第201話:フィール山
1時間くらい待つと執務室が光に包まれ、ゲートが開かれ、中からシルヴィアが現れた。
シルヴィアはグレーのノースリーブのサマーニットを着て、黒の長めのスカートを履いていた。
そして黒のストッキングに、靴はピンヒールだった。
グランは話す。
「すごく似合っててとてもきれいだけど、今は夏だから暑くないか?」
「お褒めいただきありがとうございます。実はこれ、服に魔法陣が刻まれていて、冷感作用があります」
「はえー、すごいな帝国は。それでどこに行きたいんだ?」
シルヴィアは壁に貼っていた地図をはがし、指をさす。
そこは帝国にある山のひとつ『フィール山』で、避暑地として有名な場所だとシルヴィアは言った。
そこに自分のプライベートの別荘があり、他にも観光できるところがあるから、そこに行きたいというとグランはわかったと頷く。
「幻零には言わなくていいのか?」
「大丈夫です。出る前に声をかけます」
そしてシルヴィアは執務室の前にいた二人に声をかけ、しばらく出かけると伝えると、二人も承知しましたと返事をした。
グランは執務室でアンサートーカーに座標を固定してもらい、ゲートを開く。
シルヴィアはグランの腕を取り、自身の腕を絡ませて体を預けてきた。
シルヴィアは自身の豊満な体をグランにわざとすりつけるようにしていた。
グランは鋼の意志でそれに耐えていた。
そしてゲートをくぐりシルヴィアの別荘に着くと、大きな屋敷の前に出た。
(さすが皇族、別荘も立派だな。周辺の道も舗装されている)
グランが心の中で思っていると、シルヴィアが入り口の警備に声をかける。
するとシルヴィアの姿を確認した警備は慌てて敬礼をし、シルヴィアたちを通す。
シルヴィアは中に入りましょうと言い、グランと一緒に入った。
中に入ると、使用人たちが一斉にこちらを見てびっくりしていた。
一人のメイドがすぐに走っていく。
しばらくすると老紳士が慌ててシルヴィアの前に立ち、礼をした。
「これはシルヴィア様、突然のご来訪どうなさいましたか?」
「今日は二人で一泊しに来たの。すぐに用意をしてもらえるかしら」
「かしこまりました。少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか」
「ええ、いいわよ。私も事前に通達をしていなかったし、しばらく観光するから、夜にまた戻ります」
「かしこまりました」
そう言って初老の紳士は皆に指示を出すと、使用人たちもすぐに準備に取り掛かる。
グランはそれを見て話す。
「それで、シルヴィアはいろいろ案内してくれるのか?」
「はい、大丈夫です。ここからなら転移を使わずとも観光地には近いので」
「ここは山道だ。さすがにその靴じゃ歩きづらいだろ」
「はい。なので今から履き替えます」
そういうとシルヴィアは収納魔法から歩きやすそうな靴を取り出す。
よく見ると、靴の裏が滑り止めのような凹凸になっており、前世で言うトレッキングシューズのようなものだった。
しかし、グランはシルヴィアが靴を履き替えようとして靴を脱いだ時に、ストッキングのおみ足を見て少し興奮してしまった。
シルヴィアはそれに気づいたのか、スカートを少し上げて、見せつけるように靴を履き替えていた。
グランは目をそらし自身の心を静めた。
靴を履き替えたシルヴィアはグランの腕を取り、一緒に散策をし始めた。
シルヴィアは、この時期は海ではなく山で過ごすのだという。
海は日差しが強く日焼けもするし、海水があまり好みではないとのことだ。
水着は別に嫌いではないが、今までこの体を見て、傾国の魔女と言われていたのがトラウマになっており、人前では肌が露出すような服を着ないとのことだった。
「今着ているその服は袖の部分がないから、肌は結構見えているが大丈夫なのか?」
「それは主様が喜ぶと思いまして、それに見てください」
そう言ってシルヴィアは、腕を上げ手で髪をかき上げ、そのまま頭の後ろに回し、強調するかのように腋と横乳を見せつけてくる。
グランはすぐに目をそらす。
「どうですか?」
「お前、面白がってやっているだろ」
「主様が好きそうなことは、大体わかりましたので」
そう言ってシルヴィアは微笑む。
それを見たアンサートーカーは脳内で煽ってくる。
『マスター、今なら山道から外れ、茂みに連れ込めば、シルヴィア様は大喜びですよ』
(お前は少し自重しろ!)
山道をシルヴィアとゆっくり歩きながら、お互い山の避暑地での過ごし方を話していた。
「俺もたまに山でキャンプとかして楽しんでたな」
「主様は具体的にどういう過ごし方をするのですか?」
グランがそう言うと、シルヴィアは興味津々に尋ねてくる。
「そうだな、一人で行くんだが、そこでバーベキューをしたりするんだ。夜は静かなところで星空を見ていると、世界の広さを感じて、くだらないことで悩んでたことが、馬鹿らしくなってくるんだ。そうやってリフレッシュしていたな」
「とても素敵な過ごし方ですね」
シルヴィアはそう言って褒めると、グランはちょっと照れながら尋ねた。
「シルヴィアはどう過ごしているんだ?」
「主様と概ね一緒です。バーベキューとかはいたしませんが、星を見るのは好きです。あの輝きを見れば自分のすさんだ心が癒されるような気がしますから」
シルヴィアは少し自嘲気味にそう話した。
それを聞いたグランはシルヴィアに話す。
「過去はどうやっても変えられない、だがお前は今は少なくとも変わっているんだ。あまり自分を卑下するな」
そう言うとシルヴィアは目を丸くしてグランを見る。
「それに、やったことは決して許されることではない。ただ、今は自身の過ちを認めて、これからできることをしようとしている。次期皇帝の兄を支えるんだろ?そして自分のような弱者が虐げられないように尽くすと言ったんだ」
グランは言葉を続ける。
「死ぬまでそうすれば、後世の人間がお前を評価するかもしらん。だから、今はやれることをやればいい。また道を外しそうになったら俺が止めるから」
シルヴィアはそれを聞き、こみ上げるようなものを感じ取り、涙目になっていた。
そしてしばらく歩いていると水が流れる音が聞こえてくる。
シルヴィアは気を取り直してグランに話す。
「もうすこしでこの山の名勝地のひとつ、『クレイス滝』につきます」
グランは滝はマイナスイオンがどうのこうのという、前世のうろ覚えの知識を思い返していると、山道から開けたところにでて、その圧巻の景色を見て感動した。
大地がきれいに段差になっており、水がとどまることを知らず流れ落ちる。
前世で言うナイアガラの滝のようなものだった。
「ここは人間と魔族の激しい戦いで地形が変わったことによってできたと言われています」
グランは地形が変わるほどの、激しい戦いだったのかと思うと、脳内のアンサートーカーが話す。
『スキャン完了。勇者と魔王が健在の時に、勇者たちと亜人の四天王の一人「魔龍公アンスバッハ」と死闘を繰り広げたところです』
(四天王か……最終決戦の時にはいなかったのか?)
『ええ、この戦いで勇者たちに敗れ命を落としています』
(そうなのか。ん?ちょっとまて、もしかして俺の蘇生魔法で生き返ったのか?)
『はい、生き返って新惑星にいますね』
(そうか、なら元気で暮らしていればいいな)
『性格は質実剛健で武人の鏡のような人ですね。亜人のために侵略戦争をしていることも少し負い目を感じていたようです。人間の捕虜などは丁重に扱っていたようですよ』
(そうか、そういう人が生き返ったのなら俺も無駄じゃなかったな)
『ええ、おっしゃる通りです。彼が生き返ったことによって亜人たちも統率が取れますし、魔王も助かっているでしょう』
(いつか新惑星に行ってみたいな)
『そうですね』
脳内でアンサートーカーと話を終えると、シルヴィアがこちらを見ているのに気づいた。
そしてシルヴィアがすこし心配そうに声をかける。
「お気に召しませんでしたか?」
「いやとても素晴らしい景色だ。ここに連れてきてくれてありがとう。シルヴィア」
そういわれるとシルヴィアは微笑む。
「よかったです。それでは次にまいりましょう」
そう言ってグランの腕をとると先ほどと比べてさらに密着するように歩き出した。
標高が高いのか、真夏なのに暑さは感じずとても快適だ。
時折吹く風にシルヴィアも心地よさそうにしており、少し髪が乱れていた。
グランはそれを見て無意識に手櫛で髪を梳く。
するとシルヴィアはびっくりしてグランを見る。
グランは慌てて謝る。
「す、すまん。つい癖で……」
「主様は、女性の扱いに慣れているようですね」
シルヴィアは少し意地悪そうに言う。
「まあ、付き合いが多いから……」
グランがそう話すと、シルヴィアは答える。
「とてもうらやましいです」
そう言ってシルヴィアはグランの手を取り、自身の頭に置く。
「もっとしてください主様」
シルヴィアは甘えるような声で言ってくる。
グランは大人のお姉さんの醸し出す雰囲気に負け、言われるがままにシルヴィアの髪を手櫛で梳いた。
シルヴィアはそれをとても気持ちよさそうに受けている。
「とても気持ちよくて、うれしいです」
シルヴィアはそう言うと、グランはそれを聞いて返す。
「まあ、褒美の一つということで」
そう言うと、シルヴィアは嬉しそうに頭を傾けグランにくっつけてきた。
しばらく歩いていると、今度は大きな木が見えてきた。
かなりの大きさである。
「これは、エディウスの神樹と呼ばれています。太古の昔より存在したとされています。樹齢は1000年を超えるようです」
ここまで大きな木は前世でも見たことないので、グランはそびえたつ大樹を見て圧倒された。
アンサートーカーは話す。
『樹齢は1200年くらいですね。先ほどクレイス滝で起こった勇者と四天王の戦いにも運よく巻き込まれていなかったようですね』
(運の良さも含めてご利益がありそうだな)
そう思って、グランは木に向かって拝む。
それを見たシルヴィアは不思議そうな顔をする。
「主様、いったい何をなさっているのです?」
「ああ、こういう長いこと生きている自然のものは、持って生まれた環境やここに根差して生き残っていることも含めて、かなりの運気と生命力を持っていると思っているんだ。だからちょっとでもそのご利益にあずかろうと思って拝んでいた」
シルヴィアはそれを聞いて話す。
「神以外に祈りをささげるなんて初めてお聞きしました」
「俺の故郷では、すべてのものに様々な神が宿っていると言われているんだ」
「それは不思議な話ですね」
「例えばトイレの神様というのもあるんだ」
シルヴィアはそれを聞いて少し微妙な顔をした。
「トイレにも神様がいるのですか?私は神は全知全能で威厳のあるものだと思いますが?」
「それが普通の考えだ。だがトイレはなくてはならないものだろ?トイレの神様は進んでそこの神様になったんだ。だから徳の高い神様なんだ」
グランはそう言う。
しかしアンサートーカーは脳内でグランをおちょくっていた。
『マスター、それ前世で聞いた話をパクったでしょ』
(パクったんじゃない。リスペクトしたんだ。自ら進んで誰もやりたがらない仕事をする。その話と志に感銘を受けたんだ)
『はいはい、そういうことにしておきますね』
アンサートーカーとやり取りをしていると、シルヴィアもグランの真似をして手を合わせ目をつむり拝んでいた。
しばらくすると目を開け手を戻し、グランに微笑みかけ話す。
「今のお話で感銘を受けました。主様はさすがです」
そう言ってシルヴィアはグランに腕を絡ませて、さらに密着して歩き出した。
そして高原などを回り、シルヴィアはグランとの逢瀬を楽しんでいた。
反対にグランは、シルヴィアがここまで好意的にしてくるとは思っていなかった。
当初は魔法契約で縛っているからだと思っていたが、契約を解除するかもと言った時は本気で反対していた。
アンサートーカーにも重度の依存症のようだと茶化されていたが、グランもそうだと思っていた。
この帝国で受けていた数々の仕打ち、おそらく皇族だから表立ってはなかったはずだが、それでも受けた本人がここまで歪んでしまったのだからそれは事実だろう。
グランは、シルヴィアが初めのやらかしでこうなってしまったが、そうでなくてもどこかで躓いていたと思う。
それこそ、セルフィリアの命が脅かされれば自分は動くと思ったからだ。
それが何の因果か、今こうして逢瀬を楽しんでいる。
ただ本人を見ていると本当に楽しそうにしていた。
グランがシルヴィアを見ると、視線に気づいたのかこちらに微笑みかける。
「主様、どうしました?」
「いや、俺とまわって楽しいのかと思っていた」
「とても楽しいです。今までしたことはありませんでしたので」
シルヴィアはそう答える。
グランもそれ以上は何も言わず、シルヴィアと一緒に歩いていた。
日も沈みかけ、グランが暗くなるから別荘に戻ろうと言うと、シルヴィアはそれにうなずく。
そしてそのまま歩いていくと、別荘に到着した。
グランは話す。
「一周したような感じだな」
「はい、私がいつも見て回る観光地のコースだったので」
「効率のいいまわり方だったな。シルヴィアに旅行の段取りを頼んだら完璧にしてくれそうだな」
グランはそう軽口をたたくと、それを聞いたシルヴィアは目を輝かせて話す。
「では、これからは旅行に行く際は、私に必ずお声掛けをしてください。私が完ぺきな段取りを計画しご案内いたします」
そう嬉しそうに話す。
グランはそれを聞いて、どこへ行くにもシルヴィアが必ずついてくるのかと思いながら、別荘の中に入る。
先ほど応対した老齢の紳士や使用人たちがずらりと並び、「お待ちしておりました」と二人を案内する。
そしてシルヴィア様はこちらへ、お連れ様はこちらへと別々に案内しようとすると、シルヴィアが話す。
「同じ部屋にしてもらえないかしら?」
それを聞いた老紳士と使用人は驚愕し、老紳士は話す。
「シルヴィア様、皇族たるものがいかな男性であろうと、それはよくありません」
「この方は私の唯一無二の主です。無礼は許しません」
しかしグランは、シルヴィアがみんなを困らせていることに少し申し訳なく思い口を出す。
「シルヴィア、今日は急に来てみんなが急いで準備してくれたんだ。わがままを言うな」
そう言うと、シルヴィアは焦りだす。
「主様!申し訳ございません」
シルヴィアが土下座しようとしたので、グランは慌てて腕を引っ張り上げ、抱きつくような形で止めた。
その行動にシルヴィアは驚くも、抱きつかれたという今の状況を瞬時に理解し、しばらく堪能した後、使用人たちにそのまま案内してと言い事なきを得た。
そしてグランは老紳士の案内で部屋に到着し中に入る。
皇族の別荘らしく、部屋は豪華で調度品も高級そうなものばかり、ベッドも大きなサイズで寝心地がよさそうな素晴らしい部屋だった。
老紳士は扉を閉めると、少し威厳のある顔になり話しかけてきた。
「あなた様はシルヴィア様とどういった関係でしょうか」




