12.授業2
「えっと、手から何かの液体がさらーって流れている感じです!」
「なるほど。それがあぁ、そのイメージが原因っぽいですね。魔法というのは、擬音でいえばさらー、よりもどーんという感じです」
「あぁ!さらーよりどーんですね!分かりました!」
たまたまそばに居たフローラからしたら、2人の会話は意味不明であった。以前のダッドリー夫人はジェラルドにまともな日本語で教えていたはずだ。傍から聞いて分かりやすい説明もできるのに、シャーロットに合わせて擬音をふんだんに使った言葉で話してくれたのだろうとフローラは考える。
しかし、そんなダッドリーの優れた教育能力による工夫だとシャーロットはまだ気づいていなかった。
そして、魔法を使っては問題点を指摘されるというのを何度も繰り返し、月が昇ってきた頃。
全ての授業を受け終えたシャーロットはスカートをつまみ、貴族らしい丁寧なお辞儀で挨拶をした。
「今日はありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。夕飯までいただかせてもらってすみません」
同じように貴族の礼で返される。
今回ダッドリー夫人に授業をお願いしたのは、もちろんジェラルドを教えていた経歴のも一つの理由ではあるのだが、シャーロットに貴族の繋がりをもたせる目的もあったのだ。
挨拶を終えるとダッドリー夫人は帰り、しばらくしてライト家は皆寝静まった。
───ただ1人を除いて。
その人物は、本に囲まれながら興味津々といった様子で分厚い本を何冊も読み漁っていた。
「へぇー!塩と炎魔法で黄色の炎が作れるのね!今度やってみましょう!他にも炎に色がつけれる方法はあるのかしら?」
なぜこんなことになっているのか。それはとある一言から始まった。
□■□
シャーロットはダッドリー夫人との挨拶の後、自室のベットに寝転がるとため息をついた。
「はぁ、疲れた」
数時間続けての授業だったためかなり疲れてしまった。今日学んだ内容を脳内で振り返っていると、ふと気付く。
(あれ…?今週で魔法をある程度できるようになろうと思っまだ、練習足りてなくないかしら?よく考えたら勉強でも予習・復習は必須よね?これで練習終了だなんて考えが甘いのかもしれないわ!よし、今日は後で書斎に行きましょ!)
普通の人なら、朝6時から夜9時まで集中を切らすことなく授業を受けたのだから、倒れてもおかしくない程である。それを『疲れた』の一言で済まし、更に練習しようというなど、もはや狂気の沙汰だったが、それを突っ込む人はここにはいなかった。
というわけで、時々一人でほぅほぅ、へーとかなんとか言いつつ本を読み進めた。
周りの本を全て読み終えて、次の本を取ろうと立ち上がり、ふと壁掛けの時計が目に入る。
一瞬自分の目を疑った。短針がⅠの文字を指していたのだ。
(1時!?もうそんな時間!?あ、けど確かに7冊読んでるものね、そんなものだわ。あら、昼間より読むスピード上がってるのではないかしら?…ってそんなこと考えてる暇ないわ!)
頭の中はごちゃごちゃである。
シャーロットは足音を立てないよう注意しつつ、自室まで猛ダッシュして寝た。
翌日、もちろんシャーロットは寝坊した。