小さな分かりづらい気遣い
「お前ら! 弛んでんぞ!」
カイは開口一番そう言った。いや、叫んだ。威圧感のある声が店内に響き、嫌でも僕らは緊張する。
既に夜。続々帰ってくる人達を立たせて。
ああ、何かスイッチ入ったっぽいなぁ。と諦念を込めた目でカイを見る。
あの後適当に談笑した後に、アルマさんが帰ってきた。その時目の色が変わったのだ。
僕ら全員に向かって何やかんや説教臭いことをするカイ、似合わないなぁ。売り上げ低いとか、掃除が出来てないとか整理整頓がどうとか。
なんて考えていたら、気付いたら話は終わったようだ。想定以上に短かったな。
「───明日からはビシバシ行くぞー!! 覚悟しとけ!!」
カイは手を叩き解散だと説教を締めくくった。
「で、どうしたものかなぁ……」
先程の説教の間は、エリシアさんはここに降りてきていたのだ。……決してこちらを見たりはしなかったが。
そして部屋には入れてくれない。
まあ、僕も少し所かかなり問題視はしていたのだけれど、やっぱり男女同室は問題だよね。
カイに言われて、漸く決めた。
─────別の場所に泊まろう。
「───て、あれ? えっと……」
声がした。
「リンさんか……」
「うん、そうだよ? で、えっと……」
リンさんは何かを思い出そうとしているのかむむむと唸っていた。
「……そう言えば名乗って無かったですね?」
「………?」
「僕の名前は浅葱です。呼び方はご自由にどうぞ」
「分かった、じゃあアサギくんって呼ぶね、それと多分知ってると思うけど私はリンっていうんだ」
どうやらリンというのはあだ名とかそう言ったものではなく、本名だったようだ。
リンさんは一つ質問を僕にしてきた。
「それで、なんでこんな夜更けに、うろちょろしてるのかな」
「………ええと、僕が今住んでいる部屋がどういう状況か知ってます?」
「うん。エリシアちゃんの好意で部屋に泊めて貰ってるんだよね?」
「…? ええ、厚意で」
何となく、違和感のある言い方をされた気がするが気にしない。
「でも、やっぱカイにも言われたんですけどそういうの、問題ですよね。と思って、家か、部屋か。そう言った泊まれる所探そうと思うんですよ」
「アサギくん、はそういう、問題になるような……エリシアちゃん襲ったりとかするつもりあるの?」
「あるわけないです」
怒気を込めて、はっきり言う。
「なら別に良いと思うんだけどなぁ」
「いや、それとこれとは別だと思うんです。多分頼めば誰か金をある程度出してくれると思うんですよ……カイあたりに頼むと思うんですけど」
「別にここ只なんだし、無理に移動する必要ないと思うんだけど」
「……なんでリンさん反対してるんです?」
「ちょっとエリシアちゃん観察したらね。何となくそうしようかなと」
意味が分からない。
「兎に角、そういう生活拠点を紹介してくれるところとかってありますかね?」
「……ギルド」
「へぇぇ」
何でも屋みたいなイメージになっちゃうな、ギルド。
「本当にいいの?」
「いいのって、良くないから出て行くんですよ」
「いいならいいけど?」
全く、何が言いたいのか。おかしな人だ。
僕は、特に普段と変わらない様子のリンさんが上へと行くのを見送りながら椅子に腰を下ろした。




