第28話 可愛いクッションは敷き物としては機能しづらい
「じゃあ部屋を片付けてくるからちょっと待っていてくれ」
「お邪魔しまーす」
「聞いてない!?」
私の部屋だって掃除する前を見られたのだ。ならばこちらも片付け前の広井君の部屋をみてやりたい。
私は広井君の背中にピッタリ張り付くように一緒に上がり込んでいった。
「あれ? お部屋綺麗だよ」
「そ、そうか? 普段からしっかり掃除していてよかった」
ちぇっ、つまらない。
もっと広井君の内面がわかるような散らかり方していると思ったのにな。
「アニメや声優グッズとかもないね」
「そういうのは実家に置いてあるんだ」
「じゃあ今度は広井君の実家の方にお邪魔するね」
「お邪魔するのか!?」
私的にはそっちの方が見たかった。
広井君のご家族に会うのはちょっと緊張するけども。
「(うわー! うわー! ミキティが俺の部屋にいるぅぅ!? 夢!? これって夢か!? 気になる子が自分の部屋にいるってどんなラブコメだ!? ぜ、絶対変な気を起こさないように注意しなければ。もし欲情に負けるような非紳士的な行動をしたら俺は自分の胸を刺す! 台所の包丁で自分を刺す!!)」
広井君の情緒がかなり不安定だ。刺さないでいいからね? 紳士的な考えなのは嬉しいけど自害は止めて。
まぁ、情緒が不安定なのは私も一緒だけど。
「そ、そうだ。今飲み物入れてくるから、これに座ってくつろいでくれ」
「う、うん。ありがとう」
広井君が大きなクッションを渡してくれた。
真っ白でふわふわなお団子のようなクッション。
可愛い小物だ。これに座るのは気が引けるので私はクッションを抱いたままその場に着席をした。
「ミキ——氷室さん。紅茶で良かったか? って、それ敷いて座ってよかったのに」
今、ミキティって言いかけたな?
……いいこと思いついた。
「今、私のことを『未希』って言わなかった?」
「言ってないが?」
「言った」
「言ってないよ?」
「言って」
「言って!?」
名前呼び。
なんて友達っぽいのだろう。
互いを名前で呼び合えればそれはもう友達だよね。私の勝ちだ。
「み……み……」
広井君が顔を真っ赤にしながら名前呼びしてくれようとしている。
その表情が妙にかわいらしくてすごくグッと来た。
がんばれ。もう少しだよ。
「み……みんなでテニス3でもやるか?」
「逃げたぁ」
「い、今ゲーム起動するな。コントローラーもう一つどこだったかな~」
「逃げたぁ~」
広井君の恋愛慎重っぷりはここまで拗らせてしまっているのか。
す、好きな人を名前呼びすることに憧れたりしていないのかな?
「じゃあ広井君、このゲームで私が勝ったらお互いに名前呼びね」
「俺が勝ったら?」
「さあ、勝負だよ!!」
「ずるい……」
このゲームは私もプレイしたことがある。
オンラインでのレートも実は結構高いのだ。
広井君の実力の程は知らないが、私はこのゲームでは負ける気がしない。
「ゲームスタート!」
意気揚々と始めたテニスゲーム。
意外と実力は拮抗している。
……と思ったら突然広井君の眼光が鋭くなり、動きが明らかに変わった。
その真剣な眼光に私は目を奪われてしまい、プレイの集中力が欠けてしまった。
5分後には両手を付いてガッカリと項垂れる私の姿があった。
「実は俺このゲームのレート最上位のトップランカーで」
「そういうの先に言って!?」
結局私は何度再選しても彼には勝てず、互いに名前呼びするというささやかな計画も失敗に終わってしまうのであった。




