第13章 料理屋での修行体験
町リオネールに滞在して数日。
ギルドや宿で料理を振る舞った噂は、あっという間に広がった。
そんなある日のこと。
ギルドでの依頼帰りに、美月たちは町の大通りで声をかけられた。
「あなたが――例の『黒棘狼を食べさせた娘さん』ですか?」
振り返ると、立派な白い帽子をかぶった壮年の男性が立っていた。
背筋をぴんと伸ばし、瞳は鋭いがどこか温かみを帯びている。
「私は料理屋《銀匙亭》の店主、バルドと申します。ぜひ一度、私の店で腕を振るってみませんか」
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こうして美月は、仲間と共に《銀匙亭》を訪れることになった。
店内は広く、昼前だというのに多くの客で賑わっている。
厨房からは香ばしい匂いと、忙しげな鍋の音が響いていた。
「すごい……前世で通っていたレストランみたい」
美月は思わず息を呑む。
バルドは笑みを浮かべた。
「ここでは王都直送の食材も扱っている。あなたの料理が本物なら、必ず客を唸らせられるはずだ」
そうして、彼女の「修行体験」が始まった。
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最初に任されたのは下ごしらえ。
野菜を切り、肉を下味に漬け、スープのベースを仕込む。
厨房の料理人たちは最初、半信半疑の目を向けていた。
しかし、美月の手際を見て次第にざわめきが広がっていく。
「野菜の切り方が……見事に揃ってる」
「肉の筋をこんなに丁寧に……」
美月は前世の料理経験を活かし、無駄のない動きで次々と作業をこなしていった。
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そして迎えた昼の営業。
バルドは試練のように美月へ一皿を任せた。
「今日のおすすめ料理――『森鹿の香草グリル』を作ってみなさい」
美月は深呼吸し、手を動かし始める。
森鹿の肉を塩と胡椒で揉み、にんにくと香草をすり込む。
炭火でじっくり焼き、脂を落としながら香りを引き出す。
付け合わせは野菜のソテー。
仕上げにレモン果汁を絞ると、爽やかな酸味が全体を引き締めた。
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料理が運ばれると、客席から歓声が上がった。
「なにこれ……柔らかい!」
「香ばしいのにくどくない!」
「付け合わせの野菜が甘い!」
瞬く間に評判が広がり、次々と注文が入った。
美月は厨房で慌ただしくも楽しげに手を動かす。
リナは客席からその様子を見守り、目を輝かせていた。
「お姉ちゃん、すごい! 本当に料理人さんみたい!」
カイも腕を組み、満足げに頷く。
「……冒険だけでなく、料理でも人を笑顔にできる。あんたの力は本物だ」
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営業が終わった後。
厨房には香ばしい余韻と、充実感に包まれた静けさが残った。
バルドが深く頷き、美月に声をかける。
「見事だ。料理に対する真摯な姿勢……そして人を喜ばせる心。君には料理人としての素質がある」
「ありがとうございます……でも私は、冒険をしながら旅を続けたいんです」
美月は迷いなく答えた。
その目を見て、バルドは微笑む。
「ならば旅の中で、多くの食材と人に出会い、さらに腕を磨きなさい。《銀匙亭》はいつでも君を歓迎するよ」
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その夜。
三人は宿に戻り、手作りの軽い夕食を囲んでいた。
「お姉ちゃん、今日は本当にかっこよかった! お店の人たちも驚いてたね!」
リナはパンをかじりながら無邪気に笑う。
「料理屋で働くなんて初めての体験だったけど……すごく勉強になったよ」
美月はしみじみと呟いた。
カイはパンをちぎりながら、真剣な声で言う。
「今日のあんたを見て確信した。美月は俺たちの冒険の心臓だ。剣や魔法でなく、料理で皆を支えている」
その言葉に、美月の胸はじんと熱くなった。
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窓の外には星が瞬いていた。
彼女は静かに心に誓う。
――前世で守れなかった「家族」。
今度こそ、仲間を守り、笑顔にし続けたい。
そのために、私は料理を作る。どこにいても、誰といても。
こうして美月の旅は、また一歩確かなものとなっていった。




