流れ星が見たい! 〜考えて、作って、願い事をする〜
「流れ星が見たい!」
ある日、優花がそんなことを言い出した。
「急にどうしたの?」
太郎が聞き返す。
「流れ星、見付けるの、大変。夜は、寒いし、暗い」
樹が意見を言う。
「それでも見たいの! 流れ星を見付けて、お願い事をするの」
優花が重ねて主張した。
太郎と優花と樹は、同じクラスの仲良しグループだ。
学校の中でも外でもいっしょに行動する三人組は、優花がリーダーになって物事を進めることが多い。
だから、優花が『流れ星が見たい』と言えば、それは、流れ星を見る方法を三人で考えよう、ということになる。
「『なんとか流星群』って、ニュースとかでやってたよね。あれを見ればいいんじゃない?」
太郎が提案した。
「流星群、終わった。極大日が、確か一週間くらい前だった」
「うん、それは知ってる。だから二人に相談してるの」
樹が発言し、優花がそれに応えた。
そういうことなら、流星群が終わる前に計画を立てるべきだったのではないか。
太郎はそう思ったが、口には出さなかった。
「じゃあ、次の流星群まで待てばいいんじゃない?」
代わりにそう提案した。
太郎としては、とても頭のいいことを言ったつもりだったが、他の二人は、そうは思わなかったようだ。
「何言ってるの。そんなの待ちたくないから相談してるのに」
「次の流星群、ずっと先。願い事、忘れそう」
樹がさらりと失礼なことを言ったが、優花が気付く様子はなかった。
「うーん、それじゃあ、どうしようもないよ」
流れ星を見るには、流星群に合わせて夜空を見上げるのが一番だ。
そうでなければ、いつ現れるとも分からない流れ星を一晩中待ち続けるしかない。
「そこをなんとかしたいの。だから、何かいい考えがないか、聞いてるってわけ」
そう言われても、太郎は他に何も思い付かなかった。
すると今度は樹が口を開く。
「本物じゃなくてもいいなら、ある。あ、でも、だめかも」
そこまで言って、口ごもってしまった。
「何よ。言いなさい」
優花が続きをうながす。
樹は、少しの間、口をもぐもぐとさせていたが、やがて、のろのろと続ける。
「うちにVRの機械がある。プラネタリウムのアプリで、流れ星が見られるかも知れない」
*
三人は樹の家までやってきた。
「へー、これがVRゴーグルかー」
優花が、なんだかごてごてとした機械を手にしている。
分厚い箱の形をした本体と、その本体を顔に固定するためのベルト。
「VRヘッドセット」
樹が少しばかり不満そうに言う。
「何がちがうの?」
太郎が質問する。
「商品名がちがう」
「どっちでもいいよ、そんなの。どっちでも同じでしょ」
優花は、早く機械を使ってみたくて、うずうずしている。
「それより、これ、どうするの? どうやって使うの?」
この機械を使うと、立体的な映像が見られる。
だが、機械が手元にあっても、使い方が分からなければ、どうしようもない。
電源の入れ方すら分からないのだ。
「説明書がある。使う前に、設定する」
樹が、そう言って、優花から機械を受け取る。
「早くしてよ」
たった今、樹が設定を始めたばかりなのに、もうそんなことを言う。
樹は、しばらくの間、無言で機械を操作していたが、やがて顔を上げる。
「やっぱりだめだった。使えない」
じりじりとしながら待っていた優花は、まさか、ここまで来てそんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。
「なんで! どうして使えないの?」
大きな声を上げた。
「登録されたユーザーしか使えない。十三さい以上でないと登録できない」
そんなことがあるものだろうか。
だが、樹にこう言われてしまうと、優花にも太郎にも打つ手がない。
本物ではないにしろ、流れ星が見られるかと思ったが、話がふり出しにもどってしまった。
*
「もう、全然だめね」
優花が言った。
「でも、やっぱり流れ星が見たいの。なんとかならない?」
太郎は考えた。
最初は、多分、本物の流れ星が見たい、という話だった。
それが無理と分かって、本物でなくてもいい、ということになった。
本物ではない、作り物でもいいのであれば、できることがありそうだ。
「プラネタリウムは? 確か、樹のお父さんが小さいのを買ってきたとか、聞いた気がするけど」
樹の父は新し物好きで、色々な物を買ってくる。太郎も優花も樹から聞いて知っていた。
「あれは、もう、ない。じゃまって言われて、フリマアプリで売られた」
言ったのも売ったのも、樹の母だろう。部屋がせまくなるとか、なんとか。
「そっか。じゃあだめか」
「全然だめね。大体、プラネタリウムで流れ星って見えるの? 星座とかの星しか見えないんじゃないの?」
それはそうかも知れないが、言い方というものがあるだろう。
「うん、だからさ、流れ星はさ、自分たちで作ればいいんだよ。厚紙に穴を空けて……」
そこまで言ったところで、太郎は気が付いた。
これで流れ星が見られるじゃないか。
*
プラネタリウムを手作りする。流れ星も。
太郎と優花は、一度、それぞれの家に帰ることにした。工作に使えそうな厚紙を探すのだ。
樹の家にある分だけでも足りそうだったが、念のためだ。
何枚か集めて、樹の家までもどってくると、樹は、もう作業を始めていた。
「これが一等星。これが二等星……」
まずは背景となる夜空を紙の上に再現する。
樹は、リアルな星空を作りたかったのか、穴の大きさにこだわっていたが、それではいつまでたっても終わらない。
太郎と優花が説得して、最初に作るのは試作品、ということになった。
穴の位置も大きさも適当だ。
「こんな感じかな」
「いいと思うけど。星空の方はどうでもいいよ」
「試作品だから、これでいい」
それなりに穴だらけになったので、ちゃんと映るかどうか、ためしてみる。
カーテンを引いて、部屋を暗くする。LEDライトで紙の下から照らす。
見上げれば、そこに広がるのは満天の星————
「一応、映ったけど……」
「本物とは全然ちがうけど、いいじゃない。大事なのは流れ星だから」
「改良したい」
三者三様に感想を言い合う。
そして、流れ星だが、こちらはずっと簡単だ。
厚紙に穴が一つ。LEDライトをもう一本使って、適当に動かしてみる。
「流れ星、なのかな……」
「動きが速い! もっとゆっくり!」
「流れ星じゃない」
優花の注文を聞いて、太郎が動かす。
ふっ、と動かしてから、ライトを消してみたりする。
「まだ速い! 今! そこで止めて、動かさないで!」
それはもう流れ星ではないだろう。
太郎はそう思ったが、優花は気にするどころか、何やらむにゃむにゃと願い事を唱え始めた。
「やった! お願い事が言えた。二人とも、ありがとう」
優花にしてはめずらしく、お礼の言葉まで飛び出した。
「何をお願いしたの?」
太郎が優花に質問する。
「知りたい? それはねー……」
よほどうれしかったのか、優花らしくない、もったいぶった話し方だ。
「……秘密」
なんだそれ。
それで終わりだった。
優花の願い事については、これで全部だ。
ただ、この話には続きがあって————
「プラネタリウム、改良する」
それから何日もの間、太郎と優花は、樹のプラネタリウム作りを手伝わされたのだった。
市販の家庭用プラネタリウムには、演出として、流れ星が映る機種もあります。
プラネタリウムを手作りする場合の材料としては、画用紙やアルミホイルを使うことが多いようです。