10.練習開始
「…ロット、シャーロット?」
「…あっ、はい!」
はっと気づくと兄が目の前で手をパタパタと振っていた。少しぼぉっとしていたようである。
会話中に上の空になるのはシャーロットの悪い癖だ。
「…確かに、あの2人にバレた時は最悪体罰じゃ済みませんね」
「あぁ…じゃ、じゃあ!騎士の寮に入るのは?そこの森を奥まで突き抜けたところですよね?それならあの人らに呼び出されてもすぐに行けますし、顔を合わせてぶたれることも無いですし!」
「良い案なんだが、他人と共にいる時間は長くなる。周りに偽名ってボロ出さないか?」
一瞬、兄の言葉に納得しかけるも、そんなことすらできなければオールマイティにはなれる訳ないと自分を奮い立たせて宣言した。
「…いえ、できます、やって見せます!何せ私はオールマイティになる女ですもの!」
□■□
極小会議が終わると、夜は深く、二人は部屋を出ていった。
話し合いの結果、
一. 偽名を使って聖女と騎士の2つの顔を使い分ける
二. 騎士の寮に住む
三. 14歳になったら騎士と聖女としての活動を始める
四. 試験では魔術師部門と剣騎士部門どちらも受ける
という4つが決まった。シャーロットの希望を最大限通してくれた上での結果で、二人には本当に感謝しかない。
魔法と聖魔法、剣術の稽古は明日から早速始める予定である。
(楽しみだな…)
シャーロットは明日からの期待に胸を膨らませながら、ゆっくりと瞼を閉じた。
…そのあと、遠足前の子供のようにしばらく眠れなかったのはご愛嬌。
翌朝。シャーロットはダッドリー伯爵夫人と向き合っていた。
ダッドリー伯爵夫人は、ジェラルドの魔法の師であり、今回もシャーロットの指導をお願いしたのだ。
…しかし、この短い時間で呼んでしまうあたり、うちのメイドは本当に優秀である。ちなみに、ダッドリー夫人は先代筆頭聖女であるため、聖魔法についても教えてくれるらしい。
ダッドリー夫人は、経験の差を感じる低くなった声でシャーロットに授業を始めた。
「いいですか、シャーロット。魔法を使うのに大切なのは、イメージ、魔力、知識の3つです。あなたにはこれらをこの1週間である程度習得して貰います」
「はい!」
───シャーロットは後から知ることになる。普通の10歳の子供ならそれぞれを習得するまでに、合わせて3ヶ月はかかるということを。全く以って、無知とは罪である。
ダッドリー自身も、これは予定より早く習得させるための算段であり、実際にこれをスケジュールとして進める気はさらさらなかった。
「午前は知識を、午後は実践の形でイメージと魔力を習得していきます」
ダッドリー伯爵夫人は比較的シャーロットより立場は上なのに丁寧に話してくれている。流石というべきか話し方もしかり、堂々とした立ち振舞いなどの実力派貴族としての姿そのもので、シャーロットにはとても好ましく映った。
こうして、まず魔法学の授業が始まった。
読んでくださりありがとうございます、月ヶ瀬です!
急で申し訳ないのですが、執筆が追いついていないため、投稿を一日おきに変えようと思います。
できるだけ速く執筆するよう日々精進していきます…!
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