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不完全愚者の勇者譚  作者: リョウゴ
第一部 三章 強烈姉妹と幽霊それから勇者
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囲む襲撃者達2



 《魔力海》を挟んで睨み合う襲撃者と僕。どちらも有効な攻撃を出来ずにいました。


 こんな時、魔法がまともに使えればなぁ。なんて思うのです。


 なんて言っても、僕の方が有利ではあるのですが。


「ありったけの矢と魔法だ!! ない奴はあの魔力の壁を削りまくれ!!」


 誰かが言った。呼応するように矢と魔法が雨霰と降り注ぐ。雨も今降ってるね、強くなってきた。


 因みに軽く濡れてはいるけども、殆ど雨を浴びていないので、傘代わりになりそうだなと思いました。


「《ライトニングパニッシャー》!!」


 何それかっこいい!!


 取り敢えず雨をひとまとめにしてみるものの。特に前に出て切り込むつもりもない。そんなわけで技名聞いてみたりしているわけです。


「この人達は何して遊んでいるのですか? 何もないところを斬ったり斬ったり。分かりますかお姉さま?」


「おい、アサギお前遊んでないでさっさと殺せよ」


 おや? お二人様来ちゃった?


 後ろを見れば孤児院の入り口からひょっこり顔だけ出していた。


 今更だけど、《魔力海》は音はちゃんと減速せずに伝えるみたいだ。光も。


 これは留意しておこうかな。


「遊んでないですよ。さすがに前に出て無傷なんて無理ですからどうにかこうにかここから動かずに殲滅する方法を考えてたんですよ?」


「それを遊んでいるって言うんだよ」


「ねえお姉さま質問に答えて下さいぃー」


 それに…………いや、なんかどうでも良いか。所詮他人だ。殺してしまったって良いじゃないか。向こうだって覚悟の上のはずだ。


 …………それで、良いのか?


 ……何の事だ? 何が悪いんだ?


「どうした。そんな拳を握りしめて。何考えているんだ?」


「なんも、考えてませんよ」


 何か大事なところが消えてしまっているような気がして、不安になる。


 リエルさんには、気取られただろうか? 別にそれがどうしたというのかは分からないが何もないように取り繕った返事をした。


「どうでも良い、他人。それも殺意を持って襲ってくる奴らじゃないか。……そう、問題ない。問題ない」


 後ろも前も見ないように呟いた。


 雨を降らす空はまだ鈍く暗い。


「《魔力海》を解除して、《鬼剣》を発動……」


 右手に握り締めた剣に魔力を込める。自然、握る手の力も籠もる。


 無意識に胸の芯が熱くなる。


「はー………」


 深い溜め息のような吐息。


「おいっ!! 消えたぜっ!!」


 《魔力海》は解除した。だいたいの魔力を剣に集中させたかったからだ。


 消えたことに気付いた野郎どもが歓喜とともに前へ出る。


 柄の長い剣を短く持ち。腰を落とし左手を柄尻へと添える。肩に刀身を乗せるように、柄尻を突き出して構える。


 刃を横に向け。


「────ッ」


 駆ける。


 先頭。突き抜けた一人を踏み込みと共に柄尻で胸の中心をド突く。


 相手の胸骨を砕く感覚と同時に左へ払う。


 右へと一歩。流れるような動きを意識して左側で腰の高さに、腰溜めに構える。


 左手に魔法の予兆と短剣を振り上げる右手。次に一番近くにいた者の動きだ。


 脇がガラ空き。剣を体ごと捻りながら振り上げる。斜めに切り裂かれた相手は斬撃の後長い柄での太刀筋をなぞる殴打で跳ね飛ばす。


 次は大きい動きをした僕が隙だらけに映ったのか。反転したせいでおおよその襲撃者がいる方へと背を向けていたのだが、脇を締めて手に持つ短剣を突く動きで走ってきた奴がいた。


 両手で短剣を持っているのが見えた。ハイキックを顔面にかまして、大きく仰け反った胸に一拍置いて逆の足でヤクザキックをかました。


 下方向への力に耐えられず不自然な曲がり方をしたように思えたが、多分生きているだろう。


 とは考えたものの殺す気でやっているのだから、生きているかどうかは気にする事じゃない。


 そして両サイドから同時に来た。馬鹿みたいに斧で振り下ろしをする二人。


 避けるのは簡単だった。後ろへ一歩下がると左側の奴の腹に長く持った剣を突き刺し、右の奴の鼻っ柱を折るつもりで左拳を真っ直ぐ叩き込んだ。


 次は正面から飛び込んで来たので。未だ倒れ込んでいる奴の上を飛んだそいつの足元の奴の足を掴んで振り上げて当てる。


 振り抜いてブン投げると、流石に相手の動きが止まった。


「……次は?」


 倒れた奴に刺さっていたはずの剣はまた手元に来ていた。もはやこれはそう言うものだろうと、さすがに理解した。


「まさかこんだけで怖じ気付いたの?」


 そのまさか。


 襲撃者達は打って変わって、警戒の目で見ていた。


 尻込みしていたとも言うべきか。きっと近接戦闘が出来ないと思っていたのだろう。


 舐めるな。森で、保護者居たとは言えどもこの程度も出来なければ死ぬぞ。


 まあ、そんな過去があったことなど彼らが知るわけないが。


 倒れ伏す奴らを眺める。どうやら死んでいないようで一安心。


 殺すつもりだったのに何故安心しているのやら。


「どっちみち中途半端じゃ、そんなもんだよね……」


 自分の剣の腕の無さからそんな呟きを漏らす。


「今度は分かりましたよお姉さま、確かにそこそこの腕はあるようですね!」


「ま、『視えない』んじゃ、そのくらいの評価しか出来ないよな」


「お姉さまは、またまたぁ。『存在しない』って言ってるじゃないですか」


「主語抜いて分かる地点でその否定意味あるのやら」


「この問答は飽きるほどしてますからね」


 何やらあの姉妹、言い合っているようだ。


 大した話ではないだろう。


「何をてこずっている」


「アニキ!!」


 突如現れた肌の黒く焦げた大男。口々にアニキ来た! とか、これで勝つる! とか やっちまってください! とか聞こえる。風貌は完全に黒人さんだ。強そうな体つきをしている。


 強そう、ではなく本当に強いのだろう。まるで海を割ったモーセのように人垣に道が開く。


「まさか、こんな小娘3人にてこずっていたのか?」


 大男は呆れ気味にそう言った。


 むかっ。


「小娘とは何だっての。この愚者共が」


「…………聞こえている。まさかの世界の敵呼ばわりか」


 聞いた話。愚者は最悪の罵倒だそうで。まあ、悪者だし。


「ああ、まあお前たちが遅いから来て見て。正解だったか」


 大男は左手を引き、右手を前に突き出した。


 まさか、素手?


「俺の得物はこの体。最高の得物であるということを貴様等の死を以て証明しよう」


────ボスっぽい人が、あらわれた!!


 一々襲撃者を倒すよりもボスっぽい人を倒して戦意を喪失してもらおうか。


 疲れていたのか、僕は思考が雑になっていた。


 故に。


「支援はお任せくださいっ! アニキ」


「任せたぞ!」


 うえっ!? 卑怯だよ!?


 そんな対話をする大男。


 何となく妨害はしてこないのではないだろうかなどと言う思いは霧散した。代わりに少しばかり理不尽な怒りが滲む。


 そして、突撃してきた大男に対し僕は、そっちがその気なら、と《魔力海》を発動したのだった。



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