チョロ子と駄々っ子
今回はギルドの説明の会になりそうです、
冒険者ギルドは街の中心部にあり、石造りの3階建の建物で、小さな窓があるが建物の大きさに対して少ない。まるで大きな監獄のようだ。
私の記憶が確かならば、この世界で一番の大きさだったはずだ。
意を決して両開きの大きな扉を開ける。
たくさんの冒険者がおり活気に満ちていた。
中の造りは、ゲームの時と同じで、真正面に3つの受付があり、右壁には大きなボードがあり依頼やパーティ募集の紙が貼られている。左側には、テーブルや椅子などが並べてある。
上の階は階段を見た事がないし、行ったことがないのでわからない。
右奥には地下に行く階段がある。
地下には試し打ちの部屋があって、新しいスキルや魔法の試し打ちができる、何度攻撃しても壊れない藁で棒を巻いたものがあったはずだ。
ーーーあの藁の棒ってこの世界だと、どうなっているんだろう。後で見に行かなければ!
記憶を思い返しながら観察をしていると、
「見ねー顔だな。新人か?」
と左側にあるイスに腰を掛けている、プレートアーマーを着て大きな盾を持った男が話しかけてくる。
その男は、おそらく20代前半ぐらいだろうか、赤毛の短髪で横髪を剃り上げている、青い瞳は鋭く、うっすらと笑みを浮かべる顔はどこか自身に満ち溢れているようだった。
ーーーおっ! もしかしてこれ、絡まれるんじゃないの!? お約束くるんじゃないの?!!
私はその男の目の前にあるテーブルに飛び乗る。
ゆっくりファイティングポーズをとり
かかってこい、とでも言うように人差し指をクイクイさせ、
「返り討ちにちてやる!」
と、吐き捨てた。
ーーー完璧だ! 決まった!
と思った瞬間、ゴツンと頭にエドモンドの鉄拳が降りかかる。
「なんでー?」
頭を抑えながら睨む。
「いやいや、こっちがなんで?ですよ」
あいも変わらずエドモンドは呆れ顔だ。
「……変わったガキだな。まあ、いい。俺の名前は《フォルス》だ! 」
彼は立ち上がり親指を自分に向け、何故か自身満々のドヤ顔で自己紹介してきた。
「あっ、どーも」
私はペコっとお辞儀する。
それに続いてソフィアも
「ソ、ソフィアです」
とお辞儀をする。
他のみんなは……無視だ。
すると、フォルスは何故か鳩が豆鉄砲食らったような顔をして固まっている。
「どうちました?」
私が尋ねると、彼はハッと我に返ったようで
首を激しく左右に振り
「……お前たち、俺のことを知らないのか?」
と聞いてきた。
知らないも何も全員がこの世界に、そしてこの街に来たばかりで初対面の奴を知っている訳がない。
私とソフィアが頷く。
すると周りで見ていただけの冒険者達も何やらざわついている。
「どこか、田舎の村から来たのか? 見れば獣人やエルフのパーティか、であれば他国のものか? なら、知らないのも無理ないな」
とフォルスは自分で自分を納得されるかのように、うんうんと言っている。
「で、お兄さん結局誰なの?」
ソージが若干苛ついているのか、仏頂面で聞いている。
ーーー珍しい! いつも無駄に、ニコニコしてるのに! おこなの? おこなのね!確かに、小馬鹿にされた感はあるけど!
他のみんなは、無の表情だ。
シロに至っては自分の髪をくるくると指に絡めたりと、話さえ聞いていなさそうだ。
ーーーほんとこいつら自由だな。
するとフォルスが、両手を広げ
「知らないなら教えてやろう! 俺があの《地獄の番犬ガルム》を倒した、この街最強と言われるSランク冒険者のフォルスだ!」
…………
ーーー凄いドヤ顔だ!ドヤ顔of theドヤ顔とはまさにこの顔の事だろう! 逆に清々しい!
と思いながら、
「あ、そうでしゅか。もう、行ってもいいでしゅか?」
私は受付を指差す、
「な、なんだと! もしや、ガルムを知らんのか? あれは伝説の……
とまだ喋っていたが、めんどくさそうなので無視して受付に向かう。
《ガルム》確かゲームでは、犬系のボスモンスターで確かレベルは70前後、だが攻撃は単調で状態異常攻撃もなく、火を吹くくらいだ。レベルが65あればソロで余裕と言われていたモンスターで経験値うまうま《黄色いワンコ》と呼ばれていた。
ーーーあれ倒して、あんなドヤるなんて! ふふ! やはり、私の無双姿が目に浮かぶぜ!
勝手に口角があがる。ニヤニヤが押さえきれない。
一番左側の受付に向かう。
ゲーム通りなら、3つに分けられている受付は左から、クエストなどの発注や新規受付用で真ん中が報告、報酬の受け取り用、右が素材などの買取りをするものだったはずだ。
その受付には、髪は茶髪のセミロングでムスッとした愛想のない顔の女性がいた。
私は、声をかける。
「すいましぇん。冒険者になりに来まちた。」
「はい、では受付をします」
と言って受付の女性は、かったるそうにこちらを見る。
「5名様ですね。では、こちらの紙に記入をお願いします」
ーーーん? 5名?
私は数えてみる。
1、2、3、4、5、6……。
やはり5名ではない、6名だ。
「6人でしゅ」
私が言うと、受け付けの女性はもう一度こちらを見て
「? どう見ても5名にしか見えませんが……」
と言ってくる。
私は受け付けの台に飛び乗り、
「6名でしゅ!!」
再度言う。すると受付の女性が
「申し訳ありません。確かに、冒険者ギルドに年齢制限はありませんが、常識ある方なら成人を迎えてから登録します。まあ、稀に若くて才能を見出し登録されるケースもありますが……クエストには危険がつきものです。命を落とす方も少なくありません。小さい子供にはまだ早い……いえ早すぎだと思います。まだ、2、3歳ですよね? 何も出来ずに死ぬのが目に見えています、なので容認しかねます」
と淡々と感情を出さずに、仕事上で言う事が決まっているかのように言ってくる。
私は慌てて反論する。
「なっ! 2、3歳!? 私は32歳でしゅ!」
「どう見ても、見えません」
「ぐふ! で、でも私はめちゃくちゃ強いでしゅ」
「どう見ても、見えません」
「で、でも……」
「どう見ても、見えません」
ーーーくそ! この女! まだ何も言ってないのに! このままでは、伝説が始まらない! あれを……やるしかないのか……
意を決して、ゆっくりと受付の台に寝転がる
そして……
「わー! 冒険者なるのーーー!わー!わー!」
泣きながら、手足をばたつかせる。
これは《駄々っ子》という、自らに精神的ダメージを伴うが、相手を困らせ渋々なっとくさせるという技……と思ってもらって結構だ!
「わー! わー!」
……チラッ。
と伺う、
受付の女性は氷のような視線で私を見ていた。
ーーーこの女、まさか! 精神攻撃無効の力があるのか? このままでは……
私は、助けを求めるように後ろを振り返る。
するとエドモンドが、フッと鼻で笑ったかと思うと……
優雅に受付の女性の手を取り、
「すみませんお姉さん、彼女は確かに見た目は幼児ですが、確かに32歳です。珍しい長寿の種族なのです。確かに残念な方で、奇怪な言動や行動をとりますが、真実です。ですので是非、手続きをお願いします」
と手の甲に唇を落とす。
……
「ヒュ〜やるねぇ〜」とソージが、冷やかし
「あらまぁ〜」とシロが楽しそうに言う。
私は、ブルリと全身に鳥肌が立つ。
ーーーひぃ! キモッ! あれじゃあ余計無理だろ! あとで、……とりあえず殴る!
私がわなわなと身体を震わせていると、
「そうでしたかぁ! 32歳ならば、問題ないですね! ではこちらの用紙に、ご記入お願いします」
と受付の女性が顔を赤く染め、先ほどの無愛想な顔など見る影もなく満面の笑みで話しかけている。
ーーーなん、だと……! チョロすぎないか? この女……ちゃんと仕事しろよ! まあ、ちゃんとされて登録できないのは困るけど……
私は心の中で、彼女をチョロ子と呼ぶ事に決定したのだった。
全員、用紙とペンを受け取る。
その用紙には、名前、年齢、職種、の3つを記入する欄があった。
「セイラ……32歳……ビショップ……」
私は、書きながらついつい声に出してしまうタイプだ。書き終え、チョロ子に紙を渡す。
するとチョロ子は、また不機嫌な顔を前面に出して
「すみません。えっと……セイラさん、確かに自己報告で真実か否か確実に確かめる手段はありませんが、ありもしない職種をこんな堂々と書かれては困ります」
と、紙を突き返された。
「なっ! 嘘じゃないち!」
どうやらチョロ子は私に難癖をつけないと気がすまないらしい。
私が、とことんやってやると息まいていると。
「セ、セイラさん、ここは落ち着いて下さい。セ、セイラさんは、お、大人なんですから」
とソフィアが私を宥めるように言ってくる。
すると、エドモンドがヒョイっと紙を取り上げ、《ビショップ》の文字にペンで線を引き、《クレリック》と書き直して、チョロ子に渡す。
「……話が進みませんので、少し黙っていてもらってもいいですか?」
エドモンドは笑顔だが、後ろから怒り狂う般若の面が見えるようだ。
「あい。」
私は、少し黙っておくことにした。
全員が書き終え提出すると、チョロ子が
「では、ギルドバッチを製作しますので、しばらくお待ちください。ギルドについての説明は必要ですか?」
チョロ子はもう、エドモンドしか見ていない。
「お願いします」
エドモンドは無駄に笑顔で答える。
ーーーチョロ子、騙されるな! こいつは顔だけだぞ!
と私は心の中でチョロ子に忠告しておく。
チョロ子は、後ろから現れた男性に紙を渡し、
「では、説明させていただきます。冒険者にはランクがあり、F〜A、S、SS、トリプルSとなっております。
一番下がFとなり、上がトリプルSとなっていて、ギルドに入ったばかりの皆さんは、Fランクからスタートとなります。
現在、登録されている冒険者で一番上はSSランクの方で10人程です。トリプルSの方はおりません。
ランクを上げるには、一定量のクエストをクリアしていただくか、ランク毎に決められたダンジョンの奥にいるボスモンスターからドロップできる貴重なアイテムを納品するかどちらか、となっております。
一定量の詳しい数字などは、教えられない決まりになっています。そしてランク毎のボスですが、決してソロで倒せるレベルではなく、アイテムも必ずドロップするわけではありません。なので、どちらを選ぶかそのあたりは人によってバラバラです。
ランクアップは拒否もできます。このまま上に上がるには自信がない方や、Cランク以上になると強制クエストなどもありますからね。
強制クエストも、クエストによっては違いますがお金を払えば免除されるものもあります。
フー、ここまでで何か質問はありますか?」
全員、首を横に降る。
全員がちゃんと話を聞いているようで驚いたのはここだけの話だ。
「では続けます。皆さんから見て左側のボードに現在募集しているクエストが貼られています。
クエストにはランクによって受けられる物と受けられない物がありますのでしっかり確認して下さい。
ランクが一つ上のものまでは受ける事ができます。例えば、Fランクの皆さんでしたらEランクのものまで受ける事ができます。
ですが、上のランクを受けると言うのはより危険になると言う事なのでこれもしっかり考えてから受けて下さい。
ちなみに、下のランクは受ける事が出来ません。これは、ランクアップを拒否した方々が下のクエストを食い散ら……独占しないようにと考慮しての事です。
そして、クエストを一度受けキャンセルする際にはキャンセル料が発生します。この金額もクエストによって変わりますのでしっかりと確認してください、それと、クエストには期限が設けられているものもあります。その期限が過ぎてもキャンセル扱いになりますのでご注意下さい。
失敗した場合も違約金が発生します。
またギルドでは、傷または死亡による保険などはございません。自己責任でお願いします。
要は、しっかり考えてからクエストを受けて下さいと言う事ですね。
最後となりましたが、こちらでクエストの受注を行なっていて、隣が報告、ここから見て一番奥が納品や鑑定をする窓口となっております。
納品のクエストの場合、先に奥の窓口で鑑定してもらい真ん中の受付で報告する。という流れになっております。
以上です、質問はございますか?」
「あい! 地下は何がありましゅか?」
私は手を挙げ質問する。
「地下は現在、訓練所となっております。ご自由に利用が可能です」
ーーーどうやら、ほぼゲームと同じようだ。後でのぞいてみよう。
「他に、ご質問などありませんか?」
私は、頷き周りを見る。
全員頷いてはいたが、シロとソージは途中で飽きたのか、どこか別の方を眺めていた、心ここに在らずだ。
レオは、目を開けたまま寝ているようだ。
ーーー器用だな……レオ。まあ全員、勝手にどっか行かなかっただけマシか。
そう考えていると、
チョロ子の後ろに先ほど紙を持って行った男が、丸い物が6個乗ったトレイを持ってきた。
トレイを受け取ったチョロ子が
「では、バッチが出来たようなので、お配りします」
と言って、全員に丸いバッチをくばる。
そのバッチは、直径7センチ程の大きさで銀色をしていて大きくFと書いてあった。
ーーーおぉ!! ……ダサい。
皆んな同じ事を思ったのか、しぶしぶと言った感じで胸元近くにバッチを付けていた。
「こちらがギルドの証となります。クエストの発注や報告の際に必ず提示してください。
これをこの台に乗せると、名前などの確認や現在受けているクエストや過去に受けた件数、功績などが分かるようになっています。
ランクアップの際はバッチはそのまま、こちらのFの字が変わる仕組みになっていますので失くさないようにお願いします。
紛失された場合、再製作できないものとなっておりますので、また最初からの登録となります、お気を付け下さい。
では、あなた方の冒険が良きものになりますように」
説明を受け終え、私達は相当疲れたのだろう……全員、無言でギルドのイスに座り、ぐったりとしていた。
次回は、ダンジョン行きます。明日になります。




