同士よ
今日も遅い時間になってしまいました。
私は今、屋根の上を全速力で駆け抜けていた。建物と建物の間や障害物を飛び越えて颯爽と移動する、
ーーーまるで忍者みたいだ! 私!
「時短ー忍者〜参上!! ニン〜ニン♪ ニンニン〜♪ 作詞〜さっ〜曲〜セイラつぁ〜ん」
私のテンションは上がりきっていた。謎の鼻歌を口ずさみ移動していると、ふと思い出す。
ーーーたしか!! あれがあったはず!
急ブレーキで止まり、アイテムBOXに手を入れ、お目当ての物を探す。
「あった!! ジャジャーン! 《忍者メイクBOX》!」
言った途端に突然、空虚感に襲われる。
最近大人数で行動していたからだろう、一人で言っていて切なくなった。
「……着替えるか」
《忍者メイクBOX》は、課金ガチャで手に入れたおしゃれアイテムである。《ウサぐるみメイクBOX》と同じで、装備の性能などはそのまま見た目だけ変えるアイテムである。
さっそく《忍者メイクBOX》を使用する。
すると羽で形作られていたウサギの着ぐるみ姿が羽に戻り背中に引っ込む。
そして体が光ったと思えば何もないところから布が現れ体に巻きつき、真っ白な忍者装束に変わる。
上衣は白のノースリーブで腕半分には白い布が巻き付いている、袴はダボっとした形で足首にも腕と同じ白い布が巻きつき裾口を締めている。頭には白の鉢巻で全身白コーデだ。
ーーーおぉ! やっぱり変身物みたいだ!
…………
「うぉーおぉーーーー!!」
とりあえず叫んでみる、叫ばずにはいられなかったのだ、衣装も変わった事で私のテンションは更に上がっていた。
「うるせー!」
すると、向かいの家の窓からおじさんの怒鳴り声と共に空き瓶が飛び掛かってきた。それを躱し、また走り出す。
「っあぶね! ごめんなしゃーい!」
どうやら私はまったく、忍べてはいないようだ。
走りながら自分の髪がなびく。いつも髪の毛は隠れた状態だったのだが、今の忍者姿は頭が鉢巻だけだったので少し鬱陶しく感じた。
ーーーあとで、髪留めでも買うか……
と思っていると、自分の前を同じように屋根をつたり走る姿が1キロくらい先に見えた。
ーーーおぉ! 忍者ゴッコ仲間みっけ! ふふふ……ゴッコ同士だ!
私は全力で追いつき背後に近より声をかける。
「どこへ行く? 同士よ!」
すると同士は体をビクリとさせ、走るのを辞めて、こちらに振り向き構えると
「き、貴様! 何者だ!」
と吐き捨てた。
同士は、全身を隠すように真っ黒なローブを着ていてフードを深く被っていた。
ーーー貴様って! ……あれ? この人、宿屋で会った人だよな? 相変わらず、怪しい格好だな!
ハッ!……こちらの世界には忍者装束がないのかも! この黒ずくめが、こちらの忍者スタイルかもしれない! てことは……忍者ゴッコを常にするのが趣味なのか? 宿屋でもやってたしな……
私は両手をゆっくり広げ上に掲げながら、何も持っていないアピールをする。
「ん? 私を忘れたのか? 同士よ!」
私は、同士の《常に忍者風》に付き合ってあげる事にした。決して、自分がやりたかったからではない! そう同士の為なのだ!
すると、同士が困惑しているのか少し慌てた様子で
「同士? 私はお前に会ったことがあるのか? お前も、サジェス様より命を受けたのか?」
と聞いてきた。
ーーー誰だ? サジェス様って? 忍者ゴッコ仲間が……他にもいるのか?
…………ぜひ仲間に入れて欲しい!
今の私なら、隠密スキルなどはないがレベル120の身体能力でなんでも出来そうな気がしていたので、多少無理な遊びもできそうだ。
「あぁ! しょうだとも! 同士よ! 私もサジェス様から命を受けちゃのだ! 同士よ!」
先程から、同士よ!と連呼しているのは同士だという事をわかってもらうためであって、決して響きがかっこいいから言っているのではない! そう、断じて違う!
「なんだと……私の仕事が遅かったからか? ……救援か? だが、こんな子供が?」
すると同士はボソボソと何か一人で呟いているがよく聞き取れない。
ーーーなんだ? 暗いなこの人……何か失敗でもしたのか?
私は同士の肩に手を乗せ、
「気にするな同士よ! 私は、今から城に向かう! 君も来りゅかね? 同士よ!」
意味『元気だせよ! 今からお城行くけど、一緒に遊ぼうぜ!』と励ますように言うと、
「な! 当たり前だ! 私もサジェス様より直々に受けた命だ! 投げ出すわけにはいかない!」
どうやら、同士も忍者ゴッコで遊びたいようだ。
すると同士は、ゆっくりとフードを取り、
「私の事は、エフと呼んでくれ。本当に同士なのか?」
と真っ直ぐな瞳で私を見つめて言ってきた。
サラサラと揺れる長い金色のストレートな髪、少し吊り上がったエメラルドグリーンの様に澄んだ真っ直ぐな瞳は彼女の気の強さが現れていた。15、6といった所だろうかソフィアと同い年くらいに見える。
そして、ハーフエルフなのだろう少し長めの尖った耳がとても魅力的な美少女だった。
ーーーF? コードネーム的な? 凝ってんなー! まあ、私もやるならやり切りたい派だ!
「……もちろんだとも! 同士よ!」
私はエフの目を見つめ返し答える。
すると、
「私の目を見て答えたということは、真実という事か……ハァー。私が頼りないばかりに……」
と溜息をつきながらまたボソボソと何か言っている。
ーーー暗いなこの子! ほんとに! ……あ!そうだ!
と私はまたアイテムBOXに手を入れる。
「あった! 《忍者メイクBOX》!」
と《忍者メイクBOX》を取り出す。
お目当ての物を出すまで課金ガチャをして、なかなか出ずに被ってしまったのがあったのを思い出したのだ。
ーーーこれを着れば彼女も元気でるだろう! これから一緒に忍者ごっこするんだ、何事も形から入るのは大事なのだ!
「あい! これあげりゅ!」
と私が渡すと、
「これは、一体なんだ?」
と聞いてきた。
やはり、おしゃれアイテムはこの世界にはないようだ。私は、説明が面倒くさかったので
「いいから、使ってみて!」
と半ば無理やり押し付ける。
彼女は恐る恐るといったように、《忍者メイクBOX》を開ける。
すると彼女の体が光り輝いたと思えば黒い布が現れ包んで行く。
格好は私と同じ形の色違いで、真っ黒なハーフエルフ忍者の出来上がりだ。
「な、なんだ! これは!」
と彼女は大袈裟に驚いている。
「にゃ、にゃんだと!」
だが、私も驚いていた……
彼女は……でかいのだ……胸が!
私は、思いっきり飛びついた……胸に!
すると……ポヨーンと弾力があった……胸は!
「糞! ほんもにょか!!」
ーーー世の中! 理不尽だぜ!!
としがみ付きながら思っていると
「どうした?! 急に……甘えん坊なのか?」
と、ぎこちなく頭を撫でてきた。
ーーーな! 急に、母性本能目覚めさせてんじゃねぇ! 私は32歳の淑女だぜ!
私は、勢いよく離れる。
「あっ……」
すると、撫でていたエフの手が虚しく宙を泳いでいた。
「もう! 早く行くよ! あと、しょれは見た目変えりゅだけで装備の性能はしょのままだから!」
私は若干の苛立ちを含め、急かすように言う。
「あ、あぁ! 確かに装備をそのまま着けているような不思議な感覚だ! それにローブより動きやすい。 この鉢巻で顔を隠せばいいか…… それで、同士よ! 名は?」
エフが鉢巻で鼻から下を巻いて顔を隠しながら、私の目を見て聞いてくる。
「あぁ、私のことは“もっちー”と呼んでくれ! 同士よ!」
“もっちー”は、本名の望月から取った名前で現実世界でも友人からそう呼ばれていた。あだ名というやつだ。
本当はもっとかっこいいコードネームを考えたかったが思いつかなかったのだ。
「もっちーか……聞いたことがないな……まあ、サジェス様より直々に命を受けたのだから、その見た目と反して出来るのだろう? よろしく頼む!」
とエフがしゃがみ私と目線を合わせ手を出し握手を求めてきた。
ーーーおぉ! 仲間に入れてくれるって事だよな?! てか、サジェス様は空想の人物? それとも存在してる人物? ……まあ、そのうち遊んでればわかるか!
私はエフの手を強く握り返し、
「あぁ、私は強いのだ! よろちく! F!」
同士(遊び仲間)ができた事で私はとても喜んでいた。
ーーー今日はこれで1日遊べるかも!
なんて思いながら2人で、城を目指したのだった。
次は明日になります。




