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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
第一部 三章 強烈姉妹と幽霊それから勇者
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S級の襲撃者

第77話、あとがきを改変いたしました。見落としていた割と重要な部分になっている投稿なので読み返していただくと有り難いです。




 跳ねる。


「ぬんっ!!」


 背後を見る余裕はない。また見れたとしても恐らく驚きと恐怖で足が動き続けることを拒否するであろうことは容易に想像できた。


「ふんっ!!」


 掛け声と共にまるでドラゴンの足音と聞き間違うような轟音。


 信じられるか? あれ人間がやってるんだぞ?


 見れない。怖くて見れない。


 合間合間にステータスを見ても───


────《MP293/10486》


 ダメだ、まだ少ない……!!


 幾つかレベルが上がったお陰で多少敏捷は上がっている。現在『121』である。


 そのせいで一回使うのに1210も使うのだ。この調子では上がりきる前にあの男の攻撃を被弾することは想像に難くない。


 実際、あの男が攻撃を仕掛ける度余波で地面が捲れ、そこら中に土の塊を弾け飛ばしている。それですら無視できないダメージになるだろう。


 攻撃に意識を割いた瞬間には死んでいるだろうと思わせるに足る周期で攻撃は行われている。


 故に不格好にも跳ねるような動きになっているのだ。


「……遊んで……るよね……っ」


 多分相手は本気ではない。


 そんな事は分かっていても憤る余裕すらない。ただひたすら跳ね回るように逃げるだけだった。






 視覚外のその感知能力に、自らの姉の浮かない顔が映る。


 そんな顔をする自らの姉が美しいと見とれかける妹。ティアは充分にシスコンである。


「……助けを呼ぼう」


「何故ですか?」


 ノータイムで疑問を口にする。姉の行動は正しいが、偶に何も考えてないときがある。


 そう言うときも特に文句はない。


「あの男。早速冒険者からクラスチェンジしたようだ」


「そもそも、あの人間を私は知らないのですが……」


 あの男、と言うのは今暴れている男であろう。語った通り知らない男だ。


 すると、キョトンとした表情を返してくる自らの姉に一瞬だけ我を忘れそうになる。


 いけないいけない、お姉さまはそう言った趣味は無いのです私。お姉さまがこんなに愛らしいのがいけな……


「あの男は先の戦争のルーズリア側で活躍したS級冒険者だ」


 あの男? ああ、あの男。一瞬誰のことか忘れてしまいました。これもお姉さまが愛らしいのが。


 愛らしいのが素晴らしいのですね。


「S級と言うと一応お姉さまと同等ですか……」


「しかも戦争では戦場に出た回数は多いのに私は一度も目にしていない」


 つまり未知数。


「そして、私よりも強い人達を相手にして、未だに生きている」


「お姉さまよりも強い方がいらっしゃったのですか?」


「そりゃあ、何人もいるさ」


 さも当たり前のように、おどけたように言って見せた姉。その姿が強くなることを諦めているようにも見えて悔しかった。


────因みにリエルが自分よりも強い人を聞かれて真っ先に挙げるのが妹のティアである。


「…………でどこへ向かうのですか? あれほど激しく攻め立てられればそう長くは保たないと思うのですが」


 私の常人よりも鋭くならざるを得なかった聴覚が後方からの爆弾を爆発させたような爆音を何度も耳に捉えている。


 ドカドカドガドカと正直耳障りであるが、この様子だと誰かが見にくる可能性が高い。


 救援を呼ぶ必要はないのではと内心思う。


 …………お姉さまの行動に疑問を持つとは、何様のつもりですか、私。


「そうだな。だから助けを呼ぶんだ。下手すればアサギが死んでしまう」


「まさかお姉さまはあんな男が心配ですか!?」


「……単にアサギが居なくなると私たちが危ないと言うだけさ、心配ではあるけどな」


 何ですか今の間は。


「そうですか」


 端的な答えを返す。


 私達は目立つでしょうが屋根の上を走っています。お姉さまはアテがあるのか、向かう方向に迷いはありません。


 流石はお姉さまですね。


「問題は今この町に居るかどうか、だが……」


 きっと居るでしょう。


 この世界はお姉さまを中心に回っているのですから。






 間一髪。


 バランスを崩し転倒寸前と言ったような動きで、弾丸のように飛翔着弾する大男の自力人間砲弾道から外れる。


 あ、頭のてっぺんかすったぁー!!


 しかしそんなことを気にしている余裕はない。遂においぬかれたのだ。僕は慌てて方向転換を試みたが。


「ふんぬっ!」


 大男が地面を踏みしめると、地面に亀裂が入り、それは僕の両脇を通り過ぎて行く。


 ギラついた大男の目が僕を射抜いた。


「《鬼け─────っ!?」


 咄嗟の判断。


 十字架を掲げるようにして前に突き出した。


 そもそも目で追えるとは思っていないが、何となく。ただ何となくだが、ガードする動きを見せればそこに合わせてくるような気がしたのだ。


 盾代わりになるならないは考える余裕もなかったと言うのが大きい。


 そして突き出した剣から伝わる衝撃。


 それは一拍置いて僕の身に降りかかった。


「っ!?!?」


 剣が震え、体が揺れた。


 そう頭が捉えたときには僕は既に大男から十メートルは離れていた。


 止まったときには踵がその倍の距離轍を作り上げている。


「この体は最強の矛である。同時に最強の盾である。矛盾が同席するこの体に敗北はない」


 正直思ったよりもダメージが圧倒的に少ない。一発もらえば即再起不能になると思っていたのに、剣でガードしたと言うだけで『頭がクラクラする』程度に留まるだろうか? 姿勢を崩さずに後方にこれほど吹き飛んでいた。それがこの攻撃のちぐはぐな印象を強くした。


 さらに、十字架によく似た剣はまるで何事もなかったかのように傷一つ見当たらず。


 腕が震える。恐怖ではなく、衝撃に耐えきれ無かったのかあまり力が入らない。それに気付いたのは剣を手から取りこぼしてからである。


「あ…れ……?」


 なんで地面が近付いて…………?


 突然視界が不自然な動きを見せる。



─────違う。僕が倒れたんだ。



 受け身を取れず全身を打ちつける。


 何とか動いた頭で見上げるように大男の方を見る。


「ふん。トドメは苦しまぬように一撃で刺してやろう」


 悠然とした動きで近付いてくる。それは余裕か。


 気付けば全身が動かない。力が入らない。


 痛みを感じないのは、そう言った技能でも使用したのかはわからないが原因が先の一撃である事は間違いない。


 ゆっくりとした動きで大男が近付いてくる。だというのに危機感の無い頭はわかりもしない事についてぼんやりと考えていた。


 痛みも苦しみもないのに考える力すら失われかけていた。


「もはや意識はあるまい。この拳で貴様の『意志』を奪い取ったのだからな」


 目の前に大男の靴が見える。


 余りに近すぎて足しか見えない。


 瞼が、重い。


 視界が、映る物々の輪郭が、ぼやけて、歪んで、見ることがかなわない。


「で─トドメを刺─う!」


 聴覚すら、まともに働く気がないのか。


 僕は、意識がまともなら失望していただろうが、既に殆ど何も考えられないのだ。


 だから、気絶しているようで起きている頭は、意識はいつまで経っても完全に途絶えないことに疑問を持つことはなかった。



「へぇ、随分無茶苦茶な『世界』だな」


 光が局所的に降り注ぎ、消える。次の瞬間には既に黒衣の男はそこにいた。


「己の素の拳と身体。それが最強だと自己暗示を掛けて『システム』自体を騙してるのか……。他人に抵抗する猶予を与えない事がお前にとっての最強と言うことでいいのか?」


「何をほざいている」


 大男は戸惑う。


 意味不明な事を口走ったこの黒衣の男に、本能的な部分で関わるべきではないと感じたのだ。


────決して言動とは関係なく。


「いや、な? そこに転がる百年来の友じ……いや、いっそこの期に親友に格上げしてしまおうか」


 黒衣の男は、大男と黒衣の男の間に焦点定まらぬ瞳で地面を眺める浅葱優を指差しながらぶつぶつと呟いていた。


「何を言っている!!」


 抑えられず大男は叫ぶ。


────果たして抑えられなかったのは怒りか、恐怖か。


「んあ? 何キレてんだよ、こっちゃひっさしぶりと言うか最早百年ぶりの友人……あ、いや親友。親友に会えるかもしれねえと思ってウキウキしながら帰ってきてんだのに………」


 その瞬間右手を顔の高さまで挙げ、手を広げ手のひらを天に向ける。


 すると、薄青く光る経線緯線のみで形成された地球儀のような球体がその手のひらの上に出現した。


「親友、ボコってくれた借りはきっちり俺から返してやる。感謝しろよ? 俺はソイツに喧嘩で負けてるんだからな、弱さは保証するぜ?」


 大男に『駄目だ』と直感させるほどの獰猛な笑みを黒衣の男は浮かべる。


────ようやく追いついたリエルが、そして現場を見て安堵した。

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