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5:王都へ

 俺の知る勇者・ラザフォードも同じような感覚だったのだろうか。

 遊び人だったころの俺は、ラザフォードの動きなんて全然見えてなかった。

 いつも、すげえ、とか、格好良い、とか漠然と思っていただけだ。

 どれだけ修行をすればあそこまで強くなれるのか、なんて考えたこともあった。

 けど、勇者ってのは、体が勝手に動いてくれるんだな。

 細かいことを考えずに敵を倒すには便利だ。けれど……。


「……」


 力の使い方を、間違えないようにしないとな。今の俺が思えるのは、これくらいだ。

 剣を鞘に収めて、馬車に戻る。ロスヴィータの奴、ふくれっ面でにらんできやがる。

 と、そこで俺は、ロスヴィータの頭上に気が付いた。

 『ロスヴィータ・Lv99・賢者』 なんでこいつまで名札出してるんだ? しかも、半透明の板みたいなのに書いてある。

 俺は首傾げた。こんな名札、初めて見たぞ。

 商人のおっちゃんはどうだろう?

 おっちゃんは律儀で、馬車の影に隠れてはいたけれど逃げ出してはいなかった。


「大丈夫か? おっちゃん」


 声をかけて、おっちゃんの頭の上を見る。

 やっぱりあった。『アンガス・Lv8・商人』 ロスヴィータと同じように、半透明の板がある。

 ……俺は目頭を押さえて、目を閉じた。幻覚か? まあいい。今は名前を気にしている場合じゃない。

 おっちゃんは震えていた。魔物、になるのか? バグみたいな化け物を見たら、普通はそうなるよな。

 遊び人の頃は……、っていやいや。あまり昔ばっかり思いだしてても仕方ない。少しは前向きにいかないと。

 おっちゃんは震えてたけど、俺のことを見ると、ほっとしてくれたみたいだ。


「ま、魔物はもういないのかい?」

「ああ、全部倒したよ。変な気配は無いし、もう大丈夫だと思う」

「そうか……」


 大きな深呼吸をして、おっちゃんは俺に手を向けてきた。俺は握手を返す。


「ありがとう。まさか、こんなところに魔物が出てくるとは思ってもいなかったよ。君がいてくれて助かった」

「いいってことよ。運賃代わりにはなったろう?」

「はは、そうだね。むしろ、こちらが報酬を出さなければなさそうだ」


 おっちゃんは笑って、両手で握手してくれた。

 まあ、俺の戦いで、誰かが助かるならそれでいいか。今は、そう考えよう。


「ところで、君の剣なんだが……」

「うん?」


 おっちゃんが俺の剣を見て、首を傾げた。


「かなりの業物のようだけど、どこの作だい? 僕も長い事商人をやっているけど、見たことがないくらいに綺麗だった」


 う、答えづらいところを突いてくるな。


「もしかして、聖剣かい? 君ほどの使い手なら、それもおかしくはなさそうだ」

「あー、いや、これは……」


 ……そうだ、これは俺の剣じゃない。今はただ借りているだけさ。


「元の持ち主から、ちょっと預かっててね」

「そうなのか。もしよければ売って欲しいと思ったのだけど」

「ごめんな、おっちゃん。これは売れねえ。持ち主に返すって、決めてるんだ」


 そう、全てが終わったら、ラザフォードに返さないと。

 おっちゃんは未練がありそうだったけど、それからは剣に関して何も言ってこなかった。

 また俺は荷台で、ロスヴィータと一緒に揺られる。

 ロスヴィータは、戦いが終わってからはまた無口になった。時折こちらを見ているようだけど、俺を魔法に巻き込めなくて残念だった、とかか?


「貴様……」


 ぼーっと空を見上げていたら、やっとロスヴィータが口を開いた。


「貴様、その剣は勇者のもの、だな?」

「……ああ、そうだよ」

「それがなぜ貴様に使える。貴様はただの遊び人だろうが」

「さっき話したろ。勇者になっちまったんだよ、俺は」


 何度説明しても信じなかったのに、やっぱり勇者の剣を見たら気づいてしまうんだな。


「もし、貴様の話が本当ならば、我はもう魔王ではなく、ただの小娘でしかないということか」

「一応、賢者らしいぞ。魔法が得意そうだからって、賢者にするって言ってたからな」

「魔法か。ふん、どうだかな」

「どうした?」


 ロスヴィータが薄く笑った。自分の手を見て。


「あれが魔法などと言えるものか。以前の力の半分も出せなんだわ。それでいて、魔力をかなり持っていかれた。忌々しいにもほどがある……」


 そうか、魔王の時は、とんでもない魔法を使っていたよな。さっきのが魔王の全力魔法だったら、俺どころかここら辺一帯が消えていただろう。


「しかも、体が元に戻らぬ。このような姿でいろというのは、酷く屈辱だ」

「元の体って、どんなだったんだよ」

「人間ならば、いや、高位の魔族であってもすぐさまひれ伏したものだ。どんな美辞麗句を持っても我の姿を表すには足りん」


 そんなに言うのか。俺が見た時はもうこの女の子の姿だったからな。想像もつかない。


「誇りを失い、力を失い……。まったく、その神とやらは、よほどの愚か者らしい」


 同感だ。手違い、とか言って俺の仲間を殺したんだ。ふざけてやがる。

 ん? でも、待てよ?


「もしかしたら、お前、魔王に戻れるかもな」

「なんだと!?」


 俺の呟きに、ロスヴィータは大声で反応した。おっちゃんが、何事かと振り向いた。


「あ、ごめん、おっちゃん。なんでもない、なんでも」


 愛想笑いで誤魔化して、ロスヴィータの肩を掴む。


「おい、大声を出すな」

「わかっ、いたっ。力を込めるな。今の我では貴様の力には勝てぬ」

「あ、ああ、ごめん」


 自分では気づかなかったけれど、思いのほか力が入っていたようだ。確かに、女の子の肩を掴むならもっと優しくしないと、っていやいや。

 相手は魔王だ。元、ではあるけれど。

 でもそう、元、ならば可能性はある。


「俺とお前が世界を救って、バグを無くせばカミサマは元の世界に戻すって言ってた。元の世界に戻れば、俺は遊び人に戻れるし、お前もまた魔王になるはずだ」

「本当か?」

「俺には本当かどうかは分からねえよ。でも、あのおっさんの話を信じるなら、全部元通りになるはずだ」


 そうであってくれないと、俺が戦う意味が無い。

 ロスヴィータは疑うような視線を向けていたが、やがて、


「よかろう。貴様の話を、今は信じてやる。バグだかなんだか知らぬが、先ほどの化け物は我にとっても敵だ。あれを倒すことで我が元に戻れるならば、力を貸してやる」


 ロスヴィータとしては、信じるしかないだろうけどな。例えカミサマの話が嘘だったとしても、ロスヴィータからしたら、他に魔王に戻れる方法がないだろう。

 なんせ、今はもう人間になってしまった。どれだけ主張しても、魔族だとは誰一人思わない。どれだけ叫んでも、ただの妄想少女にしかならない。

 ……ある意味、こいつも被害者だしな。


「剣士さん、王都が見えてきたよ!」


 おっちゃんの声に振り向くと、遠くにでっかい城が見えた。

 俺の記憶が確かなら、あれは王城。二重の城壁に囲まれているのが、王都だ。


「あれが人間のみやこという奴か。ふん、ずいぶんと小さいな」

「魔王感覚で言うなよ。あれでも人間の街の中じゃ最高にデカいんだから……」


 俺はロスヴィータに突っ込みつつ、王都に着いてからどうするかを考えた。

 おっちゃん曰く、今は勇者も魔王もいない世界らしい。そうなると、俺とロスヴィータはバグを倒すだけの旅をすればいい。

 バグがどこにいるかは、探さないといけないだろうな。ただ、あの奇妙な出方、脅威ならすぐに噂で流れてくるはずだ。

 となれば、情報の集まりやすい王都にいるのがいいだろう。冒険者ギルドもあるし、依頼として挙がってくるかもしれない。

 門が近づいてきた。これをくぐれば、やっと王都だ。

 門前には渋滞ができていた。どれもこれも、商人の馬車だ。大きさの差はあるけれど、ずいぶんと集まってるな。


「ずいぶんと混んでるなあ。何かあったのか、おっちゃん?」

「いや、いつもこんなものだよ。魔王がいなくなってからは商業がますます盛んになったからね。王都なら当然さ」


 そんなものなのか。俺は商売知識はからっきしだからな。道具の補充なんかは、仲間の賢者・ローレンスに任せてばっかりだった。

 懐かしいな、あの生真面目な顔。俺でも笑わせるのが一番大変だった奴だ。最後に笑わせたのは、どんなジョークだったかな……。


「おい、そこのお前」


 っと、思い出を懐かしんでたら、兵士に声をかけられた。

 『アレック・Lv11・兵士』 また名札だ。目を凝らすと、周りにいた人たちは全員名札があった。重なりすぎてて全然読めないけど。

 いったいなんなんだ、これは。

 おっと、気にはなるけど、今はおいとこう。

 事前の検査か何かか? おっちゃんの荷物を調べにきたんだろうか。

 俺は馬車から降りて、兵士に場所を譲ろうとした。だけど、兵士は荷物じゃなくて俺を見ていた。


「俺が、どうかしたのか?」


 兵士の目は険しい。俺をにらみつけてくる。


「少し待っていろ。動くなよ!」

「あ、ああ」


 いったいどうしたっていうんだろう? 俺には咎められる心当たりなんてないぞ。

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