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閉じた環  作者: そら
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第35話  いつかの日

最終回です。

でも、この話しを伏線とした未来編を書きたいなあ、と思っています。

 私は今、東南アジア圏にある島々の一つで暮らしている。


 あの別荘で刑事さん達を殺したあと、そのまま陸路から海路を経て、現在ここで暮らしている。


 とても暑い環境なのに、それを上回る激しい人達が暮らしている島。


 ゲリラ活動、海賊行為が横行する地域。


 本当に現在進行形で遠く見える海の彼方で煙があがっているんだな、これが。




 クロとあの別荘にいた人達は組織の中で「セラフィム」と呼ばれているクロにつぐ地位にいるものたちでこの島に私とクロをおいてそのままどこかにいったままだ。


 実質クロと私の世話をしているのは「ケルビム」と呼ばれる地位に属する人間たちだ。


 ・・・うん、日本人的に残念な人達だとその呼び名一つでわかるよね。


 単一宗教の国で産まれた人間、それも賢く生まれて結局壊れた人間の集まりなだけある呼び名だよ。


 で、想像通りクロを某有名堕天使長の現生の姿だと狂信してる。


 ばっかじゃないの!私は心の中で何度叫んだことか。


 その狂信者たちと、それにあまりに危険すぎる人間達がみずから裏の伝手でやってきたり、組織にはじかれてここにたどりついたりして一つの大きな組織になって今にいたっている。


 クロはあの国に囚われ訓練を受け、個ではなく集団としての戦い方を覚えたらしい。


 そこで同じようにいた人間から信奉されその集団の力であの国から脱出して、活動拠点をここに作っていた。


 その張り巡らした闇の力が盤石となってはじめて私の迎えにやってきたのだという。


 クロは一言も何も言わないで相変わらずワンコ仕様で私のそばから離れないけど、「ケルビム」のゼルエルさんがそう教えてくれた。


 ゼルエルだって、ぷっだよね、どこの病気の方だっつーの。


 え?でも言わないよ、この島にいるうちは、良い子の私でいるって決めた。


 だってこの屋敷の中でさえ物騒極まりないのに、島の中を一歩踏み入れる勇気なんてまだわいてこないもの。


 この宗教かぶれどもより、物騒だけど一人一人それぞれの力を狂気を持て余して、最後にクロの元にきた人達の方がわかりやすいし好きだ。


 この人たちの底抜けに吹っ切れたとこは怖くないもの。


 生きるか死ぬかそれだけだと言う人達は。





 

 しかし思い返してもあいつだけは一度殴っておくべきだったと悔やまれる。


 あの警視庁の星、高橋よ!


 陸路の車から最初クルーザーに乗せられて、セフィラムといった一人が何か遠くを見ているので私も何なんだと振り返って見たの。


 その時あいつが、オーダーメイドのスーツを相も変わらずビシッと着こなし岬の突端にいるのが見えた。


 煙草をくわえ、ゆうゆうとした態度を崩さず私が自分を見ているのを知ると、腰のあたりでヒラヒラと手の平だけを馬鹿にしたかのように振りながら背中を向けて歩み去って行った。


 あんたもグルか、グルなのか!


 この私も考えもしなかった。


 別にいいよ、あんたの殺された部下達なんて私は知らないし関係ない。


 けれど戻った別荘で私と同じ服を着た殺されていた女の子、私そっくりな顔に整形していた女の子に関しては文句を言いたい。


 私の変わりに殺された女の子のしていた指輪に見覚えがばっちりあったから。


 わざと残したんでしょ、あの指輪。


 あんたの仕業だと今よ~くわかった。


 刑事たちはクロがやったけど、あの女の子はあんたがやった。


 どんなうまい言葉を使ったのか知らないけど、あの女の子は例の女子大生だった。


 バイトの時いつも自慢げにつけていた指輪。


 お婆ちゃんからのもらい物だというその指輪は綺麗な石のついている少し古めかしいデザインだった。


 なんで田舎に帰った女子大生がここにいて殺されたのかはわからない。


 でもとても何故かとても悲しかった。


 沢山の死をみてきたけど、皆その人間として死んでいったのに、彼女はちがう。


 高橋の事だ、うまく処理して私は死んだことになるんだろう。


 それでもあの指輪の話しを自慢してた彼女の代わりに、私の身代わり死んだ彼女の代わりに私は今度会ったら高橋にキックをお見舞いすることに決めた。


 パンチもつけて。




 どっちにしろクロは私の近くにくる。


 いずれ居場所をなくすか、あるいは集団ヒステリーで私は危険にさらされていただろう。


 そのために今回の事が計画されたとわかった。


 それはわかっているけれど、死ぬときでさえ自分自身として死ねなかった彼女の為に少しは思ってもいいよね。


 それも高橋は、わざと私の知り合いを探して、なおかつ私にわかるように殺した。


 なんて性格が悪いんだ!


 こんな奴らばかり集まったこの組織、大丈夫なんだろうか?


 私はできればとっととおさらばしたい。



 



 私は窓から見える海上の黒煙が次第に細い灰色の煙になるのを見ていた。


 足元にはのんべんだらりとうつぶせになり、顔を横にして私をみつめるクロがいる。


 しがな1日中私にべったり張り付いて離れないクロ。


 ねえ、あなたは何を考えているの?


 今もあなたの頭の中はめまぐるしく動いているのを私は知ってる。


 あまりの情報速度に対して脳内の処理が激しくて、それに反比例して言葉がとぎれとぎれになる事も知っている。


 それにこうして組織を作っていても、それに重きをおいていないのも知ってる。


 あなたには自信がある。


 ここの人間全てをいざとなったら葬る自信が。


 それでも使いかってがいいからと、こうして組織を作ったんならまだ私は逃げ出せる。


 けれどどこか甘い私を知ってのこの人間達なら、私は逃げ出せなくなる。


 答えは考えたくもないけど、今朝私のあの幼い時の仲間もまたこの組織の一翼をになっているのを知って甘い考えは捨てることにした。


 クロは私にこうして重りをつけたがるくせに、同じように私の周りからだるま落としのように人をはじいていく。


 




 クロに「遊ぼう」と声をかけたのは幼い私。


 ただ、共にいる仲間を助けたいだけの一心だった。


 何のかけひきもなかったその言葉で、確かにその後ともにいた子供らは殺されなかった。


 けれどそのあとそれより大勢の人間が殺されていった。


 クロは私といると幸せそうだ。


 そりゃそうだ、私達二人で殺してきた、クロの中ではそういう事なんだろうから。


 島に住んでいる人間の喧噪が風に乗って聞こえてくる。


 悲鳴や断末魔の声も同じように聞こえてくる。


 まだ私は島の中を歩き出す覚悟ができない。


 島を歩く時は、私が普通の日本人の女の子を止める時になる。


 まだまだ立ち止まっていたいけど、私の足首に顔を寄せ舐めはじめたクロは、そんなじたばたする私もまたお気に召しているみたいだ。


 もう少し、もう少し、せめてあの仲間たちの顔を見るまでは・・・。






 あそこの農場から出すべきじゃなかった。


 私達もこのクロも。


 それだけは私にもわかったこと。


 あの自首をする時クロはどこまで考えていたんだろう。


 願わくばこの島からはクロが出ていきませんように。


 私はいろいろな神様や仏様にお祈りをした。


 やっぱり日本人で良かったとこういう時思う、祈りほうだいだ。




 徐々にその唇や舌で甘噛みしながらその顔の位置を持ち上げるクロ。


 私は太ももに近いあたりでとろけるような目をして見つめるクロに、思い切りげんこつをくらわしてやった。


 しゅんとして上目づかいされても騙されやしない。


 それに驚いたケルビムに属するゾフィエルさんが何か言いたそうだが、私は知らん顔して再び窓に目をやる。


 いつの日か幼いあの時の選択を後悔したように、これからの時を後悔したくない。


 私の足元には沢山の屍がある。


 それは私が選んだもの。





 決めた。


 次回クロが誰かを殺す時に私はその隣で微笑んでいよう、その貢物に微笑んでいよう。


 そうして、それからこの島のすみずみまで2人で歩くことにする。


 理不尽に死に行く者には微笑みこそふさわしい。


 そうに違いない。


 


 


 


 


 




 


 


 

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