第十九話
笑いの神、空の裂け目より生まる
――世界がまだ“笑い”を知らなかった頃の物語
世界に“笑い”がなかった時代、福神が生まれるより前、
世界には海も大地も雷も水も星も老いもあった。
しかし――
笑いだけがなかった。
人々は生きるために必死で、
泣き、怒り、耐え、祈り、願った。
だが笑うことを知らなかった。そのため、世界には“重さ”が満ちていた。
天界の神々は嘆いた。
「世界は重すぎる。心が折れてしまう。」そのとき、
空に“裂け目”が走った。
空の裂け目から落ちた“ひとつの音”裂け目から落ちてきたのは
――笑い声 だった。
それは赤子のように無邪気で、
風のように軽く、
雷のように響き、
水のように澄み、
大地のように温かく、
星のように輝き、
老いのように深かった。
笑い声は地上に落ち、ひとつの“袋”となった。袋は膨らみ、
揺れ、弾み、そして――ひとりの男が飛び出した。
布袋尊、誕生、男は大きな袋を背負い、丸い腹を揺らし、
満面の笑みを浮かべていた。
目は月のように細く声は太鼓のように響き歩けば大地が喜び笑えば空が晴れた男は最初の言葉を叫んだ。
「ハハハハハッ!なんと素晴らしい世界だ!」
その瞬間、
世界の重さが少しだけ軽くなった。男は自分の名を知っていた。
布袋尊
――笑いと寛容の神。
布袋尊の“袋”の秘密布袋尊の背負う袋には、
不思議な力が宿っていた。
悲しみを入れれば、笑いに変わり怒りを入れれば、
優しさに変わり孤独を入れれば、温もりに変わり絶望を入れれば、
希望に変わる布袋尊は言った。
「袋とは、心の器だ。入れたものが変わるのは、
心が変わるからだ。」人々は彼の周りに集まり、
笑い、泣き、また笑った。
世界は少しずつ軽くなった。布袋影の子どもある日、
布袋尊の前に“影の子ども”が現れた。
その子は泣き続けていた。
親を失い家を失い未来を失い心を閉ざしていた布袋尊は子どもに近づき、
袋を差し出した。
「泣きたいなら、泣けばいい。
涙は袋が受け止める。」
子どもは涙を袋に落とした。
すると――
袋が光り、涙は“笑い声”に変わった。子どもは驚き、
そして初めて笑った。布袋尊は言った。
「笑いとは、 悲しみを否定するものではない。
悲しみを抱きしめた先に生まれる光だ。」
その瞬間、
布袋尊は“真の笑いの神”となった。
七色の光を見上げて布袋尊は空に七色の光が走るのを見た。
それは六柱が見た光と同じ。布袋尊は腹を叩いて笑った。
「ハハハッ!呼ばれているな!」袋が揺れ、
世界が笑った。布袋尊は言った。
「よし、行こう。七柱目として!」
島へ向かう布袋尊は袋を背負い、
笑いながら、島へ向かう。




