冷やちたらダメだろ、寒いだろ?! ガリガリだち、乾布摩擦でもちてたのか……」
2人の声がまた重なり合ったと思ったが、全く違う事を言っているのに気付く。
「「ん?」」
お互いに顔を見合わせる。
「「今、なん(にゃん)て?」」
また声が重なる。
ーーー生きる伝説だと……このガリガリの老人が……羨ましい! 私の目指すポジションが! すでに、奪われていたとは! 許すまじ……
私は、ゆっくりとファイティングポーズをとる。
すると突然、私の頭の上をナイフが二本通り過ぎて老人デーフォルに向かって飛んでいく。
刺さった! かと思った瞬間、デーフォルが右手を動かし指と指の間に器用にナイフを挟んで防ぐ。
「もっちー殿、少し下がっていてくれ! こいつはヤバイ相手だ! 私が相手をしよう!」
エフが私を守るように前に立つ。
「ホォホォホォ。どうやら、やる気満々のようじゃの〜。どぉれ、少し遊んでやるかの〜」
デーフォルがゆっくりと動き、構える。
その構えは見覚えがあった……いや今まさに私が構えているポーズと一緒だった。
ーーーこ、このジジィ! 私のファイティングポーズまで被りやがって! なんだ、キャラ被せにきてんのか?!
するとエフが、二本のくの字に曲がった長めのナイフ《ククリ》を両手に持ちデーフォルに向かって走る。
エフが地面を蹴り、上に飛んだかと思うとその勢いのまま斬りかかる。
デーフォルがそれを素手で軽くいなす。
エフはまた距離をとり、止まる事なく何度も斬りかかる、が、全ていなされている。
私はボーッと2人の攻防を眺めていた。
ーーーうーん。ジジィの方に分があるなー。全然、Fの攻撃効いてなさそうだし。レベル差がありそうだなー。てか、なんでFはあんなに張り切って前に出たのか謎だ!
「Fー! ガンバレー!」
とりあえず、声を出し応援をする。
エフは全ていなされている事に焦っているのか、次第に攻撃が雑になっり、呼吸が荒くなっていく。
「ハァハァ! 《影移動》!」
エフが自分の影の中に溶けるように入っていく。
「ほう。その歳で《影移動》が使えるとはの〜なかなかやるの〜じゃが……」
デーフォルの影が少し揺らいだように見えたと思うと影からエフが現れ背後から斬りかかる。
「くらえ!」
攻撃が決まったかに思えた、が
「なん、だと……!」
エフの打ち沈んだ声が聞こえる。
デーフォルは後ろ向きのまま両手の親指と人差し指で《ククリ》をつまみ攻撃を防いでいた。
ーーーおぉ! ジジィかっこいいな! 私もいつかアレやろ!
と呑気に考えていると、
「ホッホッホッ。甘いの〜。殺気が全然消せておらんわい。そろそろワシの番かの〜」
デーフォルがそう言った瞬間、周りの空気が変わったように感じた。
エフも感じたのか、大きく距離をとる。
「Fー! 気をちゅけてー! ガンバレー!」
……F負けるな! ……って! ちがーーーう! 応援してる場合じゃない!
このままだと、おそらくエフは負けるだろう。デーフォルは何か、技かスキルを唱えようとしていた。
出会ったばかりだが、忍者ゴッコ仲間になった彼女が目の前で負けるのを見るのはいい気分ではない。
それにもし、エフが勝ってしまったら英雄を倒した女とか言われてまたもや私の狙っている立場を取られてしまう。
ーーーとりあえず、助けてやるか! ……やるならかっこよく倒さなきゃな!
実は先程のデーフォルのかっこいい防ぎ方を見て、私も1つ現実世界ではできないがここではできそうな事を思い出したのだ。
無意識に笑みが溢れる。
私は、足に力を込め全力で踏み込み一瞬でデーフォルの後ろに回り込むと
「トーン!」
効果音を自分で発しながら裏首に軽く手刀を当てる。
そう! 漫画やアニメなどで見る『首トン。』だ! 一度やってみたかったのだ。これでデーフォルは気絶するはずだ。
ーーー決まったぜ!
顔がニヤける。
…………
だが、手刀が当たった瞬間!
ボキン! グリュリン!
奇妙な音と共にデーフォルが崩れ落ちる……
ゆっくりとデーフォルを見ると首が明後日の方を向いていた。
「ぎゃあぁぁあぁあ!」
狂ったように悲鳴をあげ、自分がやってしまった事に、助けを求めるようにエフを見る。
エフと目が合う、すると、
「いやあぁぁあぁあ!!」
私のあまりにも恐怖で叫んだ顔に驚いたのか、彼女も悲鳴をあげる。
「ひぃやぁぁああぁ」
その顔を見て私ももう一度悲鳴をあげる。
…………
しばらく死体の前で立ちすくむ、するとエフが正気に戻ったのか、
「ビ、ビックリしたー! こんな薄暗い所であんな顔みたら、こっちが驚くぞ!」
「こっちのセリフだ!」
ーーーてか、あんな顔ってどんな顔だ! あれか……お化け屋敷で友達の悲鳴に驚いて、こっちまで驚くという、これが……恐怖の連鎖ってやか! こっちもビビったぜ!
…………
またお互い黙ったまま死体を見つめる。
ーーー殺っちまった! 首トン! 思ってたのと違う! 力加減が難しい! これじゃ英雄とか伝説とか言う前に、人殺しで捕まっちまう! 人殺し……これが……人を殺す感覚か……
やった事も無いことが出来るほど、この間学んだばかりなのに忘れていた、世の中甘くないのだ。
「 一撃であのデーフォル倒すとは! しかもあんな笑顔で躊躇なく首を……私は本当に、諜報部員としても暗殺者としてもまだまだだな。こんな小さな子供でさえ……私は今まで何をしていたんだ……」
エフがまたボソボソと言って落ち込んでいる。
ーーーまたか……彼女の癖ブレないな! いや、ここまで来たら、これはもう特技だな! 特技! ……って、そんなのどうでもいい! 殺人現場を見られてしまった……誤魔化さねば!
…………
「ジジィ、突然気絶しちゃったね」
自分の頭を小突きながら、舌をペロッと出す。
…………
「? 何を言っている! こんなに首が曲がって生きてるわけないだろう」
「え? このジジィ首がめちゃくちゃ柔らかいんだよーほらー」
ボキッ
私はデーフォルの首を元に戻す。
「いやいやいや、ボキって音が私にも聞こえたぞ!」
「ハハハ。しょれは、私の手の関節が鳴った音だよー」
笑いながら無理矢理、誤魔化す。
だが、エフの顔はまったく信じていないようで怪訝そうな顔をしている。
ーーー糞! うちのパーティメンバーなら絶対信じてるはずなのに……みんな頑張ってるかな〜
現実逃避しながら私はこれ以上は無理だと思いエフの背中を押し、
「さぁ! 先へ行こう! 時間は待ってくれにゃいよ〜」
「あ、ああ。」
エフが先を歩いたのを確認し、こっそりデーフォルに蘇生魔法をかける。
ーーーこれで殺人犯ではなくなっただろう! 『首トン』は封印だな……
……いや……練習してからだな! やっぱりかっこいいし、やりたい! 要練習! 必ずマスターしてやる!
私は決意を胸に、暗くて狭い道を城に向かって歩くのであった。
次も明日か明後日になります。




