第15章 市場での人気と庶民の支持
王都の市場は、今日も活気にあふれていた。
商人たちの呼び声が響き、通りには焼き立てのパンの香りや、干した魚の匂いが混じり合って漂っている。美月はリナとカイを連れて市場の一角に立ち、小さな屋台を出していた。
今日の献立は「焼きおにぎり」と「野菜たっぷりスープ」。
焼きおにぎりは、米を丁寧に炊き上げて握り、特製の味噌だれを塗って香ばしく焼いたもの。炭火の上でじゅうっと音を立てると、たちまち香りが辺りに広がった。
スープは鶏ガラと野菜をじっくり煮込んだもので、透明なスープの表面には黄金色の油が小さく光っている。塩と胡椒で仕上げ、仕上げに刻んだ香草を散らした。
「わぁ……いい匂い!」
子どもたちが鼻をひくひくさせて集まってくる。
美月は笑って「はい、どうぞ」と器を渡した。子どもは焼きおにぎりをかじり、口いっぱいに頬張って目を丸くする。
「おいしい! 香ばしいし、中までふわふわだ!」
その声に、周りの大人たちもざわめきはじめた。買い物に来ていた主婦たちや労働者たちが足を止め、次々に列を作りはじめる。
リナは慌てておにぎりを握り、カイはスープを配膳する役に回った。
「美月、行列がすごいことになってるぞ!」
「だ、大丈夫。炊いたお米はたっぷりあるから……!」
次々に売れていく焼きおにぎりとスープ。
美月の頭の中には「もっとこうしたら美味しくなる」というアイデアが次々と湧き上がる。味噌だれに少しだけ蜂蜜を混ぜ、甘みを足す。香ばしい焦げ目に、ほのかな甘さが重なって絶妙な味わいになった。
それを食べた客がまた声を上げる。
「これは……ただの米じゃないぞ! 酒場の肉料理より満足感がある!」
「スープも体が温まる……疲れが取れていくみたいだ」
市場の人々の評判は瞬く間に広がった。庶民の間で「美月の屋台」の噂が広がり、昼を過ぎるころには近隣の職人や冒険者まで集まってきた。
ある冒険者が、焼きおにぎりを頬張りながら感心したように言う。
「これ、遠征の時に持っていけるんじゃないか? 冷めても美味いし、腹持ちもいい」
別の冒険者が頷く。
「依頼帰りに食ったら、疲れが吹き飛ぶぞ。……おい、次の仕事の前にもここに寄ろうぜ」
庶民の支持が冒険者へと広がり、さらにその噂は貴族や商人の耳にも届きはじめていた。
◇
夕暮れ。売り切れた屋台を片付けながら、美月は額の汗を拭った。
リナはまだ名残惜しそうに炭火を見つめている。
「すごかったね、お姉ちゃん! あんなに行列ができるなんて……!」
「ほんと、びっくりした。でも……みんなが笑顔になってくれるのは嬉しいよ」
美月がそう答えると、横でカイが腕を組み、少し真剣な顔をした。
「嬉しいのはわかるが……目立ちすぎるのは危険だ」
「危険……?」
「庶民に人気が出るのはいい。だがな、美月。世の中にはその人気を妬む奴もいるし、利用しようとする奴もいる。今日の様子を見ていた連中の中には、ただ食事を楽しんでいたわけじゃない者もいたはずだ」
カイの言葉に、美月はハッとした。
確かに、途中で上品な服を着た男が、遠くから屋台を眺めていた。買うこともなく、ただ鋭い目で。
その視線に、無意識に背筋が冷えた感覚を思い出す。
「……わたし、ただみんなに喜んでもらえたらって思ってた」
「それは間違ってないさ」カイは柔らかく笑った。「だが、この世界は甘くない。特に貴族や商人が絡むと、食い物の流行すら権力の道具になる」
リナが不安そうに美月の袖をつかむ。
「お姉ちゃん……もう料理しないほうがいいの?」
「そんなことない!」美月は即座に首を振った。「料理をやめたりなんかしないよ。だって、それがわたしの生きる理由だから」
強い言葉に、リナは安心したように微笑んだ。
カイはそんな二人を見て、静かに息をついた。
「……なら覚悟を決めろ、美月。人気が広がれば、必ず試される時が来る」
その言葉は、夕暮れの市場に沈む夕日とともに胸に響いた。
庶民からの支持を得た美月たちは、次の大きな転機へと歩み出そうとしていた。




