「これ一本で超安心」
結局昨日の夜から今まで、アサギくんを見ていない。
……はぁ。
「どうしたのかにゃ、エリシア。溜め息なんて……もしやアサギくんの事かにゃ?」
「ど、どどどどうしてあさっ……っ」
「焦りすぎにゃ。深呼吸深呼吸」
「すぅ………はぁ………」
「落ち着いたかにゃ?」
………落ち、着いた。
私は私自身かしっかりとした落ち着きを取り戻した事を自覚し、そしてもう一度改めてフーデラさんに聞いた。
「そ、それでなんでなぜにどうしてアサギくんの事だと思っちゃったんですかぁっ!?」
……あれ、充分に気持ちを整えたんですけど。何でこんなにテンパってるんですか私。
「……エリシア落ち着いて、割とマジでおかしいからにゃ」
珍しく諭すような声音でフーデラさんが言う。私はやはりそうなのだろうかと
「……おかしいですか?」
そして当たり前のように
「んにゃ。おかしいにゃ」
同意が返ってきた。
「ま、確かにアサギくんは今日仕事もせずにどこかほっつき歩いているけど何してるー、なんて個人の自由にゃ。あんまり気にしない方がいいにゃ」
「……でもまた変な事件に巻き込まれてないとは限らないし」
「───また? まさか昨日何かあったのかにゃ?」
「……別にそう大したことじゃないよ?」
「それなら何があったか言ってくれてもいいんじゃないかにゃ?」
少しばかり考えたけれど先程言ったとおり大したことじゃない。私は少し考えた間を置いて、言った。
「昨日、何やら裏路地に行くのを見ちゃったの」
「それはアサギくんがかにゃ?」
「そうだけど聞く必要ある?」
「いや、アサギくんそういう所行かないと思ってたし」
「そう言うところ?」
「裏路地というとこの町にもあるでしょ、余所から来た私は知らないけど。そういうエッチな事するような店がある通りとか」
何 を 言 っ て い る ん だ 。
私、そんなところがあるだなんて聞いたことがないんですけどぉ!!?
「そそそそんなとこアサギくんが行くわけ無いじゃないですかぁ!!」
「動揺しすぎにゃ。わかんないよー? アサギくんだって性別は男なんだからにゃ。そりゃあ、アサギくんが男というのは、あまり信じられないけど……」
そう……?
「どうしたのにゃ、エリシア」
「そもそも私もそういう所があるなんて聞いたこと無いし。アサギくんがそう言う情報手に入れて行くところもあんまり想像できないし」
何より想像したくないし
「大体私が言いたかったのとかなりそれちゃってるの」
「あれ? そう言う話じゃなかったっけ?」
ニヤニヤしながらフーデラさんが言っているので、恐らくは私の反応を楽しんでいたのだろうし。言いながら脱線していたことにも気付いただろう。
そう考え、私はフーデラさんを睨んだ。
「あはっ、だってエリシアの反応面白かったからにゃあ」
……すごく、ムカつく。
「話戻しますけど、アサギくんが入っていった路地に、追っかけて行ってみれば」
「待った」
「………何?」
フーデラさんは真面目そうな顔で私の話を遮った。
「エリシア、何で見かけただけのアサギくんの後を追いかけているの」
「……………………………ま、街で後輩見つけたら後追い掛けてみたりしたくなりませんか?」
「……何その間」
「だぁもぉ良いじゃないですかどうだって」
何やら追及した気なフーデラさんの視線をあえて無視して話を続ける。
「追いかけた結果何やら荒くれ者の集団が居たんですよ」
「嘘にゃ」
「へ?」
「最近のエリシアの仕事とか見てて、そう言った人種の前に出てまともに逃げられる気がしないにゃ」
眠そうに言うフーデラさん。ばかにしてる? と思いマジマジ見ても一歩引いてゆらゆら見てもどうも真剣にしか見えない。
というか眠そうだ。眠いのがフーデラさん的に仕方無いのは分かるが話の途中で寝られても私が怒らない自信はない。
「いや、私そんな子でしたか?」
「先週の件以降はホント顕著だったにゃ」
「…そうですか。確かに1人で居ると最近震えている気がしますし、1人で男の人──店の人以外ですよ? に話しかけられると正直おかしな緊張をしますけど」
フーデラさんはまだ眠気から耐えていた。本当に眠そうだ。
「でもこの刀があれば安心出来るんです」
「っ!?」
ひょいと刀を目の前に出すとフーデラさんは驚いたようにのけぞり目を白黒させた。
「ちょ、それ、どこから……」
「ずっと持ってたじゃないですか」
「え、あ……れ? そうだっけ?」
私はずっと持っていたじゃないですか。
────隠すスペースが無いじゃないか? フーデラさんがこんなに驚くんだから目に見えるところに無かったんだろう?
いやいやずっと持っていましたよ? この刀は。
じゃないと怖いから。
怖いから。
「信じてくれないならそれでも良いですが一応。荒くれ者的な人達は伸しましたよ、ちゃんと」
「…………」
「本当に信じてくれないんですか…。」
フーデラさんはそんなことないにゃ、と横に首を振る。
「……それで、そう言う人たち見たからアサギくんが変なこと巻き込まれたんじゃないのかって事かにゃ?」
私は即座に首肯する。
「やっぱりエリシアは考え過ぎにゃ」
「ええ…? そうですか?」
「その刀がないと不安なのも、今言ったアサギくんの事も。まぁ色々あるから思い出したり考え過ぎたり、そういうのは仕方ないと思うけど」
「かっ……考え過ぎだなんてそんな事はないです!」
「本当かにゃ?」
フーデラさんは真っ直ぐに私の目を見てくる。
少し冷たい目をしていた。
「大体ね、エリシアは私達が居るのになんでそんな不安そうにしているのかな?」
するとフーデラさんは柔らかく笑う。
「相談ありがとね」
………え?
「全く。何が信じてくれないんですか、よ。信じられる話かさておき信用するに決まってるじゃん」
「……何でですか?」
「えー、当たり前じゃない? 可愛い後輩がせっかく相談みたいなことしたのに信じる信じないとかいう詰まらないところで無碍にするなんてそれこそ最低に詰まらないよねってこと」
フーデラさんがそう言うところを私は何か言い返すことが出来なかった。
「で、アサギくんがまた変なことに巻き込まれたとか巻き込まれてないとか。済んだことは済んだことで仕方無い。今度あったとき何があったか直接聞くとかすればいいし、今日に関してはリンに聞いてアサギくん何してるか知ってるけど、さ」
「え!? 知ってるんですか!?」
「自分で聞きなさいな」
フーデラさんは笑いながら二階に行ってしまう。
………て、ちょっ
「結局無碍にしてませんか!?」
結局何かしてくれるでもない解決策の提示に、私はフーデラさんが消えていった階段の方に叫んだ。
「……でも、少し軽くなったかも。なーんか認めたくないけど」
しかし抱えていた不安はほとんど感じなくなっていたことははっきり分かった。




