二話
任務?もっと説明とかないのか、、、?
「心配しなくても大丈夫!」
上尾さんがいいねの手をしながら話す。
「今日は全然危なくない!患者さんとお話に行くだけだからね」
「患者さんって、どういうことですか?」
「無言に言葉を食べられちゃった人。無言はその人にとって大事な言葉を食べてしまう。そして言葉を食べられた人はその言葉を」
上尾さんは少し間を開けて話す。
「その言葉を忘れてしまうと同時にそれについての記憶もなくなり、認識もできなくなる」
「認識って、どういうことですか?」
「そのままだよ。それが見えなくなるし、干渉もできなくなる」
上尾さんの雰囲気が少し変わったような気がした。
「患者さんとコミュニケーションをとって無言に食べられた言葉を見つけ、無言を殺して、言葉と人とを結び直してあげる。それが結師の仕事だ」
僕は思う。
これは本当のことなのではないか?
夢で柳さんに誘われて、この建物に来て。
これが僕のこれからの人生の分岐点と言えるのではないか?
僕は変われるのではないか?と思ってしまった。
変わりたい。だから、僕は
「結師、ちょっと興味湧きました」
「悠凪さん!ほんとですか?!」
柳さんがこちらに来て嬉しそうに言った。
「本当です!とりあえず、よろしくお願いします!」
僕が礼をすると柳さんも返してくれた。
「じゃあ、早速やなさんと任務行ってもらおうか」
上尾さんが話を進める。
「どこに行けばいいんですか?」
「やなさんについて行けばいいよ!」
とイケメンスマイルで言われたものの、、、
「柳さん、あと何駅先なんですか?」
「うーんとね、このまま終点まで行って、そこで乗り換えて四駅目かな」
柳さんがサラッと言う。
最近あまり外に出ていなかった影響か、体力の無さを痛感する。
電車に乗っていると、あの日のことを思い出してしまう。
頭からそれを無くそうとしてると、柳さんが本を読んでいることに気づいた。
「それ、何の本ですか?」
あ、と読書の邪魔をしてしまったことに気づいた。
「ん?これ?」
と柳さんはこちらを見る。
「これね、徒然なる魔法道具屋ってマンガをノベライズしたやつ」
柳さんが本の表紙の上のカバーを外して僕に見せてくれた。
「これ聞いたことあります!友達が読んでるって言ってたような」
ズキンと何かが痛んだ気がした。いや、気のせいだ。高校時代便所飯とかするほど友達がいなかったわけじゃないし。
「悠凪さんは読んだことないの?」
「すみません、読んだことなくて。帰りにでも買ってみようかな」
「いいねそれ!これ私のおすすめだから、もし読んだらいろいろ話しましょう!」
柳さんがニコニコしながら言った。
そんなことを話していると、電車が終点についたことを駅員のアナウンスが知らせた。
「じゃあ降りて次の電車待とっか」
そのあとは特にめぼしいこともなく目的地の最寄駅に着いた。
「お疲れ様悠凪さん!帰りもこれだから覚悟してね!」
「嘘だと言って欲しいところです」
そういい、ちょっとしたストレッチを終わらせる。
いわゆる田舎といった感じの町で、マンションなど高い建物もなく、奥に山が見える。
住宅街を横目に見ながら柳さんに着いて行くと五分くらいで患者さんの家に着いた。
「よし」
柳さんが気合いを入れ直すとインターホンを押した。
はーい、とインターホンから返事が聞こえた後すぐにドアが開いた。
そこから出てきたのは学ランを着た高校生くらいの男の子だった。
「しるべ君、こんにちは!」
柳さんがその子に挨拶をする。
「こんにちは柳さん!姉は少し具合が悪いようで、、、」
女性のような顔立ちをしているが、がっしりとした骨格だったりその喉から発せられる声からして、やはり男の子のようだ。
「柳さん?その方は?」
彼、しるべ君がこちらの方を向いた。
「こんにちは、悠凪翠と申します。今回は柳さんの同行として来ました。そしてこれを。つまらないものですが」
そう言って僕は駅の売店で買ったお土産用のお菓子をバッグから取り出した。後ろでは柳さんがいつの間に?とでも言いたそうな顔をしていた。
お菓子を差し出すとしるべ君はニコッと笑い言った。
「これはご丁寧に!柳さんもいるしそこまで気にしなくともよかったのに」
そして僕たちは家の中に案内された。
家は三階建てのようで一階には小部屋と手洗い場など、二階にはリビングやキッチン、三階にはしるべ君のお姉さんの部屋などがあるらしい。
二階のリビングに通された後、しるべくんは話し始めた。
「紹介が遅れました。俺は旅咲導と言います。悠凪さん、よろしくお願いします」
お互いに握手をしあう。
「柳さん、今日は姉のお見舞いに来てくださったんですか?」
「まあそんなところだね。風邪?」
「恐らく、違うと思います」
「恐らく?」
柳さんが首を少し傾げる。
「熱もないし、咳もない。けれど本人は頭が痛いとか言って三日前くらいからずっと寝込んでいるんですよ。姉はズル休みとかしないタイプなので本当はストレスを抱えていたのかなあと」
「私もゆくえちゃんがそんなことするわけないとは思うな。会わせてもらったりできる?もちろん、本人がキツそうだったらいいんだけど」
柳さんはうんうんと頷きながら言った。
「柳さんの方からそう言ってくれるなら嬉しいです。きっと柳さんに会ったら少しはよくなると思いますし。では聞いて来ますね」
そう言ってしるべ君は席を立ち、三階の彼のお姉さんの部屋へ向かった。
その間、僕は柳さんにいろいろ聞いてみることにした。
「柳さん、何があったんですか?」
柳さんは少し考えてから話し始めた。
「さっきの子、しるべ君は私の友達のゆくえちゃん、旅咲行方の弟。三日前、ゆくえちゃんは無言に言葉を食べられたらしいの」
なんとなくそうは思っていたけれど、本当だとは。しかし、自分で見たわけでもなさそうなのになぜ言葉を食べられたとわかったんだ?
「なんでそんなことがわかったんだ?とか思ってそうな顔してるね」
柳さんがふふんとしながら言う。そんなこと言ってないでなんでわかったのか早く教えてほしい。
「峰君がそういう言を持ってるんだよ。詳しい説明は峰君から聞いたほうがわかりやすいと思うし、今は省くね。そして、私たちはその食べられた言葉を探し当てる。それが今日の仕事」
説明省くのか。
「そんな難しそうなこと、すぐできるんですか?」
また何か言われないうちに、僕はすぐ疑問を投げかけた。
「そこまで難しくはないかな。その言葉が抜けた穴、っていうのかな、そういうものを見つけられれば結師の人はすぐわかる。ってこれで伝わってるのかな?どう?悠凪さん」
少し考えてみる。
「液体みたいなのを平たく流して心の穴を見つけて、穴に流れた液体を固めてとった型を見ればわかる。って感じですかね?」
柳さんがおーという顔をする。
「そうそう!なんとなくそんな感じ!私も他の人に説明できるようその例えを覚えとこうかな」
柳さんがスマホを取り出してメモをする。
ところで今日僕は何をするのだろうか。患者さんに会う。そして柳さんが言葉があったはずの穴を探して、食べられた言葉を見つける。上尾さんが今日は危なくないとか言ってたし、戦闘はないとすると、、、
あれ、僕ただのお供では?
「柳さん」
三階からしるべくんが降りて来た。
「どうだった?」
柳さんがしるべ君の方に振り向いて聞いた。
「姉さんも会いたいと言ってました!」
しるべ君が嬉しそうに言った。
柳さんも内心ドキドキしてたのだろう、ふーっと小さく安堵の息を吐いた。
「じゃ、行きましょうか」
しるべ君が僕たちに言った。
しるべ君について行って三階へ向かうと、階段から右に曲がってすぐ目の前にしるべ君のお姉さん、ゆくえさんの部屋があった。
「では、俺は一旦ここで」
しるべ君が言った。おそらく、柳さんとゆくえさんとで二人きりにしようという考えのもとだろう。
「そうだね。いろいろありがとう、しるべ君」
柳さんが礼を言う。
「あ、そうだ。悠凪さんも一緒にいてもらってもいいかな?」
柳さんの言葉に、しるべ君がうーんと唸る。
そりゃそうだ。柳さんの付き添いといっても、僕はしるべ君にとってはまだ赤の他人。ゆくえさんの体調不良の原因がストレスだと考えているしるべ君にとって、ゆくえさんに会わせるのは柳さんだけで十分、いや、他の人はいらないとまで思っているかもしれない。
「なんと、悠凪さんはものすごいメンタリストなんだよ!ゆくえちゃんの体調が悪い理由がストレスなのかどうか、すぐに見破っちゃうんだから!」
ものすごい嘘つくなこの人。一応大事な友達の弟さんなんじゃ?
「それ本当ですか柳さん?!」
しるべ君の顔がぱあっと明るくなる。ああ、僕がついた嘘じゃないのに、この顔を見ると心が痛む。
「ならば悠凪さん。姉さんをお願いします!」
ゆくえさんを助けるためとはいえ、この嘘はしるべ君に対してひどくないですか?柳さん。
そしてしるべ君は二階のリビングに戻り、僕と柳さんはゆくえさんと会えることとなった。
コンコンッとドアをノックする音が二人の間に響く。
「ゆくえちゃん、入るよ」
柳さんがまた「よし」と気合を入れてた後ドアを開く。
中は意外と綺麗だった。
しるべ君がお姉さんの世話をしていたのだろう、三日間引きこもっていたと言う割にはゴミが散乱していると言うわけでもなく、着替え用と思われるパジャマが床に置かれている。
部屋は少し広めで、ドアから入って目の前には机、左側にはベッドがあり、クローゼットと思われる扉もあった。
ベッドの上には女性が横たわっていた。
「ゆくえちゃん!」
部屋に入って女性を見つけると同時に、柳さんが女性に駆け寄った。
「久留花、ちゃん」
ゆくえさんと思われる女性は弱々しい声で言った。
ゆくえさんは手入れされていないであろう髪を肩まで伸ばしていて、少しやつれてしまっていた。顔立ちはしるべ君とよく似ていて、姉弟とすぐにわかるほどであった。
「大丈夫ゆくえちゃん?!ご飯とか食べてる?お風呂は?」
柳さんが焦りながら聞く。
「大丈夫、だよ久留花ちゃん。ちょっと疲れちゃってさ」
ゆくえさんが微笑む。
「その人は?」
ゆくえさんがこちらの方を見る。
「悠凪翠といいます。今日は柳さんの同行として来ました」
「こんにちは、翠さん。私は旅咲行方、です。こんな状態で、すみません」
ゆくえさんが弱々しく、ゆっくりと話す。
「ゆくえちゃん、私、ゆくえちゃんを助けに来たの」
柳さんが言う。
「助けに、って?」
ゆくえさんが不思議そうな顔で柳さんの方を見る。しかし、すぐにその迷いは晴れたようだった。
「久留花ちゃん、昔から、なんでもできちゃったもんね」
ゆくえさんがふふっと笑う。
「じゃあ、今日も、助けてもらっていい?久留花ちゃん」
ベッドから起き上がり、柳さんの方を微笑みながら見る。
柳さんはハッとした顔をしてから
「うん!」
と返事をした。
「じゃあゆくえちゃん、そのまま寝ててもらっていい?私が治してあげる!」
柳さんが元の調子でふふんとしながら言う。
「分かった」
ゆくえさんが寝息を立て始めるまで十分もかからなかった。
柳さんが来て、相当安心したのだろう。
「じゃ、言葉探し、始めるよ!」
柳さんがシャツの袖を捲りながら言う。
柳さんが深呼吸をする。そして寝ているゆくえさんに手をかざす。
そして青く光ったと同時に文字、いや言葉がゆくえさんの体から湧き上がり、空中にブワッと吹き出した。
驚くのも束の間、その文字を見ると違和感に気付いた。
「文字化けしてる、、、?」
ところどころ言葉が理解のできない言語になっていることに気づく。
「そう。言葉が食べられたところには穴が開くって言ったよね。その穴から人間はどんどん崩壊を起こしていく。最終的には、何もできない植物人間みたいな感じになっちゃうらしいよ」
結構とんでもないことをサラッと言うなこの人。というか、こんな大事そうなこと上尾さん説明してたかな?まあ、忘れていただけだと思うが。
そんなことを考えているうちに、どんどん言葉が湧き出てくる。
「あっ」
柳さんが言った。
「見つけたんですか?!」
「うん!これは」
突然電話の音が鳴り響く。
それは柳さんのスマホからだった。
二人ともドキドキしながら画面を見る。
そこには上尾峰の文字があった。
柳さんが僕にそのスマホを渡し、出るように促す。
電話に出て、スピーカーのボタンを押すとすぐに大声が鳴り響いた。
「やなさん!悠凪君!まずい!早く逃げてくれ!」
「ど、どうしたの峰君?!そんなに慌てて」
柳さんが驚きながら言う。
「とにかく逃げてくれ!無言がそっちに向かってる!」
え?無言?今日って危なくないんじゃないのか?
「悠凪君ごめん!嘘ついた!僕が見誤った!それ、結構大物案件だったっぽい!二人じゃ無理だ、僕が今すぐ向かうから、とりあえず逃げてくれ!患者さんと一緒に!」
状況を飲み込めないでいると、突然轟音が鳴り響いた。
そして次に僕が見た光景は真っ白な空間だった。




